【アウディ】 新型A8詳細解説

新型A8(D4)はヨーロッパでは2010年春にベールを脱ぎ、日本でも昨年12月から発売が開始された。ただ、その全体像はほとんど詳解されていなかったので、改めて核心部分を総括してみることにした。

アウディは新型A8を、ラグジュアリークラスで最もスポーティなセダンと自称している。もちろん『技術による前進』という企業スローガンを体現するとともに、現在の課題である燃費、CO2の低減を行いながら、フラッグシップとしての洗練を深化させている。

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開発コンセプトは『アートオブプログレス』(革新の美学)。日本でのラインアップは、4.2L・V8型のFSI(直噴)と、ダウンサイジングを前面に打ち出したスーパーチャージド3.0L/V6型のTFSI(過給直噴)の2機種で、ボディは標準モデルとVIP用のロングホイールベース(L)がある。ヨーロッパではディーゼルターボの4.2L/TDIと新開発の3.0L/TDIもラインアップされ、グレード的には4.2L/TDIがトップモデルである。

 

デザイン

エクステリアデザインは、より個性を強調した力感のあるボディのラインにより、強い表情を作り出しているが、アウディ流のインテリジェンスも巧みに織り込んでいる。

全体のフォルムはCピラーを縮めることで、クーペのようなルーフラインを形成。ボディサイドは明確なコントラストを作り出すシャープなプレスラインを描いている。

シングルフレームデザインのフロントマスクはより強いプレゼンスを訴求し、立体的に演出。さらにフルLED(3.0はオプション設定)のヘッドライトやエアインテークのデザインで強い個性を浮き立たせている。そのフルLEDヘッドライトはアウディR8が世界で最初に採用したもので、A8はそれを受け継いでいる。色温度は5500ケルビン。ロービームは10個のレンズを使用。また、ウインカー、デイライトライト用として22個の白と、同数の黄色LEDが働き、高出力LEDがハイビーム&コーナリングライトとして機能するようになっている。また、テールランプもフルLEDで、片側72個のLEDで構成。消費電力は片側当たりわずか9Wだという。

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ボディ

新型A8のボディサイズは、従来型より少しサイズアップされ、全長5137mm、全幅1949mm、全高1460mm、ホイールベース2992mm。Lボディのホイールベースは3120mmとなる。

A8のボディは初代からからオールアルミ骨格&外板のASF(アウディスペースフレーム)を採用してきたが、今回新設計され、さらに大幅な進化を遂げたといえる。

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↑アルミニウムボディの骨格

開発コンセプトは、さらなる軽量と高強度化であり、ホワイトボディ重量は231kgを実現。通常のスチールボディの約70%の重量に仕上がっているという。

この結果、4.2Lエンジンを搭載するA8クワトロの車両重量は1835kgと、ライバルより軽量である。ちなみに、メルセデスS350は1900kg、S550は1980kg、BMW750iは2040kgである。

ASFの骨格構造も進化し、主要なフレームはアルミ押し出し材とダイキャスト材で構成。ルーフやボディサイドなどのパネル材は摩擦接合を採用している。

A8で使用しているアルミ材は合計13種類にもおよび、真空ダイキャスト材は大入力を受ける箇所に採用されているが、ダイキャストを使用することでデザインの自由度も大幅にアップするというメリットもあるのだ。また、強度と軽量さを特に追求する部位、センタートンネル、フロアクロスメンバー、フロントガラスクロスメンバーなどには新開発の溶融合金アルミが使用されている。

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↑溶融合金アルミ材使用部位と、フレームの断面図

最も強度が求められるBピラーは、ホットプレス製法で作られた、超高張力鋼板とアルミ材の複合構造を採用したこともASFの革新といえる。また、アルミ材との結合にはセルフタッピングネジが採用され、高速ロボットがネジ止めする。なおA8のボディを製造するにあたり1847ヶ所のセルフピアッシングリベット、632ヶ所のセルフタッピングネジ、202ヶ所の溶接、25mのMIG溶接、6mのレーザー溶接、44mの接着剤接合が採用されている。

ルーフパネルとルーフサイドレールの結合もレーザーシーム溶接され、他車のような継ぎ目カバーがないのが大きな特徴だ。さらにアウターパネルの公差は0.1mm以下とされ、美しい見栄えに仕上がっているところは競合車を上まわる点だ。

ニューA8はボディ全体でかなり軽量化を行っているが、静的なねじり強度は従来型の25%、動的ねじり剛性は15%アップとなり、このクラスの頂点に位置している。振動騒音対策も一段とハイレベルになり、サブフレームやバルクヘッドの構造を見直ししたり、空洞部のシールを徹底、さらにマイクロファイバーフリースを吸音材として採用するなどして対策されている。

