繁浩太郎の「言いたい放題」第1回の始まりです。
先日スズキ・ワゴンRと2013年末に新発売されたホンダ・N-WGNについて、FMヨコハマで放送している1月18日のモーターウィークリー(PODCASTで聞くことができます)で、話題にさせてもらいました。
今回はここで、それをさらに詳しくお話したいと思います。
◆ワゴンRとN-WGNが背負う役目
ずばりこの2台の試乗結果からいうと、「ワゴンRは典型的な軽自動車」「N-WGNはこれからの軽自動車」というのが、私の感想です。
「典型的な軽自動車」という意味は…都市部というよりは地方の街で使われ、そして公共交通機関が少ない、またはクルマがないと不便で、移動手段の主役になっているクルマ。極端な場合、一家に大人の数だけクルマがあり、それらを全部保有するとなると、税金などいろいろな経費がかかって、費用がかさんでしまう。そんな場合に選ばれるクルマ…ということでしょうか。実際に文章にすると説明が難しいですね(笑)。またそういう軽自動車は一家に2台目のクルマ、1人で2台目のクルマとしても選ばれています。
そういう環境や事情の中で、選びやすく乗りやすくなっているのが「典型的な軽自動車」という意味になります。
走行条件でいえば、高速道路などを走る頻度が少なく、ご近所への街乗りが多く、ゴーストップが頻繁で、曲がることも多くなりハンドル操作も頻繁になる。そんな使われ方がされるのも典型的な軽自動車の特徴といえます。
一方、「これからの軽自動車」というのは、都市部を中心にしたエリアでは、普通車から乗り換えるダウンサイザーで一家に1台で乗るという使われ方。また地方であっても比較的高速道路を多く使ったり、遠乗りを頻繁にしたりと、より広範囲な使われ方をしていくのではと思います。
改めて、ワゴンRとN-WGNの2台を試乗比較してみて、背景にこういうような使われ方の違いがあるのを実感しました。
◆2車の違いは……
クルマの性能には色々なファクターがありますが、高速道路での性能をみると、N-WGNは軽自動車で普通車より小さくて背が高く造ってあるにもかかわらず、普通車と同じように、あるいは一部の普通車を上回る安定性を持って走る性能があります。一方、ワゴンRは高速ではクルマ自体がちょっと真っ直ぐ走りにくいシーンもあって、細かなハンドルの修正を必要とし、高速走行に慣れない方には、ちょっとシビアなフィーリングかなと思いました。ですが、一般道ではN-WGNよりワゴンRのほうが乗り心地がよく、ハンドル修正の傾向はあっても、そんなに気にしないでスムーズに走ってくれます。
このように、片方の価値観でいうと、もう片方は至らない場合が出てきます。もちろん、この反対もある訳です。もっと極端にいうと、走り屋さんの聖地(?)ドイツのニュルブルクリンクで軽自動車を走らせたとすると、「これはないな」となりますよね。しかし、そのニュルでタイムの良いクルマを街乗りで使うと、扱いにくくて軽自動車に負けるかもしれません。
まあこれは極端な例ではありますが、私が言いたいのは、一方的な価値観でクルマの評価はできないということです。ワゴンRもN-WGNも、それぞれのお客さんの要求やマーケットに対して、その人達が良いと感じるクルマを造っているということです。こういう見方をすると、それぞれの性能の違い、という意味もわかってきますよね。
さらには、こういう乗り方をして欲しい、こう使って欲しい、そのためにこうすべきだという、メーカー側、つまり作り手の想いも実は入っていて、これがまた大切なんです。こうした作り手の想いの話は、また今度どこかで詳しくお話ししたいです。
◆マーケット解析からのクルマ造り
もう一つ、ザ・モーターウィークリー2月8日オンエア分(番組バックナンバー。 *PODCASTは2月10日公開予定)の収録でお話をした分で話題に出した、マーケットの分類の説明、オタク層、先行層…などユーザー層の話をキチンと話しておきたいと思います。
直接的なクルマの話と違うやんか!と思われるでしょうが、これが繋がっているんですよ。作り手はこれを凄く考え、そして、それが商品に反映されます。また、こういう概念でクルマ、商品を見ていくのも面白いですよ。
ザ・モーターウィークリーの放送の中では、ワゴンRは「老舗ブランド」と言いました。「老舗ブランド」と言っている私の意味は「○○と言えば○○」というように誰もが認知しているもので、それが長く続いていることを言っています。つまり「軽自動車といえばワゴンR」となるわけです。元ホンダマンの私としては悔しいですが…(苦笑)。以前は「軽自動車といえばアルト」…で、再度苦笑。
