レトロゲームが大人たちの間で密かなブームに
最近ファミコンをはじめとするレトロゲームが、ファミコン世代の30代から40代の間で密かな人気となっています。<レポート:北沢剛司/Koji Kitazawa>
レトロゲームはシンプルな内容が逆に新鮮で、最近のリアルなゲームの間にレトロゲームをプレイすると、なんだかホッとしたりします。また、レトロゲームに対応したゲーム互換機が発売されたり、最新のゲーム機器でプレイできるダウンロード版もあります。特にダウンロード版は数百円で購入できるものが多く、大人が気軽にポチッとできるのも魅力です。
子どものときからクルマ好きだった筆者にとって、テレビゲームはレースをバーチャルに楽しむためのプラットフォームでした。そのため、『スーパーマリオ』や『ドラクエ』よりもクルマのゲームばかりしていました。なかでも任天堂が1984年に発売したファミコンソフトの『F1 レース』は、これまでにないスピード感と擬似的な3D画面に衝撃を受けました。また、自車がターボ車になるという裏技もあり、別次元の速さは当時の少年たちを虜にさせました。
しかし、当時中学生だった私のまわりではその裏技に成功した者はなく、2016年で46歳になる筆者もこれまで試したことはありませんでした。そこで今回は少年時代の輝きを取り戻すべく、発売から32年が経過した『F1 レース』の裏技に今あえて挑戦してみることにしました。
現役で使えるAV仕様ファミコンでトライ!しかし…
レトロゲームを楽しむにはいろいろな方法があります。今回試したのは『AV仕様ファミコン』。ファミリーコンピュータの後継機として任天堂が1993年に発売した製品で、その名の通り初代ファミコンのRF出力からビデオ出力に仕様変更したのが特長。筐体やコントローラーも小型化され、あっさりしたデザインに変更されました。ビデオ出力のため、RCA端子が備わるテレビなら今でも普通に使えるのが最大の魅力です。当時は7,000円で発売されましたが、初代ファミコンに比べてタマ数が少ないため、新品は現在3万円程度で販売されています。
そんなAV仕様ファミコンに『F1 レース』のカセットを挿し、早速スイッチをONにしてみました。しかし、画面に映ったのはザラザラとしたノイズだけ。急いでスイッチを切り、カセットの端子部に「フーフー」と息を吹きかけてから挿し直すと、シンプルなタイトル画面が現れました。実はカセットの端子部に息を吹きかけてホコリを飛ばすという行為は、サビの原因になるため止めたほうが良いそうです。でも、ついつい反射的にやってしまうのは昔のクセが染み付いている証拠でしょうか。
肝心の『F1 レース』は、現代の『グランツーリスモ』のようにブレーキングで前輪に荷重をかけて旋回するとか、ドリフトをコントロールするような実車テクニックは必要なく、ひたすら反射神経で前車をオーバーテイクしていく内容。コースは全10種類で、3つの難易度別に最初のコースが異なり、5コースまで走行できます。コースは基本的に2ラップするとクリア。制限時間がなくなるとゲームオーバーで、5コースのみ制限時間がなくなるまで走行できます。
ハンドリングは典型的なアンダーステアで、コーナーで膨らんだ場合はアクセルのAボタンを放してエンブレで戻すか、Bボタンのブレーキで速度を落とすしかありません。ギヤはLOWとHIの2段マニュアルトランスミッションで、LOWの最高速は223km/h、HIは裏技のターボを使えば497km/hです。敵車の速度は約200km/h強のため、ターボ使用時の速度差は最大で200km/h近くに達します。そのため、敵車の位置を瞬時に判断してすり抜けるテクニックは難易度が高く、グランツーリスモのように実車のテクニックを駆使した大人の英知は通用しません。
いま改めてプレイすると、かつて簡単にクリアしていたステージがまったくクリアできないことに愕然とします。思えば、先日試しにプレイしたシューティングゲームの『スーパーゼビウス ガンプの謎』でも、敵のミサイルを避けきれずすぐに被弾してしまうケースが多発。動体視力が落ちたのか?それとも脳と指先の連携が低下したのか?などと思い始め、本来楽しいはずのゲームが妙な不安を抱く結果に…。
肝心の裏技であるターボとは、車速が416km/hに達すると最高速が一気に497km/hまで上がり、コーナーも驚異的なグリップでクリアできるというもの。例えばオーバルコースの場合、成功のコツはコーナー脱出時の速度を380km/hくらいまで高めてからイン側をキープし、ストレートエンドでもそのまま直進して可能な限り最高速を高めること。一度ターボ化に成功すれば、クラッシュしてもゲームオーバーまで効果が維持されるため、手軽にゲームをクリアするには必須のテクニックといえそうです。
予想以上の難易度についムカッと!
