あのポルシェもついにダウンサイジングターボと聞いてなんだか複雑な心境でポルシェのテクノノロジー・ワークショップに参加した。場所はドイツのホッケンハイムサーキット。ステアリングを握ることはできなかったが、助手席同乗でインプレしてみることにする。いったいどんな911カレラに進化したのだろうか。<レポート:清水和夫 Kazuo Shimizu>
今回発表された新型911カレラ(後期型)は991型カレラのフェイスリフトであるが、エンジンが自然吸気からすべてターボ化された。その意味では大きな変更である。現行911はトップレンジのポルシェ・ターボを除くとフラット6の3.4Lと3.8Lの自然吸気(NA)を持っていたが、今回は新設計された3.0Lターボだ。
ターボ化に伴いエクステリアにも変更が加えられている。リヤのエンジンフードは縦スリットになったので、リヤビューを見るとすぐにターボだと分かる。フロントはインタークーラーがバンバーの両サイドに配置されるので、一瞬911ターボと間違えそうなくらい精悍さが増している。このルックスは私的には大いに気に入った。
インテリアはカレラ・ターボ用にステアリングホイールが新しくなったが、機能面では新しいPCM(ポルシェコミュニケーションマネージメント)がアップルとCarPlayを搭載する。
さて、もっとも気になるのが新開発の3.0Lターボだ。エンジンはブースト圧の違いでカレラが370psとカレラSは420psに差別化される。ともに現行モデルより+20psパワーアップし、0-100km/h加速は4.2秒(カレラ)と3.9秒(カレラS))。ちなみにカレラSの420psは500Nmを発揮する。その結果、911カレラシリーズで0-100km/h加速で4秒を切ったのは初めてのことだ。一昔前のGT3に匹敵する速さだ。そのおかげで、ニュルブルクリンクのラップタイムは大幅に速くなり、カレラSで7分30秒と前のモデルよりもなんと7秒も速くなった。
そう、ポルシェは今回のターボ化は決してダウンサイジングでなく、ライトサイジングだと断言する。それもそうだ。このパフォーマンスなら誰もダウンサイジングとは思わないだろう。エンジンの開発エンジニアに聞くといろいろな排気量をテストしたが、3.0Lがパワーと燃費のバランスが良いと判断したという。
ギヤボックスは7速PDKだが、ターボのトルク特性に合わせてリファインされている。だが、ポルシェのこだわりは速さだけではない。100Km走った時の燃料消費は約1.0Lも減り、カレラSで7.7L/100km。日本で高速走行すると15.0Km/Lは走れそうだ。
スペックを見てみると新設計されたターボ・エンジは燃焼状態を最適化するためにインジェクターを中央に配置するスプレイガイド方式が採用された。燃料の圧力は250気圧で数回にわけて噴射するタイプで、できるだけ均質に燃料と空気を混ぜることがポイント。エキゾーストカムシャフトには可変バブルタイミング、インテークには連続可変バルブリフト(バリオカム+)が採用される。<次ページへ>
シャシーのトピックスはオプションで4WSが採用されたこと。ターボとGT3で実績があるリヤ操舵が911カレラにも備わる。80Km/hから同位相に動き、高速安定性が高まる。911カレラの場合は最大で2度。GT3が1.5度でターボが3度なので、モデルによって使い分けている。60Km/h以下では逆位相に動くので旋回半径は約40cmも小回りできる。
リヤを同位相に動かすのは80年代のポルシェ928で採用したバイザッハアクスルの流れを汲んでいる。当時はパッシブにセミトレーリングアームのブッシュで制御していたが、今回は電動アクチュエーターがコンピュータで制御される。
ポルシェにとって高速の安定性とハンドリング性能を両立することは昔からの願いだったので、リヤステア技術でその願いが叶ったのだ。ニュルブルクリンクではカレラSで7秒も速くなったが、ターボで5秒、リヤステアで2秒前後速さに貢献しているそうだ。気になるのは20インチのリヤタイヤのサイズがターボと同じ305/30扁平となったので、タイヤが減った時のお財布が心配だ。
さっそく助手席に乗り込み、同乗走行のインプレを開始した。テストカーはカレラSのPDK。エンジン始動時は期待したターボ・エキゾーストとは異なり、むしろ静かで上品なエンジンになった印象だ。というか、自然吸気のフラット6時代とおなじ感覚を覚えたのだ。そんな話をしていると、スポーツボタンを押し、同時にPSMのスイッチも切ったのだ。PDKはMモード。ホッケンハイムのタイトコーナーを「ほら3速ギヤでもパワードリフトできるでしょう」って大カウンターステアで駆け抜けた。
どうも一番ヤンチャなドライバーに遭遇したらしく、ほとんどのコーナーをドリフト走行。考えてみれば、911ターボはAWDなので、パワードリフトは簡単ではないが、カレラ・ターボはRR(2WD)なので、ドリフトしやすいのだ。スポーツボタンを押したので、エキゾーストはかなり迫力あるサウンドに変わっていた。このターボはストレスなく7000rpm以上まで回っていた。
同乗走行が終わり、コクピットのタイヤのプレッシャーモニターを見るとフロント220kPa、リヤ240kPと低いことに気がついた。ポルシェのドライバーは「乗り心地重視はこの空気圧でもOK」と言う。たしかに乗り心地は改善されていたようだ。長い間慣れ親しんだ自然吸気のフラット6はターボ化されても、失望するようなサウンドではなかったことが嬉しかった。それでも、性能面では確実に速くなっている。素のカレラは試せなかったが、カレラ・ターボは空冷から水冷に切り替わったときと同じくらいのインパクトがあったのだ。