なお、このASFボディは自動車メーカーのエンジニアが審査する2010年ヨーロッパ・ボディオブザイヤー大賞を獲得している。これは、オールアルミ製であること、従来型より30kg軽量化され、同時に剛性を20%高めたことや新しいアルミ骨格の生産技術が評価されたことになる。

ラグジュアリークラスのセダンにとって前席だけでなく、後席の居住性もきわめて重要視されるが、A8はファーストクラスの居住快・適性を提供する。ホイールベースの延長によりニースペース、ヘッドクリアランスともにクラストップの余裕を生み出しており、リヤシートはシートバック上部角度やランバーサポートなども含めフルアジャストシステムを採用している。

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空力では前面投影面積2.41mで、Cd=0.26を達成。床下の完全フラット化やエンジンルーム通風を見直すことはもちろん、ドアミラーまで徹底的に空力的な改良が行われているのだ。

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A8のインテリアはデザイン、装備、人間工学的な見地からラグジュアリークラスの新たな基準を作り上げたといってもよい。インテリアのデザイン基調はラップラウンドで、ダッシュボードだけでなくリヤシェルフまで統一的にデザインされている。

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装備面では、一段と進化したMMI(マルチメディアインフォメーション)がハイライトだろう。より洗練され直感的に操作できるMMIコントロールには、MMIタッチ、すなわち専用タッチ画面に指先で文字の手書き入力ができるようになっている。オーディオは従来と同様に19個のスピーカーと、最大出力1400Wのアンプを備える究極のオーディオ、バング&オルフセンがオプション設定されている。

 

エンジン&トランスミッション

4.2Lの90度V8型・FSIエンジンは372ps、445Nmを発生する。これは従来モデルの同じエンジンよりパワー、トルクともにアップされている。0→100km/h加速は5.7秒、最高速は250km/hリミッター設定となる。燃費はEUモードで9.5L/100kmで、従来型の同じエンジンより13%燃費を向上させている。またCO2排出量は219g/km、10・15モード燃費は8.3km/Lとなっている。

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カム駆動は2ステージチェーンで、4本のカムシャフトは最大作動角40度の可変タイミングシステムを装備する。シリンダーはアルミ/シリコン合金製で、ライナーレス構造。エンジン重量は197kgときわめて軽量だ。樹脂製インテークマニホールドには、可変フラップバルブを内蔵した可変インテークである。直噴システムはコモンレール式で、最高噴射圧は140気圧。冷却効果の高いウォール噴射を行うためエンジンの圧縮比は12.5まで高められている。またこのエンジンは全域で心地よいサウンドを発生するようにチューニングされており、そのため、例えばエアコンコンプレッサーにはダンパーが装備されている。

3.0LのV6型・TFSIエンジンはダウンサイジングコンセプトを採用した新世代エンジンであり、直噴3.0Lの排気量にスーパーチャージャーを組み合わせ、290psのパワー、420Nmのトルクを発生する。エンジンとしてはアウディS4に搭載されているものを、A8の性格に合わせてチューニングしたといえる。10・15モード燃費は9.2km/Lとなっている。V8型エンジン同様に減速エネルギー回収システムも備えている。

トランスミッションはZF製の8速ティプトロニックを搭載する。また駆動システムはクワトロを採用。さらに4.2Lモデルにはスポーツデファレンシャルがオプション設定されている。

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↑6速ATと同クラスのコンパクトサイズを実現したZF製8速ティプトロニック

8速ATの変速比幅は7.0で、クロス&ワイドレシオを両立。またN制御やATFウォーマーシステムなども採用し、この8速ATは従来型の6速ATに対して6%の燃費向上を果たしている。またATセレクターはシフトバイワイヤーを採用し、超ショートストロークの作動が可能となっている。

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↑フライバイワイヤを採用することで、シフトレバーが繋がっていない

クワトロシステムのセンターデフは新開発の油圧ダンパー付きで、振動を強力に押さえ込んでいる。センターデフの基本的な前後配分は40:60で、リヤには最大80%、フロントには最大60%が配分できるようになっている。なお前後のアウトプットには、従来のフランジジョイントに代えてカルダン等速シャフト(自在継手)が採用され、軽量化とスムーズなトルク伝達を両立している。これにより、低速・大舵角時などの駆動振動を解消しているのだ。

シャシー

A8はラグジュアリークラスセダンの中で最もスポーティな性格を持つというのは、そのシャシーによるところが大きく、正確なステアリングと運動性能、スタビリティ、快適な乗り心地を実現しているからだ。

