清水和夫 俺の話を聞け ガソリンエンジンで周回遅れになった原因はハイブリッド偏重主義だからだ

清水和夫 俺の話を聞け 自動車内燃機関技術研究組合 コンセプト
自動車内燃機関技術研究組合のコンセプト

国内自動車メーカー8社が共同でエンジンを研究する組合が発足した。自動車内燃機関技術研究組合(アイス)と呼ばれているが、構成組合員はトヨタ、日産、ホンダ、マツダ、スバル、三菱、スズキ、ダイハツの各社と、日本自動車研究所、産業技術総合研究所だ。

ことの発端は、日本がエンジン開発で欧州に遅れをとっていることにようやく気がついたからだ。足元を見ると大学機関ではエンジン研究する設備も古く、学生からも人気はない。これでは産学連携が続かないという問題が起きている。そもそもハイブリッドにシフトしすぎたことが原因だったと言われているが、本質的にはもっと根が深いのではと思っている。トヨタとホンダの行き過ぎたハイブリッドシフトはエンジンの基本研究の障害になったことは間違いない。

エンジンでは定評があるドイツの大学機関を日本のメーカーが視察したところ、自動車メーカーが持つような最新のエンジン試験設備が備わっていることに驚いたそうだ。ドイツは産学連携ではなく「産学一体」となっていたのだ。欧州ではエンジンの基礎研究は協調領域という共通の理解の下で、チームジャーマンを形成する。さらにオーストリアのエンジンのコンサルタント会社であるAVL社や英国のリカルド社などによる強力なサポート体制も整っている。

清水和夫 俺の話を聞け AVL
オーストリアのAVL社
清水和夫 俺の話を聞け リカルド
イギリスのリカルド社

こうした欧州の戦略的な動向に気が付かず、ハイブリッドで目先の燃費を削減できると信じていた日本メーカーの完全な失策なのである。

こうした問題は2011年頃から気がつかれ、自動車技術会などでは多くの議論がされてきた。そこで経済産業省がまとめ役となり産学協同の組合「アイス」が発足したのである。当面の事業費は年間7.5億円だが、税金で5億円が経済産業省から支援される。残りをメーカーで負担するというものだ。だが税金を投入する以上、自動車メーカーの反省が必要だ。

経済産業省の自動車組合以外では、内閣府に設置された戦略的イノベーション計画(SIP)に「革新的燃焼技術」を推進するプログラムも動いている。こちらは「日の丸エンジンが地球を救う」という大胆な計画で、実際の研究チームを公募する。この日の丸エンジン計画の目的は2020年までに熱効率50%のエンジンを実用化するというものだ。予算は文部科学省から捻出される。

エンジンの基礎研究では、日本は周回遅れとなってしまったが、マツダのように独自で頑張っているメーカーもあるので、まだチャンスがあるかもしれない。スカイアクティブテクノロジーの生みの親であるマツダの常務執行役員の人見さんは内燃エンジンには大きな可能性があるとしている。仮に石油がなくなっても合成燃料が利用できる時代が来ると信じている。

ところで、最近発行された自動車技術会誌VOL68の人見さんの素晴らしいレポートが巻頭に載っている。興味のある人は取り寄せるか、私のFacebook(https://www.facebook.com/kazuo.shimizu)を見て欲しい。

清水和夫 俺の話を聞け マツダ スカイアクティブ 2.2D
マツダの2.2Lディーゼルエンジン
清水和夫 俺の話を聞け マツダ 人見光男執行役員
ガソリンはミラーサイクル、ディーゼルは低圧縮化で高膨張比エンジンを推進するマツダの人見執行役員

さて、話は10年以上前のことだが、2003年頃から経済産業省で次世代ディーゼル普及検討委員会が開催された。その委員であった私はディーゼルの魅力を発言してきたが、多くの専門家(有識者)はCO2削減の手段としてしか考えていなかったので、「ディーゼルは走りが気持ちいい」という主張は当時の最新ディーゼルに乗っていない委員には通じなかった。

2005年頃に小泉内閣に最終報告をしたが、内容はディーゼルの可能性は大きいが、PMとNOx規制次第という内容であったと記憶している。当時私はCarトップ誌のコラム(2006年7月26日発売号「KAZ’S VOICE」)でこんな原稿を書いていた。

