俺の話を聞け! スズキの不正問題 by清水和夫

清水
国際モータージャーナリスト清水和夫氏

三菱自動車の問題は相川社長、中尾副社長の辞任発表で一連の不正問題は収斂するのかと思ったが、今度はスズキが走行抵抗を実車で測定していないという不正が発覚した。この問題は燃費を意図的に良く見せるためではなかった、と苦しい言い訳を鈴木修会長自らが発言したが、程度の差こそあれ、政府が法令で定めた手順を守らなかったやり方はどうみても不正だ。

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スズキは国交省が走行抵抗計測を自主チェックして報告する、という期限の最後になって、試作車による実車試験を行っていなかった事実を国交省に告げたのである。違法測定の詳細は今後国が調査に乗り出すことになりそうだ。

しかし今回の問題でユーザーが反応したのは、カタログ燃費と実用燃費の乖離であった。ここで気をつけなければならないことは実用燃費とは一体なにを指すのか明解でないこと。同じクルマでもゆっくり走ったケース、高速を走ったケースではスピードが異なるので、燃料消費は大きくことなる。また、パワートレーンの性能では低速が得意なクルマと高速が得意なクルマが存在する。ネットで投稿される実用燃費も曖昧さは残るのだ。

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実用燃費は、ドライバー、走行環境、天候などにより大きく変化し、実際のデータのばらつきは大きい

三菱とスズキの問題を受けて、燃費に対するユーザーの不信を取り除くために、ユーザーが自分のニーズにあったクルマを選べるように、国交省は2018年から導入予定だった新モード(WLTP)を早期に導入する予定だ。さらに欧米で実施されている「市内・高速・混合走行」という3つのモード試験による燃費を公表するらしい。

今後採用が予定される「WLTC」モード
国交省が検討している「WLTP」に従ったWLTC測定モード

■そもそも争点の燃費測定とは

燃費はテールパイプから排出される二酸化炭素(CO2)を根拠とする。室内でシャシーダイナモというタイヤの駆動により回転するローラーの上に試験車を乗せて、実際にエンジンをかけてタイヤを回すのだ。この時タイヤの正確な転がり抵抗や空気抵抗などが発生しないので、事前にテストコースで走らせて走行抵抗のデータを求めておき、室内テストの結果を組み合わせて燃費を計算する。

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当然のことながら、抵抗値が小さいほど、燃費は良くなる。三菱はあえて燃費が良くなるデータを選んでいた。しかも、走行試験は国の定めと異なる手法で行ない、一部データは机上の計算で済ませていたのだ。スズキも走行試験の手法が国の定めと違っていた。テストコースに強風が吹き、試験結果がバラつくため、一部を室内試験に置き換えていたというが、本音は三菱と同じで、走行抵抗の測定に関する開発工数を削減することではなかったのか。

騒動の背景を読み解くうえで重要な事実は、燃費は道路運送車両法の保安基準に基づいて、メーカーが国土交通省に届け出るものであって、規制ではないということ。そもそもシャシーダイナモによる計測は大気汚染対策として定められた、いわゆる53年規制のための試験であった。計測のターゲットは一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)や粒子状物質(PM)。その後、技術的進展でCO2も計測できるようになったので、オマケとして計測し始めた。それゆえNOxやPMには法基準が存在するが、燃費は届出値という位置付けなのである。

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また、ディーゼル車とガソリン車の違いも考慮すべきだろう。NOxやPMはディーゼル車で、より深刻だが、あるエンジニアによれば、かなり制御が繊細だという。走行抵抗データをわずかでも動かすと、NOxやPMのデータが大きくぶれるため、不正ができないらしい。それに対して、ガソリン車は排ガス対策が進んでいるため、走行抵抗を操作しても、法規制対象NOxやPMのデータには大きな影響が出ないそうだ。

だからといって、燃費測定を軽んじて良いはずもなく、まして、意図的に都合の良いデータを採用した三菱の行為が許されるはずもない。対象車両4車種はエコカー減税が適用されているため、三菱に税金の返還請求や制裁金が課される可能性がある。一連の騒動で株価が低迷したため、株主からは賠償請求がなされるかもしれない。そして何より、ユーザーへの補償をどうするのか。燃料代補てんという話も出ているが、議論はまだまだこれからだ。多額の出資を決めた日産は、直接的な損失やブランド価値の毀損を含めても、この買収にメリットがあると考えているのだろう。燃費不正は思わぬ業界再編へと発展している。

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なお三菱は、2016年6月17日に、同社と日産のユーザーへの補償費用として、平成29年度3月期決算に約500億円の特別損失を計上すると発表した。この中には軽自動車4車種以外の登録車5車種についての補償費用、約30億円が含まれている。ユーザーへは1台当り10万円の補償を行なうことが検討されているようだ。日産との資本提携がなかったとしても直ちに経営危機には陥らないというが、ダメージが大きいことは確かだ。

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三菱と同じようにスズキもユーザーや社会の信頼を失ったことは今後のビジネスに大きく影響するだろう。一連の問題から学ぶべきことは、法律違反でなくても、社会倫理を徹底するという成熟した企業の姿勢が問われるのだ。「世のため人のために良いクルマを造る」という本来のあるべき企業姿勢を示すことが両社に求められているのではないだろうか。

COTY
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