なんとも不思議なSUVだ。オフロードを本籍としているかと思えば、オンロードでは250km/hで疾走できる。ドイツのアウトバーンならメルセデスAMGを追撃できるかもしれない。オンもオフも最高のパフォーマンスを発揮するものの、ショーファードリブン的な高級車としても使える。そんな不思議なレンジローバーに弟分が存在するという。
兄と差別化するためにランドローバー社は「レンジローバー・スポーツ」と命名した。兄レンジローバーに与えられた最新のアルミモノコックボディを改良して、弟分のレンジローバー・スポーツが開発された。実はレンジローバー・スポーツは、今回のフルモデルチェンジで2世代目となるのだが、第1世代は2005年に誕生し、すでに41万5000万台も販売されている。兄の陰に隠れているものの、ランドローバー社におけるレンジローバーシリーズの人気モデルの1台だ。
今回は英国で開催された、新型レンジローバー・スポーツの国際試乗会の模様をレポートする。
◆レンジローバーとイヴォークの中間車
レンジローバー・スポーツのコンセプトは「More Sport」である。そのためにボディはレンジローバーよりすこしコンパクトにまとめられているが、ファミリーユースを考慮して、3列シートも用意されている。だから実用性ではレンジローバー・スポーツは兄よりも使い勝手がいいだろう。もちろん価格も兄よりはお求めやすい。
新型レンジローバー・スポーツのボディサイズは全長4855mm、全幅1985mm、全高1800mmと初代モデルよりも全長+60mm、全幅+55mm、全高-10mmのサイズ変更となったが、ホイールベースは+175mm伸びている。だが、重量はなんと-240kg(V6型エンジン比)とダイエットに成功しているから、アルミボディの効果は絶大だ。ベースとなったレンジローバーと比べると、全長で149mm短く、全高は55mm低いボディのため、より精悍なフォルムとなっている。単独ではレンジローバー・スポーツの位置付けが分かりにくいが、レンジローバーとイヴォークを並べて見ると、その中間にポジショニングされていることがよく分かる。イヴォークよりもエレガントで、レンジローバーよりもダイナミックなイメージだ。
◆エンジンは何がベストか?
レンジローバー・スポーツのエンジンはどんなタイプがラインアップされるのだろうか。欧州ではディーゼルに人気が集まっているし、2014年にはディーゼル+ハイブリッドが登場する。日本への導入は未定だが、そう遠くない時期にディーゼルも日本で市販されると思われる。
しかし当面はガソリンのV6型とV8型が日本の主力エンジンである。ともにスーパーチャージャー(SC)で過給する直噴ガソリンだ。V8型SCは510ps/625Nm、V6型SCは340ps/450Nmのパワー/トルクを発揮する。V8型SCはポルシェ・カイエンターボにも匹敵するパフォーマンスなので、価格を考えるとお得感がある。
V8型SCの0-100km/h加速は5秒で駆け抜けるから、ポルシェやBMWとも勝負できる。もちろんレンジローバーシリーズでは最速の加速性能だ。V6型SCが発生する450Nmのトルクでは不足なのか?と思ったが、実際にV8型とV6型を乗り比べるとエンジンの振動特性や回転の上がり方のスムースさ、あるいはエキゾーストサウンドなどの官能的な性能ではV8型SCの魅力度は高い。実用性を重んじるならV6型SCのチョイスも悪くないだろう。
ランドローバー社のコア・コンピタンスであるオールテレインシステムはレンジローバー・スポーツにも搭載されているが、スイッチひとつで車高をアップさせると、未開の地に足を踏み入れる準備が整う。道路整備がゆきとどいた先進国ではあり得ないようなオフロードを簡単に走ることができる。電子制御で4つのタイヤの駆動力と制動力を駆使することで、驚きの走破性を示してくれる。
しかし、アプローチ&デパーチャーアングルと呼ばれる幾何学的な寸法は悪路走破性の基本スペックとなる。新型レンジローバー・スポーツのアプローチアングルは従来車の34.6度に対して新型は33度となり走破性は増している。さらに非現実的ではあるが、渡可水深限界値は従来車700mmに対して新型は850mmとなった。最近はゲリラ豪雨で冠水した道路を走ることもある日本では有効かもしれない。
これはほんのひとつのオフロード性能を示したわけだが、ライバルにはない秘密の性能が満載されている。無敵のオフロード性能を可能とするボディパッケージとハイテク満載のオールテレインシステムがレンジローバー・スポーツの革新的な技術と言っていいだろう。
試乗会では泥だらけになるオフロードの運動会はとても愉しかった。時速3キロの世界でも、300km/hで走るのと同じくらい緊張する。4つのタイヤがいつも路面に噛みついているわけではないからだ。スピードは遅くてもタイヤの接地力は予期できないことが起きる。
ときには3輪、ときには2輪しか接地していない場合もある。だが3つのデフ(前・後・中央)で絶妙にトルク配分を行ない、接地力が高いタイヤにトルクが効率よく与えられる。空転するタイヤは自動でブレーキが介入するのでスリップは防げる。駆動トルクと制動トルクのコントロールがカギを握る。
見た目ではとても通れないような悪路を平然と走ることもできる。この種の走破性ではレンジローバーは無敵だと思った。悪路の特設コースを走っていると誰かがパンクさせたらしく、「パーン」と大きな音が聞こえた。すぐにスタッフが駆け寄りアッという間にタイヤ交換が行なわれた。オフロード走行で気をつけるのはタイヤのパンクかもしれない。鋭利な刃物のような岩がタイヤを狙っているからだ。さすがのレンジローバーのハイテクもパンク予測はできなかった。
◆レンジローバー・スポーツはスポーツカーか?
ハイスピードライブもサプライズの連続だった。飛行場を使って200km/h以上のスピードで走ることができた。まるでスポーツカーのようなハンドリングに驚いた。安定性と操縦性のバランスはSUVの常識を越えている。レンジローバー・スポーツはニュルブルクリンクでもたっぷりとテストされたので、ハイスピードが得意となった。この開発の背景にはジャガーFタイプのシャシーエキスパート集団が、サスペンション・チューニングを手伝ったらしい。
実際にノーマルモードでは快適な乗り心地だが、スポーツモードではジャガーFタイプと同じレベルのダイナミクス性能を持っている。ニュルブルクリンクのラップタイムは8分35秒前後と聞いた。SUVとしては最速かもしれない。200km/hから急ブレーキを踏んでもビクともしない直進性、100km/hで急ハンドルを切っても、何の問題もないロール安定性。意地悪な走りを試しても、なんでもこなす器用なサスペンションはレンジローバー・スポーツの美点だろう。この運動性能は兄のレンジローバーや弟のイヴォークよりも才能を発揮している。
◆自分のライフスタイルを想うと
ランドローバー社のクルマ全体に言えることだが、流石に英国流を貫くだけに本質的な能力をすこし控え目にしているところがにくい。英語では「understatement」と表現されるが、レンジローバー・スポーツはその傾向がとても強い。だから外観よりも中身で勝負できるとことに存在価値があると思った。自分のライフスタイルを振り返ると「レンジローバー・スポーツ」は外せないチョイスなのである。