【繁浩太郎の言いたい放題】 スバル衝突試験見学会から考えるクルマの安全性 スバルテックツアーvol.5

SUBARUテックツアー vol.5
衝突安全性自体に関しては以前にこのコーナーで記事として取り上げていますが、今回スバルの衝突試験を見学させてもらう機会があり、改めてクルマの衝突性能、安全運転に関して考えてみたいと思います。
第11回 読むと得をする 生死に関わる「衝突性能」を考える

■クルマの衝突安全性

クルマの衝突安全性を見るのに、実際の衝突 (リアルワールド)を考えると、衝突するスピードもその形態もさまざまな要因がからみ、一概に規定することは難しいです。よって、できるだけリアルワールドを考えたテストモードが決められていて、それに沿ってテストをします。これは、テストモードとリアルワールドではその数値に乖離があるものの、燃費のカタログ値と実用燃費の考え方に近いです。

衝突テストには、法規とアセスメントとしてNCAPやアメリカの保険協会IIHSのテストなどが、各地域ごとにあります。日本には、JNCAPという試験があり、図-1のようなテスト項目があり、それぞれ評点され、満点で208点です。

衝突安全性能評価は乗員、歩行者、シートベルトの3カテゴリーで評価している
衝突安全性能評価は乗員、歩行者、シートベルトの3カテゴリーで評価している

衝突テストを積み重ねてきた結果、技術進化によりリアルワールドでの乗員保護性能も大幅に上がってきました。2009年と少し古い話になりますが、アメリカのIIHSが09年式シボレー・マリブと59年式シボレー・ベルエア(フルサイズ・セダン)のCar to Car (クルマ同士をぶつけるテスト)を実施しました。その結果、運動エネルギーの法則に反して、ベルエアは大幅につぶれて乗員の生存空間はありませんでしたが、マリブは大丈夫でした。

■カーメーカーと衝突安全性

各カーメーカーはJNCAPで良い点数を取るために、エアバッグやベルト等のデバイス開発、あるいは、ボディを中心とした技術開発は行なわれますが、商品として考えると、こうした開発には投資、コスト、開発工数が大変大きくなります。また、デザインにも影響を与えます。

そういう厳しい車両開発の中で、JNCAPで良い点数を取るためだけでなく、数値の結果として公表されないリアルワールドのことをどこまで設計仕様に織り込むのかという課題があります。
(燃費の場合も、モード燃費には効かないが、実用的には効くという技術があります) これは、カーメーカーの良心というかモノ造りの考え方になります。

つまり、NCAPの数値向上だけに注力するのか、それだけでなく公表されない部分(リアルワールド)までコストをかけた技術を入れるのか? あるいは、そこそこバランスよく造るのか? また、結局は衝突対策費用をユーザーに支払ってもらうことを考えるなど、考え方はいろいろあります。

■スバルの安全思想

スバルは、リアルワールドの対策をどの程度やっているのか発表されていませんのでわかりませんが、「0次安全」から「アクティブセーフティ」、「プリクラッシュセーフティ」、「パッシブセーフティ」まで総合安全NO.1をめざす安全思想を貫いていると発表しています。

JNCAPで2016年度「衝突安全性能評価大賞」を受賞して、有言実行してます。これは、JNCAPというテストモードの評価採点で満点が208点のところを199.7点と歴代最高の得点を獲得したことによるものです。

インプレッサ/XVの試験結果。歴代最高点を獲得している
インプレッサ/XVの試験結果。歴代最高点を獲得している

オフセット衝突のスロー再生。カメラ位置側面

俯瞰から撮影したオフセット衝突試験。エアバッグの展開タイミングがよくわかる

衝突試験後のフロントタイヤも綺麗な状態を保持している
衝突試験後のフロントタイヤも綺麗な状態を保持している

オフセット衝突では、乗員を守るキャビンの強さを見ることができます。それは衝突後にドライバー救出を目的にドアが外から開くことで確認できます。これは今では当たり前のことですが、今回のスバルXVの場合フロントタイヤが綺麗な形で残っているのと、フロントガラスにひび1つ入ってなかったのが印象的でした。

ショッピングカートにぶつかるような極軽度の衝突でエアバッグが展開してしまうと次の事故につながりかねないため、展開することはありません。また、深さ20cmの水濠に時速50km/hで飛び込むとかなりのショックではありますが、これも同様にエアバッグは展開しないようになっています。

つまり、乗員に傷害をもたらすような衝突時にだけエアバッグが展開することをめざしています。

ショッピングカートなどの極軽度の衝突試験。エアバッグが展開しないことがわかる

水深20cmの水濠へ50km/hの速度でダイブ。相当な衝撃があるが、エアバッグは展開しない

スバルが「プリクラッシュセーフティ」として推進、進化させているアイサイトは、現在のところ「追突事故発生率-84%」、「歩行者事故発生率-49%」という結果で、現実的に相当数減っています。他車の自動ブレーキも含めて、その装着率がさらに上がっていけばいいですね。

アイサイト事故率低減
アイサイトの搭載で、追突事故、歩行者事故の発生率がともに減少している

ただ、「歩行者事故発生率-49%」ということで、今のアイサイトでは、歩行者事故を防ぎきれないのも事実です。そういうこともあってか、スバルでは「パッシブセーフティ」として歩行者用エアバッグを標準装備しました。

これは、ボンネット面では中のエンジンとの隙間を取ることで人の頭がぶつかった時でもある程度衝撃吸収はされるのですが、Aピラーの付け根の堅い構造部分では厳しく、またウインドの下端もそうですが、そこに向けてエアバッグを展開し、人の頭への衝撃を緩和するためのものです。

歩行者用エアバッグはJNCAPの得点にプラスなことは言うまでもありませんが、実際リアルワールドではまだデータがなく効果はわからないのが実情です。歩行者との衝突もリアルワールドではさまざまな形態になるため、歩行者の頭をエアバッグで救える確率は低いようにも思えますが、救いたいと思う気持ちは尊いと思います。

歩行者エアバッグの作動動画

また、スバルのシートベルトには、「ロッキングタング」というロードリミッターが働いても、腰ベルトが緩まないようにロックできるタングがついています。これはテストモードにもリアルワールドにも実効性がありそうです。

胸部保護性能
過大な拘束を防ぐことで、胸部の保護性能をアップしている

■ドライバーの責任

考えてみると、アイサイトの追突事故防止効果が大きいということは、それだけ不注意な漫然とした運転も多いということになるのではないでしようか。最近、ペダルの踏み違いと言われる事故も多いようです。

ドライバーには今一度運転することの責任を考え直してもらい、漫然とした運転を防止したいですが、衝突安全技術を理解しそれに備える気持ちが安全運転につながるのではと思います。

SUBARUテックツアー

COTY
ページのトップに戻る