■ 増えるプラグインハイブリッド車
プラグインハイブリッド車(PHEV)は、発進直後はEVとして数十キロ走り(搭載バッテリーの大きさにより異なります)、その後バッテリーが無くなるとハイブリッド車(HEV)として走るものを言います。また同じPHEVと言われているクルマでも、HEVでなくエンジンを発電用として使いバッテリーに充電しEVで走るタイプのPHEVもあります。さらに高速巡航時など低負荷の時にはエンジンだけで走るものなど様々な方式のPHEVがあります。
さらに、PHEVはここ数年、ヨーロッパでメルセデス・ベンツ、BMWをはじめアウディ、フォルクスワーゲン、ポルシェなど多くのメーカーから発売されています。また、GMのシボレーボルトは既に2010年に発売しています。ここ数年で各社、こんなに多くのPHEVを発売している理由はなんでしょうか?
■EU CAFE規制とPHEV
欧州では早くから自動車の排ガス中のNOxやCO、HC、ディーゼルPMなどを規制する一方で、地球温暖化と共にCAFE規制としてCO2削減に取り組んでいます。その中で2021年にはCO2=95 g/km以下という厳しい数値を定めています。
CAFE(Corporate Average Fuel Efficiency)は、企業毎平均燃費、つまり各車のCO2量をその企業の販売台数で加重平均した値となりますが、この算出をトヨタの2機種を例にして簡単にシーソー図を使って説明しておきます。
LS 600hはCO2=199g/km(燃費=8.6L/100km)
プリウスPHVは49 g/km(2.1L/100km)
プリウスは70 g/km(3.0L/100km)この数字を使います。
LS600hの規制値からの乖離は199-95g=104g
それを100台販売した時は100=10400g/kmとなります
プリウスは70g/kmで規制値より(95-70)=25g/km良く、10400/25=416
つまり、プリウスを416台販売して±0になります。
これがプリウスPHVなら。
同様の計算で、266台程度で良いということです。
■PHEVのカウント方法マジック
ここでPHEVのCO2カウント方法としては、欧州の燃費測定法であるECE R101で、PHEVはEV走行も含むということから、EV走行がない状態でのCO2排出量を、下記計算式の燃料消費量削減係数で割って、それをPHVのCO2量とします。
燃料消費量削減係数=(25km+EVでの走行可能距離)/25km(25kmは欧州で定義)
プリウスPHVのEV走行=26.4km、その後のHEV走行でCO2が100.7g
燃料消費量削減係数=(25km+26.4km)/25km≒2.06
100.7g/2.06≒49g
49gと認定されるということです。
さらにCO2=50g/km未満では2倍でカウントできるというスーパークレジットがあり、この例のプリウスPHVの266台は半分の133台で良いということになるのです。
この様にPHEVは、燃料消費量削減係数という概念を入れたCO2カウント方法と、このカウント方法で到達できる領域にクレジットも設けて、大きく優遇されているのです。
メーカーはPHEVをラインアップに加えることにより、CAFE規制をクリアしやすくなり、それはシーソーの右側の大きくて高価な収益率の良いクルマを販売できることを意味するのです。
■北米と日本のCAFEとPHEV
北米CAFEにおいても、PHVはEV走行だけとして温室効果ガス(CO2)排出量を0g/miと設定し、台数算出時には2017年では1.6倍にカウントできる様になっています。
日本ではCAFEを採用し始めますが、PHEV等に対して特別の燃費測定方法や計算式などはまだ存在しません。
■PHEVの実情
PHEVは日常的にはEVで、遠出の時にはHEVと、両持ちなのでEVと違って電欠の心配がなく理想的に見えます。しかし、コスト/重量もほぼ両持ちとなって、クルマが重く高価になります。
プリウスPHVのEV走行可能距離が26.4kmということなので、日々の走行距離が20km程度のユーザーはEVでの使用だけとなりエンジンは使わない。一方で走行距離が多いユーザーはエンジン走行だけのときより、1.0L程度多く使えば充電分も済んでしまうので、充電はしなくなる。
この場合、単なるHEVとしての使用が主になってしまい、EVとして走れるほどの重くて高価なバッテリー等は必要ありません。どちらの場合も「使わないモノ」を載せているとも言えます。
結果、カーメーカーはCAFE規制対応でPHEVを開発し販売したいとしても、ユーザー的には価格、使い勝手などあまりメリットを感じず購入しないということが起こってしまうのです。事実、プリウスPHVはあまり売れませんでした。
次期プリウスPHVはEV走行を60km程度に延ばすと言われています。こうなればEV走行で済むことが多くなり良いのですが、理論コストはあがります(売価は別ですが)。またそうなると益々エンジンは使わなくなりますし、60kmはガソリン3.0L程度でしょうから、まだプラグインを面倒と思うユーザーは減らないかもしれません。
■今後の環境車とユーザー
この様に、PHEVにユーザーメリットが少なく、実際に売れないとCAFEは販売台数との加重平均ですから、規制を達成することができなくなります。
PHEVを売れるようにするには、価格を下げたり、面倒なプラグイン作業の簡略化や商品魅力アップなど、課題は多いです。しかし、環境車の決定打が見つからない今、メーカーがCAFEをクリアしていくには、CO2カウントで優遇されているPHEVをユーザーに何とか購入してもらう方法しかないわけです。その際、実走行のCO2はどうなるか?という課題は残りますが・・・
大量生産大量消費の時代は終わっています。供給側だけに環境対策を任せておく時代ではないかもしれません。PHEVを必ず家で充電し、できるだけEVとして使うなどのPHEV本来の使い方をする努力が必要になります。
ペットボトルなどの分別ゴミに代表されるリサイクル活動などのように、ユーザーも考え、理解し、さらに手間などを負担することが環境対策には必要です。待ったなしの地球温暖化の今、我々ユーザーも参加協力しなければいけないと思います。
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