プラットフォームとは、クルマの骨格を支えるベースフレームを意味する。その昔はスチール製の梯子形、X字形などのフレーム構造が採用されていたが、現在はボディ全体がモノコック構造、あるいはユニット構造と呼ばれる板金製のボディに変化している。
■フラットフォームとは
プラットフォーム(日本語では車台と表現)と呼ばれる背骨に相当するベース骨格は、多数のプレス部品を組合わせて溶接した大型部品で、多くのプレス用金型や大規模な製造設備を必要とするため製造コストが膨大にかかる。そのため自動車メーカーでは新型車を開発するごとに新たなプラットフォームを作ることはせず、流用を行なっているのが一般的だ。
なぜならプラットフォームはフロアを構成する単独の部品ではなく、サスペンションやステアリングの取り付け、エンジン、トランスミッションの搭載方法など、幅広い分野に影響を与えるため、搭載するエンジンやトランスミッションが従来と同じであれば、わざわざ大きなコストをかけてプラットフォームを変更する必要はないからだ。
近年では、クルマのサイズ、クラスが異なっても流用できるように設計段階からサイズの異なる流用要素を盛り込んだフレキシブル・プラットフォームという概念が採り入れられている。1970年代後半にはフォード、クライスラーでこうした概念が採用されている。現在ではメルセデス・ベンツのC~Sクラス、BMWの3~7シリーズのプラットフォームなどは典型的なフレキシブル・プラットフォームとなっている。
■MQBプラットフォーム
いわゆる高級車メーカーは、ラインアップしている車種数はそれほど多くないが、反対に量産車メーカーはエントリーモデルからフラッグシップ・モデルまで幅広いカテゴリーのラインアップを持っており、さらに同じクラスでもセダン、ステーションワゴン、SUV、ミニバンなど多様なバリエーションがある。そのため、すべてに対応できるプラットフォームをどうするか?という点は重要になってくるのだ。
つまり、合理的なプラットフォームを使用すれば、多様な車種が展開でき、開発日数や開発コストを抑えることに繋がるというわけだ。逆に流用範囲の狭いプラットフォームでは、コストばかりが先行してしまう結果になり、避けなければならない。
こうした目的を達成するために、量産メーカーとして初めて、ダイナミックに採用したのがフォルクスワーゲン・グループだった。2012年に新世代プラットフォーム構想を発表した。その新プラットフォーム構想はMQB(ドイツ語:Modulare Quer Baukasten。英語ではModular Transverse Matrix:モジュラー・トランスバース・マトリックス)と名付けられた。
MQBはセグメントの枠を超えて主要部品を共通化し、生産コストと車両価格の抑制、主要技術の共有、そして今後の衝突安全規制も盛り込んだ最高水準の強度を確保すると同時に、次世代環境技術に対応して、ガソリン、ディーゼル、天然ガス、ハイブリッド、EVなどにも適合できるようにした。
さらにエンジンの搭載位置、トランスミッション搭載の共通化やサスペンション取り付けの共通化だけではなく、電装、配線、電子制御システムなども共通化し、電子プラットフォームもモジュール化されている。また最新の衝突安全基準に適合できるように、ボディの強度アップと100kgにもおよぶ軽量化も行なわれている。
結果的に、このMQBはフォルクスワーゲン・グループ全体のCセグメント以下のクルマに適用され、多数のブランド、多数の車種に採用されつつある。またフォルクスワーゲン・グループはC、Dセグメント以上のクルマのために、エンジン縦置きの「MLB evo」と称するモジュラー・プラットフォームも展開している。
フォルクスワーゲン・グループのように多数のブランド、多数の車種を抱えるメーカーにとっては、きわめて重要な技術戦略であることが分かるだろう。そのために生産設備の更新、新コンポーネンツの開発に巨額の投資を行なっているのだ。
■MQBに続く新世代プラットフォーム
MQBは世界の自動車メーカーに大きなインパクトを与え、多くの追従社を生んでいる。最も大きな影響を受けたのはトヨタで、MQBを徹底的に研究し、MQBとほぼ同様のTNGA(トヨタ・ニューグローバル・アークテクチャー)を生み出している。ただし、トヨタのTNGAは現在のところCセグメントに特化している。その理由として、世界各地の工場で生産しているCセグメントのクルマに採用するだけで十分大きな効果が期待できるからなのだ。
