■燃費の重要さ
私の乗っているクルマは10年程前の古いクルマなので、すこぶる燃費は悪いです。しかし、普段はほとんどクルマに乗らない生活なので、燃費が悪くても財布に影響はありませんし、移動は公共交通機関を使うので、地球にはそんなに悪いことしていないのかな? と思っています。
さて、そんな変な持論はさておき、今回のテーマは「燃費」です。アメリカの「CAFE基準(企業平均燃費:自動車メーカーの販売しているクルマの平均燃費)はご存知でしょうが、こういう考え方は世界各国に広がっています。
つまり、クルマの燃費は地球環境と石油枯渇の観点から世界レベルで考えられていて、規制の対象になっているのです。今回は「燃費の全て」の話には至りませんが、読者のみなさんの燃費に対する理解のお役にたてれば嬉しいです。
■カタログ燃費とは
「燃費」はもちろん「良い方が良い」のですが、その燃費という概念は、当然、実際に道路を走った時の燃費ですよね。しかし、カタログに掲載され公表される「燃費」は実際に道路を走った時の燃費ではありません。クルマがすっぽりと入る大きなテスト設備の中で実際の走行を想定した、ある走行モード(表参照)で測定されるものです。
燃費の計測はシャシーダイナモ(クルマは静止したままでタイヤだけ回転させ走行状態を作るもの)と呼ばれる設備で実施されます。道路の代わりにローラーがあり、タイヤが回転するとこのローラーも回転する。そのローラーにクルマの重量等、走行抵抗に相当する荷重(等価慣性重量)をかけて、測定されます。その結果が国土交通相に認可された公の値となりカタログに載るわけです。
■カタログ燃費と実際の燃費
カタログ燃費と聞いて「実際の走行ではカタログ燃費値までいかない」と連想するユーザーは多いと思います。自動車ディーラーの方に聞いても「お客様、皆様の走り方は異なりますし、カタログ値はテストモードで測定されるので、どうしても実際より良い値になります」と言われると思います。確かに、ユーザーの一人一人の走り方、つまりアクセルやブレーキの踏み方、走行距離、街中か郊外か、高速走行・・・など、走り方は異なるので、同じ車でも「燃費」は各ユーザーによって異なるものとなります。
インターネット上にはユーザーが実際の燃費をアップして、それをデータ化したクルマの燃費サイトがあります。本当の燃費データが分かるということで人気のようですが、そこのサイトを覗いてみると、カタログの燃費データと実際のデータの差、いわゆる乖離率の大きさに驚きます。JC08燃費がリッター37kmのハイブリッドカーも、実際の燃費はリッター21.4kmだったりと大きな差があります。いわゆるトヨタ・アクア、トヨタ・プリウス、ホンダ・フィットハイブリッドなど低燃費車と呼ばれるものはJC08モードのカタログ値と実燃費との差が大きく、輸入車は逆に乖離率はそれほど大きくありません。
■カタログ燃費の測定モード
さて「カタログ燃費と実際の燃費の間に差がある」という現実を前にして、そんなユーザーの声に応えるべく国も何もしていないわけではありません。少しでも実際の燃費に近づけようと、測定モードの改善は行なわれてきています。
古くは60km/hでの一定速度走行の燃費がカタログ燃費でした。その次に採用されたのが、加速や停止モードを加えた10モード。さらに市街地を想定した10モードと郊外の15モードを組み合わせた10.15モードへと変化していきました。そして2011年春からは、エンジンが冷えた状態からのスタートモードも加え、さらなる改善をしたJC08モードを導入し、10.15モードとの併記期間を経て現在に至っています。
ちなみに一般的には、同じクルマでも10.15モードとJC08モードでは、JC08モードの方が値は少し悪くなります。下記に簡単に10.15モードからJC08モードへの変更内容をまとめておきます(出展:国土交通省ウェブサイト)。
また燃費というものは、車両重量にも左右されます。そのため車両重量に見合った等価慣性重量(IW)をかけて燃費測定します。この等価慣性重量は、本来各測定車の自動車総重量と等しい荷重をシャシーダイナモにかければ良いのですが、実際は試験自動車重量のある範囲に沿って段階的に重量を決めています。
階段を昇るように自動車重量がある範囲を超えると、ガクンと等価慣性重量は増えます。JC08モードは10.15モードより区分けを細かくして精度アップをしているのが分かると思います。
■カタログ燃費のカラクリ
その「階段」とはなんぞや?を、JC08モードで説明します。上の表をみてください。
例えば、966~1080kgの試験車両重量に対する等価慣性重量は1020kgとなっています。1081~1190kgに試験車両重量が増えると、等価慣性重量は1130kgとなります。
ホンダ・フィットやアクアのようなスモールカーは、だいたい1トン前後の車両重量ですが、1080kgの試験車両重量とすると1020kgの等価慣性重量になります。試験は、車両重量+110kg=試験自動車重量となり、この車両重量毎に等価慣性重量の標準値が決められています。だから車両重量が1kg増えると110kgプラスされ、試験車両重量が1081kgなら1130kgにもなってしまいます。
つまりこの試験車両重量の階段で見ると、1kgアップで燃費測定の等価慣性重量は110kgも上がるのです。フィットクラスのスモールカーや軽自動車では、この110kgのアップは燃費測定結果に大きな違いが出ます。この階段のギリギリにいる場合の例として1kgの試験車両重量の増加で、燃費カタログ値は大きく異なるわけです。
