国際モータージャーナリストの清水和夫氏のコラム原稿が久しぶりに届いた。原因はトランプだ。アメリカの政策転換によって国内の自動車産業が打撃を受ける可能性が出てきた。日本の自動車産業はグローバル化することで成長し、その先も見続けてきていた。しかし、その根幹が揺らぎ始めたというのだ。早速清水和夫氏の話を聞いてみよう。
最近、驚くような出来事が世界で起きている。つい先日もアメリカの次期大統領選挙でトランプ氏が勝利し、正式に大統領に選出された。1月のアメリカはトランプ大統領の砲撃が止まらず、自動車産業ではメキシコと日本がターゲットにされている。
この話は自国の雇用を守るという選挙公約通りのことだが、NFTA(北米自由貿易)からの離脱も訴えている。実はすでにメキシコで作られているクルマで、アメリカに輸入される台数は、日系メーカーよりもアメリアのデトロイト3(GM、フォード、FCA)のほうが圧倒的に多い。だからNFTAからの離脱はデトロイト3にとっても打撃が大きい。
20年以上の時間をかけて築いてきたグローバル化の流れが止まろうとしている。ポストグローバル化は経済の専門家の間でも議論されたきたテーマだが、ローカル化とグローバル化というステレオ型の選択では、ポストグローバル化の答えは見つからない。
私のようにクルマの世界で生きている者にとっては、グローバル化によって急成長した自動車産業が今後どうなるのか気になるところだ。
思い出してみると、タカタのエアバッグ問題の背景にはグローバル化が影響していたかもしれない。大リコールとなったエアバッグには硝酸アンモニムという火薬が使われていたが、この火薬が入ったインフレーター(エアバッグを膨らませる装置)が大量生産されたのが2000年ごろからだ。他の火薬の選択もあったが硝酸アンモニムは火薬としては優秀で、コストも安くインフレーターを小型化できるメリットがあったのだ。その硝酸アンモニウムを安定して使えるように工夫したタカタは世界中の自動車メーカーから注目されたのである。
タカタにしてみれば、ビジネスチャンスが一気に拡大し、日米欧の自動車メーカーから注文が相次いだ。こうしたグローバル化がビッグ・ビジネスのチャンスとばかり、自動車メーカーは部品メーカーに安価で大量生産できる部品や技術を求めた。タカタの場合、当時の技術や経験では未知の領域だった火薬を一気に大量生産したが、振り返ると慎重さが足りなかったかもしれない。
イギリスのEU離脱やトランプ旋風によって、これからの世界は自国の産業や雇用を守る方向に進むだろう。そのとき、安い労働コストで世界中に工場を作っていた自動車メーカーはどんな影響があるのか。しばらくは混沌とした時代が続くのかもしれないが、日本のGDPの稼ぎ頭である自動車産業の行方は心配だ。
トヨタは必死になってアメリカの雇用を醸成していると主張する。官民一体となってトランプ大統領にロビーイングだ。
ポストグローバル化は始まったばかりだ。日本の自動車産業は部品メーカーも含めて70%以上の利益を海外で得ているが、その根幹にあるグローバル化を立ち止まって見直す機会かもしれない。環境や社会に与える負の影響が大きい自動車にとって、タカタ問題のように急ぎすぎるのはよくないと思うのだが。