日産セレナ、ホンダ・ステップワゴン、トヨタ・ノア&ヴォクシーなどの5ナンバーサイズのミニバンマーケットの中で、今回ノア&ヴォクシーが強烈なフルモデルチェンジを実施しました。
■3モデルの特長といえば
3年間の販売推移は…トヨタ・ノアとヴォクシーを一車種とすると、日産セレナとトヨタ・ノア&ヴォクシーがリードで、ホンダステップワゴンが追うかたち。それ以前はトヨタ・ノア&ヴォクシーが断トツにリードするマーケットでした。
マーケティング的に商品を見ると、5ナンバーサイズの商品ということもあり、お客さんの価値観としては、「大きく見えること」が大切。それは、軽自動車が規格の中でより大きく見えることが大切なのと同じことです。
ホンダ・ステップワゴンはコンセプチュアルに背を低くした先代モデルで数を落としたものの、現行モデルで少し回復。今回、ノア&ヴォクシーも全長を約+100mm延ばして5ナンバーサイズ枠いっぱいで、他メーカー並みのサイズを確保。これでこのクラスのミニバンは、3車が揃い踏みとなった状況です。
ここで、まずはそれぞれの個性を見てみましょう。
日産・セレナは主婦、子供、家族の幸せの価値観というものをモデルチェンジを経ても、継続的に正面から追求していて、お客さんにとって使いやすく、乗りやすく、代表的な「家族のミニバンブランド」商品。
ホンダ・ステップワゴンは、この領域の先駆者。しかし商品コンセプトをモデル毎に考え直した結果、全高を上げたり下げたりルックスが大きく変わったりと、ブランド自体がふらついている商品。現商品の特徴は、先代からの走りの良さ(安定感)と、商用的な大きさと言えるフラットで大きな荷室。
先代のトヨタ・ノア&ヴォクシーは、その外形寸法とルックスから、キャブオーバー車のちょっと商用的なルックスを引きずってたイメージ。それが、今回大幅にモデルチェンジされ、ハイブリッドと低床化技術で、ホンダ・ステップワゴン、日産セレナ以上にライフステージをまたいで長く使える、長く乗れる商品を目指す。
また、今回のフルモデルチェンジは、お客さんが一番商品力として捉えやすい見た目の大きさ感に関して、寸法的にも5ナンバーサイズ枠いっぱいの長さにして、デザイン処理もサイドのガラスエリアをテールライトまで伸ばし、より長く立派に見えるデザインになっているのもポイントでしょう。
運転席に乗った感じも、視界が良くなって…という具合に、全てお客さんの価値観基準で改善されていて、これが強烈なモデルチェンジと言える所以でもあります。
よって、これらの3車種は、大変な競争状態にあるということです。
その中で、やはり大きなキーとなるのは、新しいトヨタ・ノア&ヴォクシーにはハイブリッド仕様があるということ。どういうことかと言うと、最近は車を買って乗り続ける平均年数が10年近くなっていて、お客さん目線で考えると、これから先10年の間にガソリンは上がりこそすれ、安くなることはまずないし、どうせ買うなら最新技術の車を…ということなんです。
事実、最近の販売状況ではハイブリッドとガソリンの両仕様をもっている車種では、ハイブリッドの方が売れている。これはミニバンに限らずすべての車種に当てはまる傾向でもあります
そしてもう一つの大きなキーとして、トヨタ・ノア&ヴォクシーはハイブリッドの電池が入るスペースを取りながら、あの低床化ができているという部分も注目ですね。
◆競争のキーワードは低床フロア
今後、次期ホンダ・ステップワゴンも日産セレナも本格的なハイブリッドを載せてくると思いますが、その際には電池の入るスペースを考える必要があって、技術進化がなければ今のフロア高さより高くなるということです。
つまり、今後この5ナンバーミニバンカテゴリーにとっては、ミニバン本来の乗降性の良さ、荷物の積み込みなどのパッケージ技術とハイブリッド搭載が競争のキーになってくると考えます。
その中でも、ここで技術的に注目したいのは、低床技術です。今回、トヨタノア&ヴォクシーは扁平タンクを採用し、フロア下に収める部品を扁平にして、相当フロアが低くなっています。後ろの席への乗り込み高さが360mmと低く、しかもステップなしなのでそこがフロア高さという、かなり低いものになっています。
ホンダ・ステップワゴンも同じステップなしで390mm。日産セレナはステップありで、この二車の中間くらい。ステップに関しては、今後子供の乗降性だけでなく、高齢化社会を迎えることもあり、その際にやはりないほうが良いかなとは思います。これは、私がホンダに在職していたとき、エリシオンの企画時にもこだわった項目です。ステップがあると降りる際に、意外と「あれ?」となるんですよね。
あと、ミニバンというのはライフステージ商品と思っていましたが、実はライフスタイル商品となってきています。この頃は、子供さんが高校に入ったりして、ミニバンに乗ってくれなくなっても、ちょうどその頃、自分の親が70歳くらいで、「ミニバンは乗降性が良くていいね」となる歳になり、結局ずっとミニバンが良いとなるお客さんが増えているということです。
だから、公共バスなんかも低床化しているように、ミニバンは低床化が大切な商品要件になってくるのではと考える訳です。
◆結局はお客さんが認知するブランド力が大切
ホンダではハイブリッドも載せるであろう次期ステップワゴンがどれくらいの低床でくるのかが楽しみです。コストもかかりますから、オデッセイ並みにできるか。そしてするのか? もちろん日産セレナも指をくわえて見ている訳にはいきませんしね。
低床化は乗降性だけでなく、室内スペースが広くなり、その分トヨタ・ノア&ヴォクシーのように全高も下げられます。そうすると重心が低くなり走行安定性も良くなり、さらに空気抵抗が下がり燃費も良くなるメリットがあります。
とにかく、日産セレナに次ぐ販売をしていたトヨタ・ノア&ヴォクシーが、今回かなりの競争力を持って生まれ変わり、今後増々この5ナンバーミニバンマーケットの競争が激化して、切磋琢磨され、お客さんにとって良い商品が生まれてくることでしょう。
その際、お客さんにとってそれぞれのクルマの個性、言い換えるとセールスポイントがわかりやすくなっていることも大切になってきます。
だって、似たクルマが三つあってどれ選ぶか?となった時、お客さんがその商品の差を認識できなければ、これは価格競争にしかなりませんからね。価格競争に入り込まないように、商品個性=ブランドを如何にお客さんの頭の中にいれるか?最終的にはこの競争だと思います。