【舘さんコラム】2020年への旅・第8回「充電の旅シリーズ8 スーパーセブンに聞け 第6話」

山東からの電話

EVスーパーセブンで日本1周急速充電の旅を続ける寄本好則は、北海道の旅を終えようとしていた。本州に渡るその前々日の9月30日に、某自動車メーカーでEVを開発する山東から電話があった。小樽のホテル、ソニアで洗濯を終えた寄本が電話口に出ると、山東は、「本州に渡るのはいつですか。ぜひ会ってほしい男がいるんです」と、訊いてきた。

photo3110km
EVスーパー7の旅も北海道を離れて、いよいよ本州へと渡る

「明日、小樽から倶知安まで走って、そこで泊まって、翌日の10月2日かな。小樽から倶知安までは70kmって短いんですけど、倶知安で充電しておかないと、次の八雲までの110キkmを走り切れない。EVスーパーセブンの航続距離はおよそ120kmで、ぎりぎりなんです。それで倶知安で泊まります」
「なるほど。で、八雲から函館に行って?」
「そう。その日のうちに函館からフェリーに乗ります」
「青森行き?」
「いや。大間に渡ります。核施設のある六ヶ所村に寄りたいんで」
「すると函館発16時半の大函丸ですね。大間着が18時。宿泊はどうしますか?」
山東は畳み掛けるように訊いてきた。

「海峡荘。以前、取材で大間に行ったときに泊まった宿です。マグロが旨いっす」
「わかりました。そこに行かせます」
山東は寄本の了解も取りつけず、その男を海峡荘に行かせると決めた。

寄本はあっけにとられたが、それよりも山東の「会わせたい」という人物に会いたかった。例によってライター魂がうずうずしてきたのだ。「わかりました」。寄本は山東の申し出に頷いた。

知らないことを知りたい。それは寄本のライターとしての本能だった。30年近いライター生活を支えてきたのも、これであった。寄本はふと、「この旅に出たのも、この気持ちかも」と思った。

もちろん、日本各地の風物やらご当地の食材に興味がないわけではない。しかし、それらはすでに知られて久しい。それよりも、この旅が寄本を激しく揺さぶるのは、電気自動車で変わりゆく日本であり、人々の姿ではないだろうか。

これまでの経験から、電気自動車が人々の心を揺り動かすことを寄本は知っていた。初めて電気自動車に乗った人は、みな顔をほころばせる。自分の中の固定観念のようなものがガラガラと崩れて、新しい自分にポンと出会う。その嬉しさかもしれなかった。

ボンネットを突き出し、背が低く、やたらとステッカーを貼ったブリティッシュグリーンのEVスーパーセブンが、町を、村を走るとき、何かが変わるはずだ。それが見たかったのではないか。それが知りたかったのではないか。

iMIEVオーナー
i-MiEVのオーナがEVスーパーセブンの旅を知って旭川から余市まで駆けつけてくれた
ホテル羊蹄山
倶知安ホテル羊蹄にて、函館を目指す前に一休み

 

「山東もそうかもしれない」。寄本は、厳冬期北海道EVラリーについて夢中になって話す山東の姿を思い浮かべた。

厳冬期の北海道で地吹雪が吹き荒れる中、何百台の電気自動車が音もなく、ガスも吐かず、連なって雪を巻き上げて走る。そんなとんでもない景色を見た北海道の人たちが、どんな顔をするのか。顔をゆがめて「危ないからやめろ」と非難するのだろうか。驚きのあまり口をポカンと開けたままになるのだろうか。「ガンバレ、電気自動車」と夢中になって応援してくれるのだろうか。

photo5
札幌日産倶知安店、函館に行く前に充電をさせてもらう

それは、明治という日本を激動させた時代に現れた陸蒸気(おかじょうき)と呼ばれた蒸気機関車を見た人々の姿に重なる。山東は気づいていないかもしれないが、彼はそうした人々の顔を見たいのだ。

