【繁浩太郎の言いたい放題コラム】 第9回 日本の国とクルマ産業を活性化する提案

言いたい放題 第9回

日本では数年前からダウンサイジング化が起こり、2013年の新車販売台数は6割以上が軽自動車とスモールカー・カテゴリーになっていて、そのうち、軽自動車は4割弱にまでなっています。これは経済的な要因が大きいと思いますが、ユーザーがクルマに対してより実質価値で見るようになってきているのではとも思えます。考えてみたら狭い日本には元々軽自動車とスモールカークラスあたりの大きさのクルマが合っているのではないかという気もしますね。

2013年の日本における自動車販売は約540万台弱でした。自動車販売はバブルの頃には780万台弱だったので相当減ったことになり、今ではクルマ離れ!とか言われています。

そこで下記表を見てください。
乗用・トラック・バスの総数
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ちなみにバブルの頃の日本の販売台数777万7494台(1990)、日本の生産台数  1348万6796台(1990)。当時の人口を約1億2300万人として、……販売台数/人口は6.32%。販売台数/人口でいうと、クルマが行き渡った先進国の中で日本(4.25%)は平均レベルのようです。やはりバブルの頃の6.32%は・・・バブルでしたね。

さらに生産台数/販売台数で、日本の生産台数/販売台数比率179%、ドイツは176%で、日本の生産台数/販売台数比率は世界一、ということは輸出が多い、輸入が少ないということになります。こういうように、この数値を見ていると確かに販売台数が右肩下がりでクルマ離れと言われる現在の日本のマーケットですが、狭い国土で道路も狭い、高速も有料で高い、税金もガソリンも高い、公共交通機関が発達しているなど、他の国と比べてみると今の台数でもまだ多過ぎかるのかもしれませんね。

元々日本人はクルマに対して、便利とか使い勝手とか実質価値で判断するのでなく、戦後復興と生活向上のよりどころ、つまりステータスとしてクルマを位置付けてきたと思います。つまり「ブランド」を買ってきた。

このようにみてくると、これからの日本の自動車マーケットには明るい話はないように思われます。現状のインフラや世の中の空気で言うと「クルマ離れ」は自然の流れで、円高後遺症で輸出も減り、海外に工場を移転し、ダブルパンチで国内自動車生産は縮小方向となっていきそうです。

ということは、カーメーカーや関連会社の収益も落ちていく。カーメーカーが価格転嫁したら、その分ユーザーにとっては高い買い物になり、さらに台数が落ちる。いずれにしても、日本国にとっても自動車産業にとっても国民にとっても良いことはない。つまりこのままではやはりデフレなんです。

自動車産業が生きていける施策を考えて、国にお金が落ち、国民の生活を良くしていく方向に変えなければなりません。例えば、日本で軽自動車は主に公共交通機関の少ない地域の国民の移動手段として活躍していますが、グローバルに販売できない。軽自動車メーカーはある意味保護されているが、オープンにもなっていない。オープンにするには軽自動車の規格を改訂して輸出販売できるようにすればカーメーカーの生産は上がり、国レベルでも外貨獲得になります。

軽自動車をクルマ商品としてグローバルで考えると、今のままでは全体の大きさや走りはギリギリOKでも、室内幅が少し小さすぎるのではないかと思われます。ざっと考えて最低 フィアット500ぐらいの室内幅は必要かと。また、アジア各国の「国民クルマ構想」からしても、日本の軽自動車規格とは合いません。

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インド仕様のマルチ・スズキ・アルト800。全長3395mm、ホイールベース2360mm

国の基幹産業である自動車産業を活気づけるためにも、デフレをなんとかしたい日本の中で、ここで新しい施策を考えてみるのは意義あることではと思いました。今まで、誰も考えていないのかどうかはわかりませんが、少なくともまだ誰も発表していないと思いますので、この「言いたい放題」で考えてみたいと思います。

 

