【舘さんコラム】202年への旅・第14回「充電の旅シリーズ14 スーパー・セブンに聞け」第12話 プラグイン・ハイブリッドって何だ?

舘内コラム 充電の旅シリーズ14
充電の旅は、いよいよ八戸を出発。八戸港にて一枚

そもそもプラグインハイブリッド車ってなんだ。よくわからないとエッジ舘野は思っていた。

シュツッツガルトにて

そんな素朴な疑問を、シュツッツガルトでMr.舘内にぶつけてみた。シュツッツガルトには、シュロスプラッツに宮殿がある。Uバーンの駅が隣接しているので便利だ。宮殿の前には広場があり、大きな池と緑の美しい芝生で囲まれている。市民の憩いの場である。また併設されているオペラハウスも有名だ。

エッジ舘野は、そこに併設されている現代美術館でお茶をしようとMr.舘内を誘った。コーヒーハウスには、ガラスのテーブルとプラスチックの洒落た白い椅子が並び、壁には現代絵画が掛けられ、カンバスを持った美大の学生や、若い女性たちが楽しそうに話に興じていた。その片隅のテーブルにエッジ舘野はMr.舘内を案内した。

シュツッツガルトは、ダイムラー社とポルシェ社もある工業都市である。一方で、この2社の博物館もあり、美術館にも恵まれている。また、シュツッツガルト・バレエ団は世界的に有名である。日本でも何度も公演している。そのたびにMr.舘内は妻に引き回されて上野の東京文化会館に行った。シュツッツガルトは、工業都市であり、文化都市でもある。

「シュツッツガルト・バレエは、ジョン・クランコが芸術監督になって振付けると、大評判になって、世界的なバレエ団になった。演目の『オネーギン』は有名だ…」

Mr.舘内は、好きなバレエの話になると止まらない。それを制してエッジ舘野はプラグインハイブリッド車の話に振った。「そもそもあれはなんなんだ」と訊いた。

「いや。待て。オレがいいたいのは自動車の工場がある町でバレエ団があったり、オペラハウスがある町が日本にあるかということだ。豊田市にもホンダの大きな工場のある鈴鹿市にも、浜松にも、広島市にもない。この違いが、ヨーロッパ車と国産車の違いなんだ。高級車を作りたければ、まずはわが町の文化度をあげろと言いたいのよ。オペラハウスのひとつもなくて、わが社は高級車メーカーだなんて、10年早いわけ」

エッジ舘野は、「このままでは、いつもの舘内節が始まる」と思った。「わかった。わかった」と相槌を打ちながら、「頼むからプラグインハイブリッド車の話をしてくれ」と言った。舘内は、「わかった」といって話を変えた。

プラグインハイブリッド車ってなんだ
「プラグは、電気コードの先についているやつだよ。そのプラグをインだからコンセントに差し込むわけだ。そうしてクルマに積んだバッテリーに充電する。その電気でしばらく走れるハイブリッド車ということ。ハイブリッド車であり、電気自動車でもある」
「それはトヨタとかホンダのハイブリッド車じゃできないの?」
「できない。ハイブリッド車は、自分のエンジンと回生ブレーキでしか充電できない。コンセントの電気からは充電できない。あれは基本的にエンジン車なのよ」

「ハイブリッド車はエンジン車って? 」。エッジ舘野は、天才のくせして良く分からなかった。

「エンジンには、あまり得意じゃない効率の悪い領域がある。たとえば低速だと効率が悪い。そこで低速で走るときは、効率の良い領域で発電した電気でモーターを回してエンジンを補助する。エンジンはタイヤを駆動するだけではなく、必要に応じて発電機も回してバッテリーを充電する。これがトヨタ式ハイブリッド車。ホンダ式は、そんな面倒なことはやらない。いや、できない。いや、やらない」

DSC02449-1660x1106
種差海岸の食堂で
舘内端 充電の旅シリーズ
種市のはまなす亭 ようやく仮設でラーメン屋を開けた。良かったね。

 