■トヨタのTNGA
またTNGAはプラットフォームのモジュール化だけではなく、走りの革新も同時に追求している点が注目される。つまりトヨタはプラットフォームの革新だけではなくトヨタの走り、運動性能をより一段引き上げようという基盤としても位置付けられているのだ。
周知のようにTNGAの第1弾はプリウスで、第2弾が2016年末に発売されたC-HRとなる。C-HRはクロスオーバーのグローバルモデルだが、走りを追求したクロスオーバーという従来にはないポジショニングとなっている。
■スバルのSGP
スバルの運動性能、感性性能を重視した新世代プラットフォームは、2016年10月に発売した新型インプレッサから展開する。従来はインプレッサ系とレガシィ系の2種類のプラットフォームがあったが、車種ラインアップが少ないスバルにとっては1種類のプラットフォームとするのは当然の流れだ。
が、それだけに留まらず、ダイナミック性能やエモーショナルな感性に訴える走りを目指し、SGP(スバル・グローバル・プラットフォーム)を開発した。
そのため、MQB、TNGAとよく似た要素を盛り込み、日本、アメリカでの生産に対応しながらも、MQBやTNGAほど量産におけるコスト削減効果は引き出せない。反面、従来実現できなかったプラットフォームの細部にまで剛性を高めるこだわりを盛り込み、さらに将来の衝突安全性能に適合する対策も採用している。さらに数年のうちにPHEV、EVへも展開できるというユニークなプラットフォームとなっている。
■日産のCMF
日産はプラットフォームのモジュール化戦略としてCMF(コモン・モジュール・ファミリー)を2013年に発表した。コモン・モジュール・ファミリー(CMF)は、エンジンコンパートメント、コックピット、フロントアンダーボディ、リヤアンダーボディ、電気/電子アーキテクチャーといった、互換性のあるビッグモジュールのかたまりを、ルノー/日産アライアンスで複数のセグメントをカバーするエンジニアリング・アーキテクチャーとしている。
つまり日産とルノーで、主要なコンポーネンツを共有するシステムで、MQBとは少し異なり、日産/ルノーのアライアンス効果を引き出すための構想といえる。いわゆるシナジー効果だ。
そのため、プラットフォームの共有化を一気に採用するということではなく、共有できる部分のコンポーネンツをまず共有するという逐次展開を行なっているのが特徴だ。そして購買から車両開発、パワートレーンなどの分野で効果を引き出し、2015年には5000億円に相当する効果を得たという。
なおCMFの小型車両はCMF-A、中型車両はCMF-B、大型車両はCMF-C/Dというラインアップ展開となっている。たとえばクロスオーバー「キャシュカイ(エクストレイル)」は、CMF-C/Dを適用した車両で、日産では3番目のCMFモデルとなり、ルノーは、「メガーヌ」、「エスパス」と「カジャー」という3車種をCMF-C/Dで展開している。またCMF-Aはルノーの「クィード」、日産の「レディGO」などで実現している。
■マツダのスカイアクティブ
マツダはスカイアクティブの名称でモデル共通のプラットフォームを採用している。マツダはこれを「コモン・アーキテクチャー」と名付けている。
ラインアップとしてはBセグメントのデミオからCセグメントのCX-5、Dセグメントのアテンザまでのコンパクトハッチ、セダン、SUVまで展開している。
また、日産のCMFにも似たコンポーネンツの共有化も同時に展開している。スカイアクティブDやEといったエンジンはすべてのモデルで共有化され、トランスミッションも共通の展開をしている。また、シャシーも同様に共通化部品になっている。
■まとめ
フォルクスワーゲンのMQBという、モジュール化プラットフォーム、クルマづくりの戦略は量産メーカーにとっては必須の技術となっている。この戦略は、多様なクルマを開発するために不可欠なのだが、その一方でこの戦略を実現するために、どのような発想でプラットフォームやコンポーネンツを設計するか、また製造技術においてどのように革新するかという質的な点も重要である。
フォルクスワーゲンはMQBを実現するために最先端の製造技術、製造設備を導入するなど巨額の投資を行なっている。その意味では、このプラットフォーム戦略も企業の体力、経営的な投資の決断によって、左右される性質を持っているとも言える。