■ 日本の現状を整理してみた

・今日本の経済はデフレからの脱却に取り組んでいる。
・軽自動車の新車販売は約4割。スモールカーと軽自動車で約6割。
・日本の国土は狭い。道路・駐車場等のインフラも狭い、小さい。
・日本のインフラはスモールカー、軽自動車くらいの大きさに合っている?(道路、駐車場、制限速度100km/h、維持費・・・)

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・国の基幹産業である自動車産業は代替え需要で、そのサイクルは約10年((クルマの平均保有年数)
・何より、耐久品質が良くなって壊れない。また新しいクルマの方が良いに決まっているが、今のクルマに乗り続けても嫌なこと、困ることはそんなにない。辛抱出来る 。

・商品として考えても20年前のクルマと今と基本はそんなに変わらない。つまり新モデルが出ても飛びつくほどの商品的魅力を感じない。より良くなりましたという改善型の商品にすぎないが、価格は上がっている。

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シニアカーのホンダ・モンパル
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日産のモビリティ・コンセプト(トゥイジー:超小型モビリティ)

・一方で、13年の販売台数540万代弱は、国土や人口からすると決して少なくないのではないか。
・ 軽自動車も考えたら高額になった。フル装備での支払額が200万円を超える商品もある。また、ホンダ・モンパル(電動シニアカー)で、37万8000円。軽自動車の中で比較的安いスズキのアルトは83万1600円(5MT)から。これは、機能だけでなく、大きくは生産台数(償却台数)の差があってこういう価格になっていると思います。機能的にモンパルで良いと考えても、軽自動車を買っておくほうが割安になるということになる。

・同様に日産ニューモビリティ・コンセプト(トゥイジー)はどうかと考えると、ミニマムな大きさというコンセプトは良いと思うが、簡易ドアで雨が入ってくるので雨天は辛く、またドアはあってもガラスがないので冬は寒い。やはり多くのユーザーに乗ってもらうには、風雨をしのぐこととエアコンはマストではないか。 これでは数が出なくて高くなり、この場合も軽自動車を買っておく方が割安となる。

というような事情で軽自動車以下の安いクルマがないから、軽自動車に乗っているというユーザーも多いと思う。つまり機能は今の軽自動車ほどはいらない。例えば「高速は走れなくても良い、ゆっくりとしか走らない」というような。

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軽自動車市場における、セダン/5ドア、トールワゴン、スーパーハイトワゴンの比率

軽乗用車販売の約1/4が5ドア・ハッチバックで、この中にこういうユーザーが多く属していると考えられます。残りの3/4はハイトワゴンとスーパーハイトワゴンで、ダウンサイザーや元々の軽自動車のユーザーが占めると考えられます。

軽自動車じゃなくスモールカーを買うユーザーに聞いてみると、衝突安全性、多用途性、高速性、黄色ナンバーが最下層のイメージ・・・等で、実質的に、機能的にスモールじゃないといけないという確固たる理由は少ないと思います。

■どうすれば良いかのアイデア

そこで機能も価格も高くなった軽自動車に対して、一つは小さくて機能はソコソコでも良いからもっと安い軽自動車。これは荷物や人のための室内スペースより、もっと個人的移動に重きを置いたもの。本当に込み込み100万円以下で買えるもの。これは地方の高齢化社会・年金生活にも合致するし、新興国のとりあえずクルマに乗りたい、というユーザーにも良さそう。またこれは高齢化社会に移行している先進国向けに輸出もできる可能性もあり数が期待できる。つまりコストを下げられる。

機能的にEVで良いと思われる方もおられると思いますが、EVはまだバッテリーコストが高く、エンジン車と同じ土俵で競争できない。だからEVはコスト耐力のある高価格帯のクルマが良いが、航続距離、電池寿命のばらつき等課題が残る。Well to Wheelの概念で言っても火力発電ではEVのCO2は辛い。もしEVが普及してあちこちで充電を始めたら、さらに発電しなきゃいけなくなる。

もう一つは、今の軽自動車のサイズをグローバルサイズの下限値サイズのレベルまで大きくする。そうすると輸出の可能性が出て、結果、数が出る。もちろん、この軽自動車の税金は上げざるを得ないと思うがこれは後で述べます。

