【清水和夫の 俺の話を聞け 】ゴルフを超える!マツダ スカイアクティブX搭載のアクセラをひと足先にドイツで試乗

2017年8月初旬、マツダから再び革新的エンジンの発表があった。「SKYACTIV X」だ。SPCCIという燃焼方法を持つスカイアクティブXを搭載したテスト車両に、国際モータージャーナリストの清水和夫氏がいち早く試乗した。早速そのレポートをお届けしよう。

スカイアクティブX搭載の次世代シャシーのテストカー。外装は現行アクセラ
マットブラック塗装のテストカーはプラットフォーム、シャシーも次世代モデルを搭載。外装のみ現行アクセラだ

2020年、マツダは企業として操業してから100年目にあたる記念すべき年となる。その時マツダは新しい自動車メーカーに生まれ変わっているかもしれない。自動車メーカーとして安全と環境に正面から取り組み、多くのユーザーに走る楽しさと誇りを提供するはずだ。そのビジョンが2007年の「サスティナブル・Zoom-Zoom”宣言(持続可能なモビリティ)」であった。

全く新しい内燃機関「スカイアクティブX」に試乗する清水和夫氏
全く新しい内燃機関「スカイアクティブX」に試乗する清水和夫氏(→)

その戦略が明らかになったのは2010年10月。スカイアクティブ・テクノロジーが発表され、その先進的な技術で驚いたのは「SKYACTIV-G」と「SKYACTIV-D」と名付けられたガソリンとディーゼルエンジンだった。ガソリンは圧縮比が14と高く、ノッキングの限界を超えていたが、マツダはその常識を打ち破った。一方、ディーゼルはディーゼルとしては異例に低い圧縮比14を実現した。

スカイアクティブX 圧縮着火にこだわる理由
圧縮着火へのこだわりがスカイアクティブXを生み出した

低圧縮は理論的にはNOx(ディーゼルの敵となる窒素酸化物)の排出が抑制できるので、研究されているが、プラグを持たないディーゼルの場合、万が一でも失火したら、黒い煙を吐き、レッドカードで退場となる。とにかくディーゼルは高効率(低燃費=低炭素)で、低排出ガスのクリーンエンジンになったのだ。

■世界中のメーカーの常識外の技術を成し遂げる、マツダの快挙は同じ日本人として痛快だった

ところで、マツダはもう一つ戦わなければならないことがあった。フォルクスワーゲンが最初に提案したダウンサイジングターボに対してだった。VWが開発した1.4LターボTSIエンジンはダウンサイジングターボのトレンドを作った。その証拠にVWの主張を後追いするように、欧州メーカーは続々とダウンサイジングターボに傾斜していった。年々厳しくなるEUルールの低炭素政策がディーゼルを拡大させ、ガソリンエンジンのダウンサイジングターボを進めていた。たしかにカタログに記載されるモード燃費は優れていたし、実際に走ってみるとTSIエンジンは気持ちよかった。

マツダ 2035年に向けてのロードマップ
マツダの2035年に向けてのロードマップ

そのとき、日本はトヨタとホンダはハイブリッドで対応し、世界市場では日本のハイブリッドが欧州のディーゼルとダウンサイジングターボと戦っていた。果たしてどちらに分があるのか。

ところがマツダはハイブリッドも持っていないし、ダウンサイジングターボにも異論を持っていた。マツダの主張は排気量を小さくすることは効率の点で有利ではないと考えていた。その考えを実証したのが「SKYACTIV-G」だったのだ。

■欧州メーカーから見た日本のハイブリッドと「SKYACTIV-G」エンジンはどう見えていたのだろうか

2014年頃からドイツメーカーの中でもダウンサイジングターボは意味がなく、ライトサイジングターボ(正しいサイズ)と言い換えるようになってきた。2017年頃から施行されるWLTP(Worldwide harmonized Light vehicles Test Procedure)とRDE(Real Driving Emission)を考えると、ダウンサイジングターボは見直すべきだとドイツメーカーも考えるようになってきた。

