マニアック評価vol412
ベントレーとマセラティ、両社ともに伝統的な高級車・スポーツカーメーカーである。そして、それぞれは今ではフォルクスワーゲン・グループ、FIATグループの傘下ではあるが、ブランド個性は色濃く残っており、乗る者の期待を裏切らない。<レポート:繁 浩太郎/Shige Kohtaro>
今回の試乗車は、ベントレー・コンチネンタルGT V8Sとマセラティ・クアトロポルテ。コンチネンタルGT V8Sは4WDで、重量は2380kg。ボディサイズは全長4820㎜×全幅1945㎜×全高1400㎜。3992cc・V8型ツインターボに8速ATを搭載。価格は2310万円だ。
一方、クアトロポルテはFRで重量は1970kg。ボディサイズは全長5270㎜×全幅1950㎜×全高1470㎜で、排気量は2979ccのV6型DOHC・4バルブに8速ATを搭載。価格は1175万円だ。
このスペックとブランドイメージからすると、匠の高級感を持つコンチネンタルGT V8Sと、よりハイセンスかつスマートで俊敏なクアトロポルテという第一印象だが、実際はどうだろうか? 試乗の前に、いつものように試乗車の内外観をじっくりと良く見てみる。品定めだ。
コンチネンタルGT V8S のデザインは、上品な和服美人のような、質の高い高級感が伝わってくる。形そのものもの面の張りや構成を見てもらうと、どことなくシッカリと均整がとれた感じがして、その質の高さがわかる。極端に言うと有名な壺のように、長時間見て味わい深いのである。
また、クルマに近寄って、ボンネットとフェンダー、フロントマスクの合わせ部分を見ると、キッチリと段差をつけて、しかもボンネットの端のヘミング(折り曲げ加工)処理はプレスした鉄板を切りっぱなしにするのでなく、キチッと巻き込まれた形で折り返されている。形のデザインだけでなく、ボディ面の質感や細かいモノ作りまで、まさに大量生産車とは異なるきめ細やかな手込み感が真の高級車造りの証となっている。
クアトロポルテは、イタリアン・ハイセンスで紳士のイメージ通り、スポーティなデザイで、コンチネンタルGT V8Sとは方向性が全く異なる。スポーティな走りを約束するような、低く構えた顔とスリムなボディ、またアシの良さを主張するホイール、ローター、キャリパーがシッカリと目に入る。
しかし実は、この2車のデザインの真骨頂はインテリアにある。それぞれのユーザーの質の高い生活、センスの良い生活に合った秀逸なものとなっているのだ。
コンチネンタルGT V8Sに採用されるレザーは天然素材で、さらに作りの全ての工程を職人が手掛けているので、どこか人間味のある、機械ではできない作りとなっている。特にシート、インスツルメントパネル、ライニング、ステアリングなどのレザー表皮とデザイン、それらに施されているステッチ、対象的なピアノブラック処理のインパネ・センターコンソールパネル、さらに精密感のあるブライトリングの時計まで、人間味と高質感を感じさせる。
一方、クアトロポルテはレザーと本杢、金属素材のコンビネーションによる質感の高さと、特にそのカラーリング、デザイン性もよく吟味されていて、非常にハイセンスなものになっている。特に、インパネアッパーからドアライニングにかけての造形、それを際立たせるカラーステッチは秀逸だ。
◆インプレッション
やっと試乗だ。クアトロポルテは、スポーツモードなどITハイテク満載で最先端の走りが楽しめる。怒涛の加速は言うまでもない。ハンドルの切れ、アクセルの微妙な反応などは申し分なし。俊敏、気持ちいい、正直飛ばしたくなる。
「くおぉ~ぉん……」。乾いた音、イタリアン官能、地中海と太陽、海岸線、風、助手席に赤い薔薇、情熱、細身のスーツをビシっと決めたドライバー……イタリアンだ。
コンチネンタルGT V8Sは今どきのハイテクも満載だが、それよりドライバーの感性に合った、誠に素直で従順な走りをする。第一印象は「運転しやすい」。
軽自動車の試乗レポートのようだが、それくらい「手の内にある感じ」でありながら、高級スポーツカーが運転できる。高速移動だけでなく、毎日の通勤や買物使いでさらに、クルマの素直な走りの良さが伝わってくるだろう。是非、日常使いをお薦めする。
もちろん、アクセルを踏み込むとV8はドッドッドッ~と、まさに怒涛の加速をするし、これで速度無制限の道路があれば水を得た魚のように走ると思う。ハンドリングは俊敏という言葉より、秀逸という言葉が良いと思うが、ドライバーの気持ちがそのままクルマに伝わり素直な動きをしてくれる。
チョット違う観点で言うと、クルマを走らせる動作全て、つまりドアの開閉感からアクセル、ブレーキ、ハンドリング、取り回し、乗り心地から視界まで、その操作感などが統一されていてスムーズだということだ。つまり、アクセルを踏んで加速する感じとブレーキを踏んで減速する感じが同じなのである。また、その感じに統一されたステアリングの重さと切れという具合なのである。だからドライバーはクルマの一連の操作に不自然さを感じない。
この2車のような価格のクルマを所有できる人は、日本で極少数だと思う。個人的にはとても買えないが、これらに乗る生活を大袈裟だが人生の目標とすると、なんだか今が充実してくる気がする。ポルシェやフェラーリのようなスポーツカーに憧れるというのは昔からアリで、また一方では旧車を大切にするのもアリだけど、こういう静的質感、動的性能を持った「本当のクルマ」と、「それに乗る自分」に憧れるというのもいいことかもしれない。クルマ好きにとって充実したクルマ生活を送るとはどういうことか?という意味を考えさせられた試乗だった。
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