アウディA1は2010年3月のジュネーブショーで発表され、ドイツでは8月から、右ハンドルのイギリスは12月、日本では2011年1月から発売されている。
A1は2007年の東京モーターショーに出展されたハイブリッドコンセプトカー、メトロプロジェクト・クワトロ(3ドア)や2008年のパリサロンに出展されたA1スポーツバック・コンセプト(5ドア/ハイブリッド)の延長線上にある。ちなみに2010年3月のジュネーブショーでは、A1のEV版であるA1 e-tronプロトタイプも出展されており、近い将来にはこのEVの追加も予想できる。
A1はフォルクスワーゲングループのVWポロ、セアト・イビサと同じPQ25プラットフォームを採用しているが、車両開発はアウディとセアトがコラボレーションを行っており、VWポロと兄弟車というわけではない。セアトが開発する車両は、グループ内ではアルファロメオのようなドライビングプレジャー追求型ブランドと位置づけられており、そういった意味からもA1は最適と考えられたのだろう。
A1のライバルは、プレミアム・サブコンパクトに位置するBMW MINI、アルファロメMiTo、シトロエンDS3などで、VWポロと比較されがちだが、この点でも直接的な競合関係にはない。またA1はベルギーのホルスト工場、つまりA1だけを作る最新設備を充実させた専用工場で生産されていることも特異な点である。A1はライバル車と同様に3ドアボディのみの設定だが、2011年末頃には5ドアボディも追加される予定といわれている。
コンセプト
A1出現までのコンセプトの流れからわかるように、都市交通におけるハイブリッドシステムやEVを強く意識したモデルで、近い将来にはこうした発展・拡張性が与えられていると考えられる。つまりは、1999年から2005年までヨーロッパで発売されたA2に代わる役割も与えられているはずだ。A2はメルセデスAクラスより200kg以上軽量なオールアルミボディに1.2L・TDIエンジンを搭載し3.0L/100kmを狙った野心作だったが、あまりにコストが高く実験的な性格が強かった。そこで、今回のA1は量産性を考慮したうえで、エコ技術の拡張性をあらかじめ盛り込んでいるといえる。
そうした思惑と同時に、ファッションやライフスタイルを重視するプレミアム・サブコンパクトのセグメントに切り込む目的もあり、A1のターゲットユーザー層は、若い世代で都市部に住む、ライフスタイル優先型の富裕層やセカンドカー需要で、こうしたユーザー層にふさわしいプレミアム・サブコンパクトカーとして企画されている。
またアウディらしさの象徴として、俊敏なシャシー性能、パワフルなエンジンというスポーツ性と燃費経済性に加え、特徴的なルーフのアーチ形状やクーペのようなCピラー、大きなホイールアーチなど斬新なデザインが与えられ、ひと目でA1の素質がわかるようにしている。
ボディ&デザイン
ボディサイズは全長3954mmと4mを切り、全幅は1740mm、全高は1417mmと低く、ホイールベースは2469mm、そしてオーバーハングを切り詰めたスポーティなサイズにまとめている。エクステリアのデザインは、アーチ状のルーフ、クーペのようなCピラー、明確なショルダーラインが特徴的で、エモーショナル、大胆、先進的といったアウディのデザイン言語そのものである。
ヘッドライトは最も新しいウイングデザインを採用し、印象的で若々しく、そして同時に強い個性を感じさせる。バイキセノン・ヘッドライトはオプション設定で、テールランプはワイド感を強調したデザインをしており、特にバイキセノンヘッドライト仕様の場合、テールライトは片側54個のLED/3.5Wが使用され、スーパーレッドの色合いと立体感による独特のテイストになっている。
アーチ状のルーフは、好みのカラーを選択できるコントラストルーフをオプション設定している。また、ドアミラーや、ドアハンドルといった部分から、ボディサイドのダイナミックな造形もアウディらしさを表現している。ボディカラーは、日本仕様では異例の10色をラインアップ。ボディカラーに関するこだわりも強く、オプションのコントラストルーフ(日本仕様ではスポーツパッケージとして設定されている異色ルールカラー)や、インテリアではシート生地のカラー、エアコン吹き出し口のカラードスリーブなど、オリジナルかつパーソナル感を作り出せるようにしている。これらのこだわりはA1というクルマの性格ならではの特徴といえるだろう。
ボディ骨格は、2/3が高張力鋼板、超高張力鋼板を採用している。そして最も強度が必要な部分には熱間プレスされた超高張力鋼板を採用しているが、それはボディ全体で11%程度でありA、Bピラー、ルーフアーチ、リヤの縦通メンバーに適用されている。
高強度/高剛性と軽量化を両立させる高張力鋼板を多用した結果、ホワイトボディ重量は221kgにすぎない。また車両重量は1040kgと、プレミアムサブコンパクトクラスで最も軽量に仕上げられているのだ。さらに剛性感の向上のために1台当たり66mの構造用接着剤を使用している点も見逃せない。
これらにより、きわめて高いボディ剛性は、キャビンの共鳴を抑制することができ、優れた音響特性を持つことができている。あわせてボディパネルの振動を抑制することでプレミアムクラス・レベルの静粛性を実現しているのだ。またこのボディは衝突安全性にも優れ、発売後のユーロNCAPで歩行者傷害対策性能も含め最高評価を獲得している。さらに空力性能にも優れ、ボディフロア下も樹脂カバーで完全に覆われている。CD=0.32はクラストップレベルである。