言うまでもなく、実際の走行での1kgの車両重量差は殆ど燃費に影響はありません。また、その逆も起こるわけです。もう少し、この等価慣性重量の「階段」は細かいと良いのかもしれませんね(ざっと50kg以下とか…)。
燃費競争が激しい昨今では、カーメーカーにおける開発時にはこの「階段」がかなり大切になっているのは言うまでもありません。それはカタログ表記の数値が商品競争力になるからです。
だから新型車の企画の場合は、車両重量の目標値をどうするか。もう少し軽くすると一つ下の等価慣性重量でいける!となれば、コストをかけてでも軽くしようとか…つまり、この場合は実際の燃費にはあまり関係ない、カタログ燃費のための努力になってしまうのです。
もちろん各カーメーカーは、トータル的に等価慣性重量含めたJC08モード全体に効く燃費技術を考えますが、モード燃費だけを考えた技術でベスト設定するのでなく、実用燃費に効く技術も睨みながら「そのクルマにあったベスト設定」に努力していると思います。
つまり、実際の燃費とカタログ燃費の間の乖離が大きいということは、ユーザーの失望度合いと比例するわけですから、これは大きな不満点となります。
■世界各国で燃費テストモードは異なる
日本のJC08モードを輸入車で考えてみますと、多分開発時には自国の燃費測定方法は考えても、輸出先の日本のモードはあまり意識してクルマを開発していないでしょう。また、テストモードに対しても、あまり意識していないかも知れません。
そういう場合はカタログ公表燃費が「なりゆき」になって、ベストの値ではなくなると思います。そうすると、カタログ公表燃費は低めになり、結果実際の燃費との乖離が少なくなるのではないかと想像しています。
ここで、全く同じ仕様のクルマかどうか詳細はわかりませんが、プリウスのアメリカ、EUにおける燃費が公表されていますので、比べてみましょう。
このように同じプリウスというクルマでも、地域によって測定の方法が異なるために、公表カタログ燃費は異なります。また、ハイブリッドカーの特性とし、減速時の回生エネルギーを走りのエネルギーに加える仕組みを持っていますから、加減速がそれなりにあるモード燃費では、ICE車(Internal Combustion Engineの略。内燃機関車、つまりエンジン搭載車のこと)と比べて燃費は良い方向になります。
ということは、ハイブリッドカーは「公表カタログ燃費」と「実際の燃費」との乖離も大きくなりがちということになりますね。
ついでに書きますと、ハイブリッドカーは平坦な高速道路を100km/hなど一定速度で走ったりすると、回生エネルギーをバッテリーに溜めにくくなり、ほぼエンジン出力で走ることになります。そのため、燃費はそれほど良くなりません。
ハイブリッドカーにはこういう特性があって、ハイスピードで長時間移動するドイツでは、ハイブリッドよりディーゼルの方がパワーもあって好まれているのです。
■「カタログ燃費と実用燃費の乖離」対応の限界
カタログ燃費と実用燃費の乖離」の問題に対しては、いろいろな走り方をするユーザーのモードを作って全てに対応するのは難しく、これは「程度の問題」、つまり、できるだけ…ということになります。
国土交通省でも「カタログに記載されている燃費値と実走行時の燃費値は必ずしも一致しません」とあり、一方で、「カタログ燃費値と実走行燃費値との乖離をできるだけ小さくすることは重要ですので、2011年4月よりJC08モードを導入するとともに、今後とも、燃費値のよりよい測定方法、公表方法の検討を続けて参ります」とホームページに書かれています。
しかし、最近の低燃費車と呼ばれるクルマほど乖離が大きい傾向にあることを考えると、「カタログ燃費と実用燃費の乖離」は進んでいることになりますね。何か手をうたなければいけないレベルかもしれません。
■最後に
私はユーザーや社会が受け身でなく、積極的にクルマに関することに興味を持ち、勉強し賢くなることが、ユーザーや社会にとって良いクルマの開発につながると思います。そのことが、さらに良いクルマ社会の発展につながるのだと考えています。例えば政治の世界もそうだと思います。政治に関心がなく投票率の低い中で、国民の政治が行なわれるのは、結局国民に良くないですよね。
クルマは走る曲る止まるの基本性能のみならず、耐久品質や環境に対しても、衝突安全性能や衝突回避性能など、全てに関してメーカーを中心とした自動車業界の努力のもとでめざましく向上てきました。しかし、この向上の動機は、日本発というより海外のマーケットや社会から要請されたものが多いのではないでしょうか? 安全や排ガス規制はアメリカ、CO2や燃費はヨーロッパからといった具合に。
もちろん新技術、イノベーティブな技術は技術者の自発性から出るものですが、そのキッカケとしては、ユーザーの集合体である社会からの要請を察知した自動車業界の技術者にスイッチが入る図式ではと思います。つまり作り手と使い手とが両輪になれて初めて、人のためのクルマ社会が発展して行くのではないかということです。
日本では、これがうまく回っていないと考えます。ただできたクルマを評価し、買うだけの受け身では、寂しいと思います。みんなで「賢く」なりクルマ作りに「参加」しましょう。ハマると以外と面白くなると思いますよ。