「ホンダは技術がないの? 」エッジ舘野は不審に思って訊いた。

「97年に初代プリウスを出したとき、ホンダはびっくりしたと思うよ。青天の霹靂だったと思う。とくにトヨタに対しては負けず嫌いが激しいホンダは、すぐに研究所に命じてハイブリッド車の完成を促した」。
「それで…」
「たぶんトヨタ式はできなかったのだ。だってね。トヨタは90年代の初めから会社を上げてハイブリッド車の開発に取り組んだのよ。当時の社長の豊田章一郎さんの直々の命令だったから。ようやく97年の暮れに発売できた。ホンダは97年にインサイトのコンセプトカーをモーターショーに出し、その2年後の99年に初代インサイトを発売した。いくらなんでも開発期間が短い。一方、トヨタ式は複雑極まりない。いまでも他メーカーがまねできないほどの技術だ。ホンダは、特許の問題もあるけど、技術的にトヨタ式はあきらめたと思う」

「なるほど。トヨタ式ではないとすると…」
「ホンダ式だ。エンジンで充電できないわけではないが、基本的に回生ブレーキで充電する。構造は簡単で、制御もやりやすいが、燃費はトヨタ式を上回れない」
「でも、さすがのトヨタ式もコンセントからは充電できなかったってことだ」

エッジ舘野には、ようやくトヨタ式とホンダ式とプラグインハイブリッド式の違いがわかってきた。

「ただし、アコードのPHEVのハイブリッド部分はトヨタ式だ。アクセルを踏み込むと、エンジンがブンブンいうのだが、スピードは出ない」
「それじゃあCVTみたいなもの? 」エツジ舘野は、ありったけの頭を使って考え、疑問をぶつけた。

「そう。トヨタ式は、エンジンの力をタイヤを回すのと、発電するのと、二つに分割するんだ。その部分に遊星歯車を使ってる。それで、エンジンがブンブン回っても、必ずしもタイヤも同じように回転するとは限らない。エンジンの回転と車速にずれができる」
「なるほど、それでトヨタ式をマニュアルミッションが好きなヨーロッパ人が嫌いなわけだ」エッジ舘野は、納得した。

「乗り味を大事にする高級車には向かないと思うよ」と、Mr.舘内は、めずらしく個人的な感想を言った。

DSC02479-1660x1106
久慈市で充電 電気がまだあってもクイックチャージの看板を見ると充電したくなる。

ハッキングされたプリウス
「2代目プリウスがカー・オブ・ザ・イヤーを逃したとき、トヨタの某役員に『プリウスがカー・オブ・ザ・イヤーを逃したのは、外部から充電できないからだ』といってやった。その役員は、『そんなむずかしいことが選考委員にわかるか』みたいな顔をしていたが…」と、Mr.舘内は、そんなエピソードを加えた。

「それって、なぜ2代目プリウスをプラグインハイブリッド車にしなかったのかと詰問したってこと?」エッジ舘野は驚いて訊いた。「天才」の名前はMr.舘内にふさわしいと思った。

「いま考えれば、そうだ。しかし、さすがのオイラも2003年当時、プラグインハイブリッド車は考えつかなかった。それでも、オイラは電気自動車党の党首だから、プリウスを少しでも電気自動車に近づけたかった。それでそんなことを言って、煙に巻いたわけさ」
「ふーん」
「そうこうしていると、米国の友人からプラグインハイブリッド車のニュースが入ってきた。そこで日本EVクラブで特派員を米国に向けた。オーストラリアで英語を学んだからツデイをツダイと発音する木野良一というライターだ」

「それはいつ? 」
「06年だ。カリフォルニア州のフリーの電気自動車エンジニアたちが、プリウスのコンピューターをハッキングして、補助電池を積んだ。構想は02年から03年だったというから、ずいぶん早いね」
「それで?」
「木野が試乗するとガンガン走る。バッテリーを余計に積んでいるから、力が出るんだ。驚いたのは燃費。開発者は60km/Lとか、70km/Lとかいうのよ。コンセントから電気を取って充電した電気でしばらく走るんだから、その間はガソリンは使わない。燃費は良くなるってわけだ」