しかし、インターネットの情報を参考に裏技を試してみるも、416km/hに達しなかったり、敵車に進路妨害されて爆発炎上したりの繰り返し。こんなにリセットボタンを連打したのは、おそらく30年ぶりでしょう。ひとつ発見したのは、リセットボタンを押してすぐにリスタートすると背景が泥濘地のコースになること。毎回見ているとお仕置きコースのように思えてきたので、タイトル画面に戻ってからコントローラーの上を10回、下を10回押してからスタートすると別の画面になりました。もちろん背景の選択はランダムなので、そんなコマンドはまったく無意味でしょう。しかし、敵車の出方などに何か良い影響があるのではないかという神頼み的な行為に走ってしまうのです。
こうして明け方の4時過ぎに悶々としながら何度もリセットボタンを押していると、起きてきた妻に怪訝そうな顔で見られてしまいました。まぁ、朝4時に起きてファミコンをしているなんて、どう考えてもまともな大人とは思えません。「きっと妻は結婚したことを後悔しているに違いない」などと雑念が入ってしまい、またしても失敗。30年ぶりにコントローラーを投げつけたくなる衝動に駆られましたが、AV仕様ファミコンは今や貴重なコレクターズアイテム。何とか必死に思いとどまり、自分の髪をかきむしるという代替行為で踏みとどまります。
2時間近くやっても一向に成功しないので、気分転換にレベル3に挑戦してみました。しかし、裏技以上に難易度が高く、かえってストレスを溜めるハメに。最後は居たたまれなくなって、残り0秒になった瞬間にポールに激突するという自爆フィニッシュで終了しました。
最後のチャレンジで神降臨!?
レベル2とレベル3の画像を記録できたので、最後にもう1度だけ裏技にチャレンジしてみました。「このままだと原稿の締めはどうしたらいいだろうか?」オチのない内容をどうまとめるか悩みます。「結局、大人になってからの再チャレンジは非常にハードルが高く、裏技のターボを出すことは叶いませんでした。あの頃に帰りたい…」というオチにしようかと、ぼんやり考えながらスタート。案の定、バックストレートエンドではいつものようにスピードが伸びず失敗。2周目のメインストレートでも進入時に縁石に乗ってスピードが落ちる始末。やっぱり駄目かとストレートエンドまできたとき、甘美な瞬間が訪れました。
いつもは敵車に妨害されて爆発必至のストレートエンドで車速がついに415km/hに。そして416km/hに達した瞬間、ついに自車のタービンが回りはじめたのです!そのまま車速を上げていくも、はじめての体験に動揺してそのままポールに激突。しかし、次のバックストレートでは甲高い咆哮を上げながらターボがフルブースト状態となり、497km/hの最高速をマーク。まるでエンジンがコスワースDFVからTAGポルシェになったような変貌ぶりです。そしてコーナーでも最高速のままクリアするという離れワザを見せてくれました。
残念ながら、この驚異のスピードに目が付いていかずクラッシュを連発。人生初の裏技ターボ体験はわずか2コースでフィニッシュとなってしまいました。
しかし、当時できなかった裏技のターボを体験することができて個人的には大満足。30年前の宿題をやり終えたような清々しい体験でした。
単純だからこそ奥が深いレトロゲームの世界。さて次は何をプレイしてみましょうか。