これらの提案カテゴリーでは、カーメーカーの台当たり収益は少なくなると思いますが、輸出することによる数でカバーし、何より工場稼働が増えるので日本経済の一助にもなると考えるわけです。

 

■具体的な提案を考える

今の軽自動車より小さく安い「A軽」の提案と今の軽自動車より少し大きいグローバルに通用する「B軽」の提案のを考えてみましょう。先ず大きい方のB軽です。

70年代に日本で売れてアメリカでも売れた初代ホンダ・シビック。当時のシビックはグローバルミニマムサイズと言えるのではないか、という仮説でサイズを見てみると、全長:約3.5m、全幅:約1.5m、全高:約1.3m。さらにグローバルで受け入れられた60年代のフォルクスワーゲン・ビートルは、全長:約4.1m、全幅:約1.55m、全高;約1.5m。

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1972年に登場した初代シビック
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1955年型VWビートル(タイプ1)

また、シビックとビートルでは古い機種ということもあり、今では、安全対策と広さ感の感覚も変化しているので、今のスモールの代表としてフィアット500を見てみると、全長:約3.55m、全幅:約1.6m、全高:約1.5m。ちなみに現在の日本のスモールを全幅だけで見ると、パッソは1665mmだがフィットやヴィッツ、アクアは1695mmと5ナンバー枠一杯です。

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フィアット500

大まかにこれらのサイズから考えると、全長:約3.55m以下、全幅:約1.6m以下、全高:約1.6m 以下という、ほぼフィアット500のサイズが軽自動車ともスモール・コンパクトとも棲み分けられるサイズで良いのではないかと考えました。

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現在の乗用車の車両規格(出展:全国軽自動車協会連合会)

ちなみに、今の軽自動車のサイズが全長:3400mm(3.40m)以下、全幅:1,480mm(1.48m)以下、全高:2000mm(2.00m)以下。全長を15cm伸ばし、幅を12cm、片側6cm広げることになります。それでもフィットやアクアの全長約4m、全幅約1.7mのスモールまではまだまだあります。一方、排気量は軽規格の排気量660cc以下でも、最近は小排気量ターボ技術もあり、何とか大丈夫ではと思います。とはいえ、800ccまで広げればこれはグローバルの走りにも十分で燃費的にも高回転に回さずにすむので、やはり良いと思います。

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1949年時の軽自動車規格(出展:軽自動車検査協)
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1998年から採用された現在の軽自動車規格

さらに900cc過ぎまでボアアップを考えておけば、1.0Lエンジンとして各国の規格により対応しやすくなるのではないかと思います。それとグローバルに考えると5名乗車にしておくのが有利と思います。これを小型車の一番小さいサイズカテゴリー「B軽」にして作れば良いと提案します。

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ダイハツのアジアカー「アイラ」。全長3600mm、全幅1600mm。1.0Lエンジンを搭載

問題になるのは税金です。今の自動車税は、軽自動車:1万800円。5ナンバーサイズ排気量1.0L以下:2万9500円、1.0〜1.5L以下:3万4500円。いろいろと経緯があって、軽自動車の1万800円と、1.0L以下の小型車の2万9500円となっています。

「B軽」の提案はサイズと排気量が現在の軽自動車枠を超えているので、本来なら2万9500円となりますが、それでは杓子定規過ぎるし、今回の提案のキモはユーザーもカーメーカーも日本国も海外のユーザーも全て「喜ぶ」という高所の考え方でいうと、2万円ぐらいが妥当なのではと思います。

お国にとっては軽1万800円に対して約1万円プラスの軽自動車が増えることになり、今までの税制よりは安いが実質は増加する。もともと2万9000円の税金に該当する1.0L以下のクルマはほとんどない訳ですから。