A1のインテリアは圧巻といえる。ダッシュボードはウイング状に広がり、ジェットエンジンの排気口をイメージした真円の4個のエアベントがアクセントになっている。センターコンソールはヨットの船尾をイメージさせるデザインであり、質感の仕上げは、レトロ感が強いBMWミニと好対照である。インフォテイメントのディスプレーはこのクラスで異例のリトラクタブル式を採用している点も興味深い。
室内照明は、日本仕様ではスポーツパッケージで設定されている先進的なLEDライトを採用している。
2ドアボディのため、フロントシートはイージーエントリータイプで、2名乗車タイプのリヤシートは、人体工学的に造形されている。
インテリアの素材、仕上げは、どの部分を取り上げても上級プレミアムクラスに匹敵する上質なもので、しかも若々しいセンスを取り入れている。例えばインテリアのいたるところにアルミ材が使用され、シート生地の縫い目はトップレンジの車両と同等であり、パーツ同士の合わせ目はゼロクリアランスになっているのだ。
ラゲッジスペースの容量は270L。リヤシートは簡単にフォールドダウンでき、この場合は920Lの容量になり、スキーやスノーボードも収納できる大きさになる。
エンジン&トランスミッション
A1のエンジンは2種類のディーゼルターボがあり、1.6TDIの105ps仕様と90ps仕様がラインアップされ、最高速はそれぞれ、190km/hと183km/hである。一方、ガソリンエンジンは、1.2TFSIの86ps仕様と1.4TFSIの122ps仕様の2種類である。
ガソリン仕様の1.2TFSIは8バルブで、軽量化、低フリクション化が徹底され、電子制御アクチュエーター付きの小型ターボ、インテークマニホールド一体型のインタークーラーを装備している。2系統冷却システムを採用し、噴射圧は150気圧としている。
日本に導入される1.4TFSIは、A1独自のチューニングが行われており、パワーは122ps、最大トルク200Nmは1500rpmから4000rpmというワイドレンジで発揮される。狙いはより低い回転数で使用するということだ。
走行スペックでは、7速Sトロニック(DCT)との組み合わせで、0→100km/hは8.9秒、最高速は203km/h。10・15モード燃費は19.4km/L、ヨーロッパモードで5.2L/100km 、CO2排出量は119g/kmとなっており、燃費経済性も高いレベルにある。
なおヨーロッパでは、1.4TFSIのパワーアップ版として185ps仕様がすでに追加設定されている。ここで詳解しているいずれのエンジンも、ブレーキエネルギー回生システム、スタート&ストップシステムを装備している。
トランスミッションは乾式ツインクラッチタイプの7速Sトロニックである。このSトロニックの全長はわずか37cm、重量70kgときわめてコンパクトにまとめられている。Sトロニックの制御は、Dモードではより早くシフトアップし、低いエンジン回転を常用するように制御され、Sモードでは高回転シフトタイプに変化する。もちろんヒルホールド機能も内蔵されている。なおヨーロッパ仕様では6速MTも設定されている。
シャシー
A1のシャシー性能はプレミアム・サブコンパクトクラスで最もスポーツ性の高いチューニングを指向し、市街地ではきわめて俊敏に、郊外道路では正確で安定した、そして高速道路では快適な走りを目標に開発された。開発エンジニアは、特に前後の荷重配分に注目し、フロントオーバーハングはわずか808mmに切り詰めている。前輪荷重は搭載するエンジンによるが61〜63%である。こうした荷重配分を優先するため、バッテリーはリヤのラゲッジスペース下に配置されている。
フロントサスペンションはストラット式で、リヤはダンパー、コイル別置きタイプのトーションビーム式だ。フロントサブフレームは高張力鋼製である。採用されるダンパーは、ツインチューブ式で、ウレタン製補助スプリングを装備している。この他にスポーツパッケージ用のスポーツサスペンションも設定され、さらにクワトロ社がチューニングしたSライン・サスペンションも用意されている。
パワーステアリングは電動油圧式を採用している。モーターにより油圧を発生させ、車速に応じてパワーアシスト量は変化し、また舵角が大きくなるとアシスト量は大きくなるというシステムのものだ。そのステアリングフィールはナチュラルで、フィードバックや正確性もきわめて重視されている。そしてギヤ比は14.8ときわめてクイックなことも大きな特徴だ。
電子制御システムとしては、ESPと統合制御される電子制御デフロッキングが装備される。電子制御デフロッキングは、イン側のホイールに自動的に軽くブレーキをかけることで旋回性を高め、運動性能を向上させる役割を果たす。
タイヤは205/55R15、215/45R16、215/40R17の3種類を設定。ヨーロッパ仕様はSライン用に225/35 R18も設定されている。
現在のプレミアム・サブコンパクトのカテゴリーは、BMWミニによって切り開かれたが、レトロ風味のBMWミニ、フィアット500に対してアンチレトロのDS3、アルファロメオMiTo、そしてドイツ・プレミアムから参戦したA1と多彩な顔ぶれがそろった。このカテゴリーは個性の強さや、ファッション性だけでなく、コンパクトカーらしい楽しさや面白さという視点でも注目に値すると思う。
文:編集部 松本晴比古
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