老舗ブランドは、お客さんがその商品ジャンルの購入を考えたときに、真っ先にお客さんの頭に思い浮かぶもので、当然購入確率があがります。だから、クルマに限らず、どの業種でも「○○といえば○○」を目指すんですよね。
おわかりのように、「先駆者」または「初」でないと老舗ブランドにはなりにくいのです。もっと言うと、そのカテゴリーを作ったと言われるくらいになり、「お客さんの共感を多く得たもの」かな…。
「初」というのは大切ですが、なかなか難しいことでもあります。作り手は他に先駆けて、まだ多くのお客さんに受け入れていただけるかどうか確信がなくても「初」と言われることを目指し、市場に出すことがあります。最初は多くのお客さんは首を傾げるけど、中にはすぐ「コレは良い」と分かって購入する人がいます。そうすると、その人の後に「コレは良い」と続く人が続き、その流れが繰り返されることでブランドに育っていきます。この流れを「初」にやったものが「老舗」になるんですね。
こうやって考えてみると、ワゴンRは今では「老舗ブランド」ですが、出た頃は「初」で多くの人は「なんか背が高くて大きいね、これでも軽?」と自分の近くのモノとしては考えなかった人が多かったと記憶しています。そんな中ですぐにコレは良いと思って買ったお客さんも多くいて、この人達をわれわれ開発陣は「先行層」と呼んでいます。
また、その後に続く「多くのお客さん」のことをザ・モーターウィークリーの放送では、「メイン層とかフォロワー層」という言い方をしました。少し異なる層として「オタク層」のお客さんの話も、飛行機のパイロットに例えて説明しました。
飛行機の乗客はほとんどの人がパイロットにはならないし、パイロットも現役を辞めない限り完全にお客さんにはならないですよね。だから、パイロットはパイロットのままで一般客にはなかなかならない。オタクはオタクのままでフォロワー、中間(ボリューム)層にはなかなかならないということなんです。
◆N-WGNとはどんな商品か
ところで、ワゴンRはもともと「10人に一人のクルマ好きの先行層」が買って「メイン層」に広がって「老舗ブランド」になったと言いましたが、N-WGNはどういうふうに捉えればいいのでしょうか?
一見、ワゴンRやムーブが作った今あるハイトワゴン市場にフォロワーで入ったように見えますが、狙いはまったく異なるんですね、これが。
ハイトワゴン市場といっても、動いています、時代とともにね。その動いている方向をキチンと捉えて、その方向性にのっとった先の商品を企画して、新しくマーケットを作っていく。そういう見方をすればN-WGNは「初」で「先行層」を狙ったことになります。
つまり、今の軽自動車マーケットの大きな流れは「軽だから仕方ないと言わず」「2ndカーでなく、これ一台で全て」というように、「普通のクルマとしての位置づけ」が求められているのかなと思います。
当然、造る方からすれば「それだったら普通乗用車を買ってよ」となる訳ですが、逆に言うと、これを乗り越えるとそこには「大きなマーケット」が待っているということにもなりますよね。ホンダはそこにチャレンジしたんです。
そのために、もちろん詳しくは言えませんが「会社の体質」を見直ししたんですよ。営業・開発・工場・造り方・ボディ構造・エンジン・トランスミッション…全てを。
いわゆる4Pという概念がありますが…4PとはPLACE(販売店)、PRICE(価格)、PRODUCT(商品)、PROMOTION(宣伝)のことで、事業を行なう上での大切な要素と言われています。
N-シリーズ開発ではこれら全てに対応しています。販売は入りやすく、選びやすく、居心地がいい「ホンダカーズ スモールストア」展開。価格はお客様に納得していただける価格設定をするために、共用化を推進したコスト戦略。商品はマーケットを創れる先行商品。
大きくはセンタータンク化することで、これ1台で十分とお客さんに言ってもらえる「居住スペースと荷室スペース」の凄さ。さらに前席も、普通車から乗り換えても違和感のない高級感と操作性・安心感…。商品の広告宣伝では「Nシリーズ」と言っているのもその展開の一つですが、ホンダの軽自動車ブランドの作りを考えた展開なんです。
こうやって、ホンダがやってきた軽自動車のマーケットは今後どうなっていくのか? そうそう、日産・三菱連合も参入してきています。さらに、軽自動車の税制や消費税、ガソリン価格、環境などいろいろなファクターがあって、日本の経済全体にも影響の大きいのが軽自動車のマーケットです。とにかく日本の新車販売の半数近くが「軽自動車」となり、今後も伸びが予想されていて、まさに、今後目が話せない状況と言えるでしょう。
こういう視点にたっていろいろ皆さんと考えていけたら良いなと思っています。今回はこれで「おしまい」ですが、今後も宜しくお願いします。