ユーザーも格安の税金で今までの軽より大きいクルマに乗れる。そうはいっても税金は1万800円より出したくないというユーザーは「A軽」を買う。カーメーカーは多くの部品を流用しながら付加価値のあるカテゴリーが作れ、輸出もできて商売の幅が広がる。海外ユーザーは安くて品質の良い日本車が選択肢に入る。

 

■ もう一つのカテゴリー「A軽」の提案

今までの典型的な軽自動車ユーザーの使い勝手を考えると、殆どが1人(+幼児)で乗り、荷物満載のチャンスはあまりないと聞いています。つまり、昔の軽自動車サイズでも使い勝手的には十分ではないか。元々衝突性能確保のためにサイズアップした訳だし。

課題はその衝突性能だが、衝突技術は98年頃より、はるかに進んで、当時のサイズ議論がウソのようになっている。JNCAP5☆の軽自動車も出てきた。つまり、今の技術があれば昔のサイズでも性能的に満足できるレベルにきているのではないか。

98年以前のサイズで考えると。全長:3300mm(3.40m)以下 ( -100mm)、全幅;1400mm(1.48m)以下 (-80mm)、全高 2000mm(2.00m)以下。エンジンは660ccあれば十分。税金は1万800円。

これを新しい軽自動車「A軽」にすれば、価格は少し安くなるだろうし、税金はそのままとなると、もともとそんなに人は乗らないし、荷物も多く載せないというユーザーにとってメリットはある。ユーザーの中で、普通車から軽自動車にきているダウンサイザーも用途が割り切れたり、お金に厳しい人は、このA軽に乗り、ソコソコの人はB軽に乗る。

これは、ダウンサイジングが起こっている日本のマーケットで、その領域に商品強化するようなもので、むしろ今の軽自動車メーカーは国内台数が伸びると考えられわけです。もともと軽自動車の税制恩典とその商品力があるため、フィットやヴィッツ、ノートなどまでの間(800cc〜1000ccクラス)の商品は成立しなかった。

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ホンダの超小型電動モビリティ「MC-β」

新しいカテゴリーができて投資と販売が伸びれば、これは日本経済に良い。しかし、税金面では「A軽」が多く売れれば国の収入が減るリスクはありますが、全長・全幅の小さい軽自動車は割り切ったユーザーが相手となるため、販売は先ほどのマーケットの1/4程度が基準になると思います。

3/4の背高ワゴン系は「A軽」、「B軽」どちらにも存在するとは思いますが、より広く感じる「B軽」に収束して行くのではないかと思います。お国的には「B軽」の分の税金は増えるし、輸出でカーメーカーの収益が上がる分、喜べるのではないでしょうか。

軽自動車の開発/工場を持たないのはトヨタとマツダ、スバルだけです。トヨタとスバルはダイハツと何とかできそうと勝手に考えることにして、 となるとマツダが残る。しかし、マツダの軽は今でもスズキのOEM供給等でまかなっており、普通車のその強力なブランド展開からしても、軽自動車は不要なはずです。

軽自動車もだが、普通車を頑張っているトヨタ、日産、ホンダ、マツダ、スバル、三菱は、国内ではダウンサイジングしないユーザー相手の商売が大切だが、この提案でダウンサイジングが増えるかというと、少しは増えると考えられる。が、この企画提案は軽自動車とスモールカーの間で、それは今のスモールや軽自動車でカバーしている範囲なので、それほど増えるとは考えにくい。だから、この新しい提案の影響は少ないと考える。

それでもマツダやスバルが体力的に厳しくなると思われるでしょうが、この二つのメーカーはブランド戦略がキチンとしていて、やみくもに量は追わずに「わかってもらえるお客さん」をターゲットに考えています。そういうお客さんはマツダとスバルを買うから、もしわりを食うとしたらかえってトヨタ・日産・ホンダ・三菱になると思いますね。でもこの4社は新カテゴリーのスモールカーを輸出あるいは現地生産で収益を上げればいいのです。

とにかく、日本経済とその日本の基幹産業である自動車産業を盛り上げるアイデアとしての提案ですが・・・皆様どうでしょうか?

COTY
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