電子制御システムとしてはアダプティブ・エアサスペンション、ドライブセレクトを標準装備し、連続可変ギヤ比が可能なダイナミックステアリングを4.2Lモデルにオプション設定している。シャシーのサイズはロングホイールベース、ワイドトレッド、大径ホイールが特徴だが、このビッグサイズにもかかわらず走り出すと俊敏性、意のままの操舵感、圧倒的ともいえるトラクションを実感することができる。

まずはサスペンションだが、ラグジュアリークラスの基準となった、フロントのオールアルミ製ダブルジョイント式ダブルウイッシュボーン(4リンク)はA8が元祖であり、現在のA8はより横剛性の高い5リンク式に進化してる。このフロントサスペンションは仮想キングピン軸とホイールセンターとのオフセットが最小に設定でき、質感の高いダイレクトな操舵感が実現している。

このサスペンションの従来型との大きな相違点は、フロントサスペンションの取り付け位置を145mm前進させていることだ。この移動とバッテリーをトランクに搭載することで、前後荷重配分を改良しているのだ。また1644mmという超ワイドなトレッド幅は、クラス最大である。

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↑理想的な仮想キングピン軸を得るためのフロントサスペンションの取り付け

フロントサブフレームは、高張力スチール製でX字型補強材を組み合わせて採用し、きわめて高い剛性を備えており、ステアリングの遅れを抑え込んでいる。ステアリングギヤのマウント位置はホイールセンターに近い低い位置のサブフレームに移動され、さらにダイレクト感を向上させている。

車速感応可変ステアリング、サーボトロニックシステムを持つステアリングのギヤ比は16:1で、アルミダイキャストケースに収納されている。またパワーアシストは新開発のベーンタイプポンプを採用し、必要なときだけ油圧を発生させる仕組みで、燃費を向上させるのに役立っている。

トラペゾイダル式リヤ・サスペンションも見直され、トレッドは1635mmに拡大している。さらに、よりピッチングを抑制するようにジオメトリーも改善されている。

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ダンパーストラットは、従来型がアッパーリンクに取り付けられていたのに対し、新型はハブ・キャリアに直付けされ、レバー比を30%改善している。したがって、ばね下重量も軽量化され、2本のトラペゾイダルリンクは加熱処理されたアルミ鋳造材に、ハブ・キャリアはチル鋳造アルミ材(急速冷却製法)に、トップリンクトラックロッドはアルミ鍛造材としている。

リヤサブフレームはハイドロプレスで作られた高張力鋼製で、横方向にリジッドで、前後方向にコンプライアンスを持つように液封マウントされている。

サスペンションはハイレベルのエアサスペンション・システムを装備する。空気はコンプレッサーにより18気圧まで加圧され、容量5.8Lのアルミチャンバーに蓄圧されている。ストラットは新設計され、エア容量を増大し微小な空気圧力変化でも寸時に応答するように改良されている。またZF製の4輪独立連続可変ダンパー(CDC)の特性もソフトウエアを改良するなど熟成されているという。

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↑A8の快適な乗り心地を支えるエアサスペンション

車高制御は、コンフォートモードでは作動せず、オートモードでは120km/h以上が30秒間続くと20mmダウンする。ダイナミックモードでは最初から10mmダウンの車高とし、車速が上がると自動的にさらに20mmダウンするように制御されている。これ以外に80km/h以下では、25mm車高アップするリフトモードも設定されているが、100km/hに達すると自動的にキャンセルされる仕組みだ。もちろん制裁荷重の増減によっても自動的に車高は調整される。

A8のドライブセレクト(性能総合制御)は、アダプティブエアサスペンション・システム、エンジン、アクセルペダル、AT、ステアリング、ベルトテンショナーが一体制御されている。ドライブセレクトは、コンフォート、オート、ダイナミックの3モードの設定となっている。

ブレーキは熱安定に優れた2ピース式ディスクを採用。アルミ製ベルと新開発された鋳鉄ディスクをステンレス製ピンで結合する方式で、まさにスポーツカーのブレーキだ。

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↑独特な形状をしたローターフィンのベンチレーテッドディスク

このように、新型A8はラグジュアリークラスで頂点の位置を確保するため、アルミボディ構造を新設計し、8速トランスミッション、エンジンの改良、シャシーの改良からドライバー支援システムのフル装備など、広い領域に渡って進化を遂げている。さらに、室内に使用されている素材や仕上げも一段と質感を高め、アウディのフラッグシップにふさわしいモデルチェンジを遂げたということができる。

文:編集部 松本晴比古

アウディ公式Web

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