以下Carトップ誌掲載分を引用する。
「今年(2006年)のル・マン24時間レースでアウディが12気筒のディーゼルエンジンで総合優勝したことは記憶に新しい。90年代後半にはドイツのニュルブルクリンク24時間でもBMWのディーゼル車が大健闘していた。こうした欧州で起きたディーゼル人気の秘密はどこにあるのだろうか。そしてディーゼルが悪者にされている日本でも市民権を得られるのだろうか。

ここでは今年(06年)の秋から販売されるメルセデスベンツE320CDIの最新ディーゼルを中心に新しいパワープラントの可能性を考えてみたいと思う。

歴史的にディーゼルは大型車のエンジンとして利用されてきた。大きな力を出しながらも燃費が良いディーゼルは、多少うるさくても商業車には都合が良かった。ところが、90年代中頃に考案されたコモンレール(高圧燃料噴射は1600bar程度~現在2014年は2000bar以上)とターボチャージャーのおかげで、一気に性能が向上した。うるさくスピードがでないと言われたディーゼルが、モータースポーツでも使えるエンジンに生まれ変わったのだ。

最新のメルセデスE320CDIはわずか1600rpmで510Nm(販売されるモデルは540Nm)。なんとSクラスのV8型エンジンよりもトルクは大きい。0-100km/h加速はスポーツサルーン並みの6.8秒。しかもスピードを出しても燃費は12~13km/Lで走破してしまう。燃費の良さと燃料代の安さを合わせると日本では燃料費が半分にまで節約できる。実際はガソリンスタンドにいく煩わしさから解放されるほうがメリットが大きかった。

もともと排ガス規制を緩くして経済性を優先してきたために、日本ではディーゼルエンジンの進化が遅れた。そのために石原都知事の怒りを買うことになってしまったが、それも当然のこと。真っ黒い煙と悪臭を放つディーゼルが市民の生活道路で走る回ることのほうが異常であったからだ。過去はともかく、これだけディーゼルが進化したのだから日本でも普及して欲しい。

気になる大気汚染の原因となる窒素酸化物やPM(浮遊粒子)はどのくらいクリーンになるのだろうか。これから2020年に向けてますます厳しくなる規制にディーゼルはクリアできる道筋がついた、とメルセデスの専門家は考えている。その証拠に日本以上に厳しい排気ガス規制を施行するアメリカではすでに数年前から乗用車ディーゼルが販売されているのである。

人体に有害な排気ガスと地球温暖化の原因でもある二酸化炭素。この両方の物質を削減するにはクリーンディーゼルは不可欠なのだ。しかも、将来、石油以外の燃料、たとえばバイオマスや天然ガスをベースに人工燃料を作ることが計画されている。こうした新燃料の時代になると、ますますディーゼルは有効なのだ。

大きなトルクを発生するディーゼルは、大トルクに耐えるATを持っていない日本メーカーには頭が痛い問題。だが、ホンダもレクサスも欧州ではディーゼルのシビックやレクサスISを販売している。現状ではハイブリッドよりもはるかにユーザーメリットが高いディーゼルを日本メーカーも認めざるを得ない状況になると私は考えている。ハイブリッド偏りすぎたトヨタとホンダの戦略は見直すべきだろう。」(引用以上)

清水和夫 俺の話を聞け メルセデス OM651
最新のメルセデス・ベンツC250 BlueTECH用のOM651型ディーゼル。2.2L・4気筒で204ps/500Nmを発生(日本未導入)圧縮比は16.2

この原稿は2006年に書いたものだが、その秋にはメルセデスが新長期規制で日本にクリーンディーゼルを市販した。続いて2008年には日産がエクストレイルでポスト新長期を初めてクリアしたり、トヨタ以外の日本企業はディーゼルを国内で市販するような気運が生まれていた。しかし日本メーカーでディーゼルを主軸にしたのはマツダだけだった。

その遅れを取り戻すための自動車組合、冒頭の「アイス」が発足されたが、根本的な原因を直さないと組合も絵に書いた餅になってしまわないだろうか。

 

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筆者、国際モータージャーナリストの清水和夫氏。

 

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