時代は大きく変わろうとしている。その現場に居合わせたいと思うのは、一人山東だけではない。「オレもそこに居て、しっかり見届けたい」。寄本は、そう思った。

ラリー・イン・白馬

寄本は、10月2日に函館発16時半の大函丸に乗るまでの待ち時間に、これまでの山東とのいきさつを私に連絡してきた。

函館港
函館港。いよいよ北海道に別れを告げて大間へ

 

「山東さんが会わせたい男がいるっていうんですよ。そうとうに変わった人らしいです」というから、「アンタもそうとうに変わっているよ。なんてたって急速充電の旅に出てる。やたらじゃ、こんな旅しないよ」と言ってやった。寄本は、素直に「そうでしたね」と答えた。

そして、「旅に出てよくわかったんですが、EVスーパーセブンは、いいっす。ほんと、気持ちいいっす。最高に気持ちいいっていわれるアルファのジュリエッタ持ってますけど、どっちがいいってEVスーパーセブンなんですよ」と加えた。後日、寄本は旅を終えるとアルファを売ることになるのだった。

EVスーパーセブンは、各地で人気者である。急速充電の旅の前に行なった「東京ラン」のときもそうだった。立ち寄った場所に集まった人たちを助手席に乗せて走る。すると、いい大人が涙を流して喜ぶ。

東京ラン
東京ラン原宿。セブンと横浜ゴムのエアロY。2台ともすごい人気だ
東京ラン
明治神宮で旅の安全を祈願してお祓いを受ける

 

中にはマニアがいる。すると必ずといっていいほど、「どうしてケーターハム社は電気のスーパーセブンを発売しないんですかね。出れば、すぐ買うのに」という。EVスーパーセブンがあまりにも気持ち良いので、欲しくて仕方のない様子が伝わってくる。ケーターハム社とは英国にあってスーパーセブンを生産、販売しているいっぱしの自動車メーカーである。

「いや、いや。出さないわけではない。160Rという軽自動車のエンジンを搭載したスーパーセブンにEV仕様を作る。スーパーセブン160Reだ」と冗談をかました。

すると、「ほんとうですか?」と訊く。顔を見るとマジだ。まずい。この手のマニアには冗談が通じないのだ。悪いことをしたと思った。さらに、そばにいた寄本は、「出れば私だってほしい。アルファを売って買う。絶対にいいと思う」と、こちらもマジ顔でいう。参った。そういいながら、「160Reか。悪くはないな」と私も思った。

「日本中のEVが一カ所に集まったら壮観だろうなあ」

いきなりだったが、話題をふった。EVスーパーセブンとはいわずEVを何台も集めてみたいのだ。時代が変わることを、この目で確かめたかった。

白馬
今年の夏の終わりに白馬で世界一のEVラリーが開催される

「白馬EVラリーでしょ?」
「日本に乗用車のEVって4万5000台て話よ。全長を4mとして、180kmもつながる。東京から東名高速の吉田インターチェンジまで、ずらーってEVが並ぶわけだ。車間距離考えて1台で10m取ると450km。岐阜羽島の栗東インターチェンジまでつながって走る。やってみたくないか?」
「やりましょう。おもしろい」
「それは無理として…」
「なんだ」
「日本のまんなか。日本の臍(へそ)の長野県白馬村に、全国のEVが集まってくる」
「日程決まりました? 」
「決まったよ。2014年の9月6日の土曜日と、翌7日・日曜日の2日間。白馬村に日本中のEVに集まってもらう。4万5000台の1%だって集まれば450台になる。世界最大のEVラリーになるはずだ。ギネスが取れる。3つめだ」

白馬村を埋め尽くすEVの群れが、音も出さず、排ガスも吐かず、漆黒の闇をヘッドライトで照らす。平成の陸蒸気に人々はどんな反応を示すのか…。 続きは次回に。

2020年への旅 スーパーセブンに聞け 第7話
2020年への旅 スーパーセブンに聞け 第5話
日本EVクラブ公式サイト

COTY
ページのトップに戻る