ということは、プラグインハイブリッド車はカリフォルニア州のフリー電気自動車エンジニアが発明したってこと?」
「少なくともプリウスプラグイン・ハイブリッドは彼らの発明だ」

DSC02489-1660x1106
NHKの朝ドラ「あまちゃん」の撮影場所 見学に来た夫婦と漁師の夫婦と。

トヨタの逆襲
「おもしろいのは、その噂を聞いたトヨタが、40億円かけてプリウスを改造して40台のプラグインハイブリッド車を造ってテストしたっていうんだ」
「それってガセネタじゃないの?」エッジ舘野は訊いた。

というのも、Mr.舘内がよくウソとも冗談ともつかない話を平気でするクセを知っていたからだ。ある自動車評論家は「Mr.舘内の話は7割がウソだ」というので、「残りの3割は冗談だぞ」と教えてやったほどだ。

「ウーン。確証はない。しかし、全部ウソともいいがたい。トヨタとしては、プリウスの制御方法をハッキングされたのも悔しかっただろうが、プリウスよりもずっと燃費の良いハイブリッド車をフリーのエンジニアに造られたことが気に食わなかったに違いない。世界のトヨタが個人の集団に負けたわけだ。このままにしておけば、世界最高の燃費車は、カリフォルニア州のハッカーの造った改造プリウスプラグイン・ハイブリッド車になってしまう」

「それで急いでトヨタでもプリウスを改造してプラグインハイブリッド車を造ってみたと?」
「確証はなにもないけどね。考えられないわけでもないってこと」Mr.舘内が答えた。
「ちょっと待ってよ。この話って、大企業対個人って話でしょ。で、個人が勝った? これってカリフォルニア州の学生にパソコン作られて巨大IBMが負けたって話に似ているかも」。珍しくエッジ舘野が天才ぶりを発揮して、話を進展させた。

重厚長大vs軽薄短小
「自動車って、燃料のガソリンの供給を含めて、重厚長大な産業なのよ。巨大な研究所で何万人もの研究者が働いて、巨大な工場で何10万人もの労働者が働いて生産する。その燃料は、中東の砂漠に巨大な石油掘削機を設備して掘り出し、長い、長いパイプラインでペルシャ湾に運んで、米国の第5艦隊に守られて巨大なタンカーで運ぶわけだよ。まだある。その原油は巨大な化学プラントで精製して、タンクローリーで運んでガソリンスタンドで販売する。これもまた重厚長大ってこと。いずれもしても20世紀型の産業だね。その反対が電気やコンピューターの世界さ」と、Mr.舘内は、エッジ舘野の話をさらに発展させた。

エンジン車がガソリンスタンドで数分で燃料を補給できてと、便利な背景には私たちが日常では目にすることのない巨大な設備、インフラスクラクチャーが必要なのだ。

「コンピュータはガレージで数人で作れる。電気自動車は、改造車であればガレージで、しかも素人で改造できる。これってなんかまずいんじゃないの?」

エッジ舘野は、何か危険な領域に踏み込んでしまったような気がした。言ってはいけないこと、気づいてはいけないことに気づいてしまったような気がした。

シュツッツガルトの現代美術館に差し込んでいた秋の日差しは次第に弱くなり、木々の葉の影は濃くなってきた。しかし、エッジ舘野とMr.舘内の話は終わりそうになかった。紅い夕日を浴びて、Mr.舘内の瞳が少し潤んだ。今は亡き徳大寺有恒氏を思い出したのかもしれなかった。「そうだよ。徳さんは本当のことをずっといってきた。真実を言うと、いろいろなところからバッシングを受ける。でも徳さんはそれにじっと耐えてきたんだ。自動車評論家の鏡だ」と言いたかったのかもしれなかった。

では、Mr.舘内の真実を次回でも聞こう。

DSC02491-1660x1106
あまちゃんと会いたいなあ じっと港を見る。
DSC02497-1660x1106
うしろがあまちゃが海に飛び込んだ土手。

 

ページのトップに戻る