トヨタ エスティマ10年目のマイナーチェンジ その意味は?

マニアック評価vol456
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日本のミニバン市場の始まりは、80年代にワンボックスの商用車をベースにした、キャブオーバー型の乗用車から始まった。シートの下にエンジンを搭載するタイプのミニバンだ。そして、1990年に初代エスティマが未来的スタイルの乗用車コンセプトで登場し、ミニバンブームに火をつけた。以来、セレナやオデッセイ、ステップワゴンなど様々なコンセプトのミニバンが登場したが、現在の主要ミニバン市場はざっと大きく以下の4つに別けられそうだ。<レポート:繁 浩太郎/Kotaro Shige>

■ミニバン市場

◆上級ミニバン市場:400万円クラスのアルファード/エルグランド
◆中級ミニバン市場:350万円クラスのエスティマ/オデッセイ
◆5ナンバーミニバン市場:300万円弱クラスのボクシー・ノア/セレナ/ステップワゴン等(実際の売れ筋は3ナンバーに移行傾向)
◆小型ミニバン市場:200万円クラスのフリード/シエンタ

2015年、トヨタから新型シエンタの参入があり、「ちょうどいい」小型ミニバン市場は増加しているが、圧倒的に5ナンバーミニバン市場のボリュームが大きく車種も多い。ただ、上級ミニバンを含めて販売台数は下降傾向のトレンドだ。一世を風靡したエスティマの中級ミニバン市場は近年押し潰されるように小さくなっている。

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■エスティマ・ブランド

1990年に発売された初代エスティマは「天才タマゴ」というキャッチコピーでデビューし、卵型の丸みを帯びた未来的でスタイリッシュなデザインを中心としたモデルだった。ゆったりとした室内の広さとシートの良さなどで乗り心地も非常に良く、ミニバンというより新種の乗用車のようだったと記憶している。

その後、世代を追うごとにハイブリッドやアエラスなども追加され、またデザインや性能も正常進化して、ブランドは熟成され今日に至っている。しかし、初代の登場以来一貫したそのブランドのコンセプトは年月の経過と共に弱くなってきた。

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今回の大幅マイナーチェンジでは、エスティマの一貫したコンセプトである「先進・洗練」や「スタイリッシュさ」、さらに「走りの質感」などを再度際立てる方向で行なわれた。

エクステリア・デザインで、まず顔は、ヴィッツからシエンタなどに見られるバンパー両サイドに、縦に大きくラインの入る一連のデザインを取り入れてトヨタの一員であることを主張している。しかし、今回新しくなったフェンダー、ボンネット、バンパー、灯火類などはエスティマらしいツルッとした未来感のある面で構成され、さらにバンパーは凹凸をはっきりさせた造形で、全体的に先進・洗練をより際立てたものとなった。

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また、左右が繋がったリヤ・コンビネーションランプの上部をスポイラー風な形状にしたことにより、後ろへ伸びているルーフスポイラーとの相乗効果で、全体としてより流れるようなスマート感が増している。

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さらに今回は、2トーン仕様が用意された。塗装ラインの中で、最初はボディ色が全体に塗装され、その後ラインから一旦外に出して、今度はルーフや内側全体を黒に塗装するという、非常に手間のかかる2トーン塗装なのだ。しかし、あえてこうすることにより「ルーフだけ黒」という後塗り感はなくなり、2トーンのスペシャル感がでている。また、この生産方式では生産台数は限られてしまうので、希少という価値感も出てくるはずだ。

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インテリア・デザインでは、ステッチの入ったインパネ/シートの合成皮革表皮の質感やカラーリング、またピアノブラックで光沢のあるセンターディスプレイなどで、よりシンプルモダンを極めてきた。特に、ホワイト系のインパネとシートカラーは思い切ったもので、コンセプトをより際立たせている。

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ミニバンでは、使いやすいシートアレンジという機能は大切だが、エスティマはユーザーからの評判がよく、今回のモデルチェンジでは改善の必要がなかったようだ。また、ウインドウでは、紫外線対策が注目される。エスティマは全周約99%のUVカットとなっており、リヤ席の乗員も紫外線から守られる。

試乗会の会場にAGC旭硝子の担当者も在席していて、UVチェック用カードを使って、本当にガラスでUVがカットされる様子を見せてもらった。

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このカードは、UV-LEDの発光体から出るUVや自然光のUVを感じると紫色に変色するもので、自分のクルマでやってみると、フロントウインドはOKだったが、ドアガラスではカードが紫色になりUVカットできていないことがわかった。このことを愚妻に言うとガッカリを通り越して「なんで!」と怒り。UVカットが大きな商品力の差になることを身近で自覚した。

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ハイブリッドモデルのエンジンルーム

動的性能として、走りは操縦安定性と乗り心地をより高次元で両立させるために、サスペンション設定の最適化やパフォーマンスダンパーの採用を拡大し、また左右のテールライトの外側表面に空力フィンを採用するなど、数々のハードが投入されている。

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車体の減衰性能を高めるためのパフォーマンスダンパー

一般的に、ミニバンは重くてその乗り心地は良いのだが、重心高が高いので安定性が課題になる。エスティマの走り性能はもともと良かったが、大切な乗り心地と安定性の両立を中心にトータル的な走りの質も今回向上させたようだ。

■ミニバン市場とエスティマの今後

日本のミニバンは、北米や欧州の先進国では市場性が少なく、また、新興国では多人数乗りとしては少し高価過ぎたりということで、ほとんど国内専用商品となっている。だからカーメーカーとしては開発投資や設備投資の回収は販売台数に依存するので、国内専用に近い商品では厳しくなる。また、販売台数的にミニバン市場は右肩下がりで新車開発の投資はしにくい状況だ。そんな中、ディスコン(製造中止)を余儀なくされたクルマもある。

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エスティマは発売後、すでに26年経つので、その保有台数は約40万台にのぼり、エスティマからエスティマへの乗り換えも多いらしい。よって保有ユーザーを裏切ることになるディスコンはできない中で、販売台数を維持向上させる今回のモデルチェンジに期待したいのだが、その後の展開はまた難しいものとなって行くと思われる。

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ミニバン商品全体を見てみると、販売台数の見込みやすい、理性的でまっとうなヒエラルキー商品が多い。ホンダ・オデッセイも紆余曲折の後、無難な線に落ち着いている。

エスティマも当初はエモーショナルな個性があったが、今ではチャレンジングなデザインをしたシエンタの存在にそれを感じる。今後のエスティマは、ちょっとヒエラルキーから外れたエモーショナルな魅力のある商品としてチャレンジし続けて欲しいと思う。盤石なブランドを目指して。

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