「地球」の課題解決のアプローチ WELL-TO-WHEEL
原油が採掘される井戸からクルマまでの過程でCO2削減を考える重要性

そもそも欧州はルールを自分たちで決めて技術開発するやり方が定着している。WLTPは試験の走行モードを見直し、日米欧の走行モードをハーモナイズする新モードだ。アイドル時間やコールドスタート、平均速度、最高速度などが見直さるが、シャシーダイナモを使ったインドアの試験モードなので、どこまで実用的な燃費や排ガス値と合致するかは疑問が残る。所詮は台上試験の話だ。

そこで、ディーゼル問題で端を発した欧州ではRDEという実際の路上を走らせる試験も実施される。いろいろなモードで実車走行することが正しい技術開発に繋がるが、どう頑張っても基準を策定するにはある程度の一貫性がないといけない。

いずれにしてもWLTPとRDEでクルマの排ガスと燃費性能は良い方向に行くことは間違いないが、カタログ値を狙ったピンポイントの技術は淘汰されることを期待したい。

■スカイアクティブX搭載のアクセラに試乗inフランクフルト

スカイアクティブX搭載のアクセラ フランクフルト郊外の一般道とアウトバーンを快適に走る
フランクフルト郊外の一般道とアウトバーンを快適に走る

マツダが2010年にリリースした「SKYACTIV G」と「SKYACTIV D」はシーズン1にすぎなかった。当時から予言していたとおり、「SKYACTIVテクノロジー」には次の一手が用意されている。つまりシーズン2が存在していた。

その新しいシーズン2の「SKYACTIVテクノロジー」が今回ドイツで明らかになった「SKYACTIV X」だったのだ。GとDに続いてXが登場したが、そのエンジンを搭載したアクセラのプロトタイプに試乗することができた。だいぶ、前置きが長くなったが、ここで「SKYACTIV X」の全貌を明らかにしてみよう。

フランクフルト郊外のマツダR&D スカイアクティブX
フランクフルト郊外にあるマツダR&DでスカイアクティブXを試乗

試乗会はフランクフルト郊外にあるマツダのR&Dセンターで行なわれた。目の前に現れたのはフラットブラックのアクセラだ。外観は現行アクセラのスタイルだが、中身は次世代の新規プラットフォームを持っている。ボディとシャシーの話は後で述べることにするが、エンジンルームに収まるエンジンは2.0L 4気筒の「SKYACTIV X」だった。大きなエンジンカバーで覆われているので、中身をじっくりと見ることはできないが、ベルト駆動のルーツブロア式スーパーチャージャーによってシリンダーに空気を送り込みリーンバーンを実現している。

試乗コースは50Kmと短いが、アウトバーンと市街地が混ざったコースをドライブした。「SKYACTIV X」は6速トルコンATと6速MTの2台に乗った。

スカイアクティブX 高応答エア供給機
高応答エア供給機=ベルト駆動のルーツブロアスーパーチャージャーで圧送する

試乗のポイントはエンジンのドライバビリティと音振動だ。「SKYACTIV X」の原理は後で述べるが、印象は静かで2.5Lの自然吸気のようなトルク感だった。最近のエンジンは急速燃焼は高圧噴射などで音が大きくなる傾向にある。この「SKYACTIV X」も従来の直噴圧よりも大幅に大きな噴射圧で噴いているので、ディーゼルのような音が気になったが、実際に走ると遮音がうまくいっているようで、とても静かだった。噴射圧は明らかにされていないが、おそらく500Barから800Barとガソリンエンジンとしては非常に高いコモンレールを持っているようだ。

スカイアクティブX 実物のエア供給機部
実物のエア供給機部

■SPCCIエンジンとは

スカイアクティブX 高回転加速特性
スカイアクティブXは高回転まで持続する加速も特徴だ

「SKYACTIV X」はリーンバーンによる圧縮自着火を実行するが、スパークプラグによる点火がトリガーとなるので、マツダはSPCCI(Spark Controlled Compression Ignition)と命名している。以前より研究されてきたガソリンの自着火エンジンとして知られる「HCCI」(ホモジニアス・チャージ・コンプレッション・イグニッション)とは似て非なるものかもしれない。

SIとHCCI プラグ点火と圧縮着火の違い
プラグ点火と圧縮着火の違い

自着火の難しいところは、いつ同時多発点火するかわからないこと。精密にコントロールするには各シリンダーに圧力センサーを取り付ける必要がある。マツダの「SKYACTIV X」も同じで、圧力センサーで自着火する直前の状態をコントロールする。

ブレイクスルー スパークプラグを制御因子とした圧縮着火
膨張火炎球がおおきくなり自己着火を誘発するブレークスルー

というのはトリガーはプラグなので、プラグの周辺はストイキ(理論空燃比)で混合気を作っておく。その周りを希薄状態(リーン)とするが、そのためにスーパーチャージャーを「エア・サプライ」(空気供給器)として使っている。だが、まだリーン状態は自着火させない。

自着火させる直前の状態を維持し、プラグ点火によるストイキ燃焼でリーン状態の圧力を高める。その結果、燃焼室内各所で自着火するわけだ。つまり、自着火をプラグ点火でコントロールするところがマツダ流。

リーンとストイキ領域でEGRと空気、燃料のコントロールイメージ
リーンとストイキ領域でEGRと空気、燃料のコントロールイメージ

一般的に希薄燃焼するとディーゼルと同じようにNOxの問題がつきまとうが、今回は燃焼室の中央にストイキ(理論空燃比14:1)の混合気を作るので、三元触媒が使えるメリットが大きい。このエンジンは一般的な過給エンジンほどのトルクはないが、2.0Lの自然吸気エンジンのトルクよりも30%ほど出力は高く、プロトタイプは190PS/230Nmのパフォーマンスだった。気になる燃費は30%改善されるが、走り方の違いでも燃費が大きく変化しない「ロバスト性」が高いことが、実用燃費を向上させる。

■リーンバーン燃焼のキモ

ところで希薄燃焼(リーンバーン)に圧縮自着火がなぜ効率を高めるのだろうか。その一つは大量の空気を取り入れるので、部屋の窓を全開で開けたようにスロットルが開く。つまりポンピングロスが減少する。二つ目の理由は空気は比熱が大きいので、プラグ点火した熱がシリンダー壁に伝わりにくく、熱損失が少ない。こうした理由でエンジンの熱効率が高まる。

圧縮着火と熱効率
ポンプロスが減り、熱比率でも熱損失が少ない

だが、マツダのエンジン技術を牽引する人見さんは「パラメーターが11個もあり、複数のモードを実行すると数千万通りのシミュレーションが必要」と開発の苦労を聞かせてくれた。また、スーパーチャージャーをエア・サプライとして使っているが、モーターチャージャーならもっと緻密に制御できるので、48Vの可能性を聞くと、前向きに検討しているとの答えが帰ってきた。

■新型プラットフォーム&シャシー

マツダ 次世代プラットフォーム
次世代プラットフォームも公開された

ATとMTで試したが、燃費の差は少なかったが、驚いたことは、ハンドリングと乗り心地の良さだった。この次世代プラットフォーム、次世代シャシーなら車格が一段上のクルマに乗っている感じで、ゴルフを超えたかもしれないと思ったくらいだ。

ハンドルを握る清水和夫氏。ゴルフを超えたかもしれない・・・と

マツダのSKYACTIVテクノロジーは2020年に操業100年を迎えるので、その時にもっと大きな進化を遂げそうだ。アクセラがここまで上質になると、アテンザクラスはFRが必要かもしれない。ジャパンプレミアムの代表選手として、マツダが大きく羽ばたくときが楽しみではないか。

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