いよいよ始まる世界統一の燃費表記「WLTC」とは何?

経済産業省、国土交通省、環境庁が連携し、日本に導入される「WLTC燃費」は、2016年10月に発効した。WLTCモードでの燃費表記が義務づけられるのは、乗用車の新型車(フルモデルチェンジ車、完全新型車)が2018年10月から、継続販売車は2020年9月からとなっている。

しかし、2017年6月にマツダがマイナーチェンジされたCX-3のスカイアクティブ-Gエンジン搭載モデルから、早くもこのWLTCモード燃費を採用し、9月28日に発表されたマイナーチェンジ版のホンダ ステップワゴンもWLTC燃費モードを表記。WLTC燃費モードの義務付けは前倒ししてユーザーに発信されるようになっている。

2016年10月に発効した、経済産業省、国土交通省、環境庁が連携して導入した新燃費基準、WLTC

■世界統一のWLTCモード燃費

今まで、日本車はもちろん、輸入車の多くも日本の燃費計測モードである「JC08モード燃費」がカタログに表示されている。

日本でのクルマの燃費計測、表示は長らく「10モード燃費」、1991年からは「10・15モード燃費」が使用されてきたが、2011年から、より実際の走行に近い「JC08モード燃費」が導入されたという経緯がある。

JC08モードの測定パターン図解
JC08モードでの走行パターン
JC08モードの計測方法
JC08モードの計測方法

世界的に見ると、日本はJC08モード燃費・排ガス計測モードだが、ヨーロッパの燃費測定・表示、アメリカの燃費測定・表示はそれぞれ別で、また他の国でもヨーロッパ式をベースにしたローカル・バリエーションの燃費計測・表示法とするなど地域で燃費の計測法や表示が各種混在しているのが実情だった。

しかし、今ではクルマはグローバル商品であり、人々の生活にもかかせない存在になっているだけに、各国、各地域によって燃費の計測モードや表示法が異なるのは不都合であり、自動車メーカーにとっては輸出先に合わせた多種類の燃費・排ガス計測を行なう必要もあって、実情は合理的ではなかった。

アメリカの燃費計測「シティ・モード」とヨーロッパの燃費計測NEDCモードの違い
アメリカのシティ・モード(左)とヨーロッパのNEDCモード

そのため、国連の欧州経済委員会の自動車基準調和世界フォーラムが主導して、主要国による、燃費・排ガスはもちろん、保安基準なども含め世界共通ルールに統一する動きが進んでいた。

このため、クルマの灯火類の保安基準に関しても世界統一化が図られているが、燃費、排ガスに関しては2014年に世界統一基準が確定し、日本もこれに従うという政策が決定したのだ。

世界統一の燃費・排ガスの試験方法をWLTP(Worldwide harmonized Light duty driving Test Procedure)と呼び、具体的な試験モードを「WLTC: Worldwide harmonized Light duty Test Cycle」と称する。

ずいぶん長い名称だが、要するに世界統一基準の燃費・排ガス測定モードを意味している。「ライトデューティ」とは、大型トラックやトレーラーなど重量の大きな車両を除くガソリン、LPG 、CNG自動車とディーゼル自動車を意味している。

WLTC: Worldwide harmonized Light duty Test Cycle クラス3bの走行モードイラスト
WLTCのクラス3bの走行モード。Lowは市街地、Mediumが郊外路、Highが高速道路のモードを意味する

■テスト環境

ちなみにこのWLTCのテスト法は、ヨーロッパ、インド、日本、韓国、アメリカの実走行データをベースに、それぞれの国での市街地、郊外道路、高速道路の平均的な走行パターンを組み合わせて作られている。

またWLTCは、クルマのパワー/重量比と最高速により、クルマのクラス分けが行なわれ、それぞれに応じたテストモードが設定されている。

クラスは超軽量/小パワーのクラス1、軽量/小パワーのクラス2、それ以上はクラス3(a/b のクラス小分類がある)が設定されたが、日本では軽自動車の1~2車種がクラス2で、それ以外はすべてクラス3となるため、統一的にクラス3を前提としたWLTCが採用されることになった。

WLTCは、市街地、郊外、高速、超高速という4種類の速度域が設定されているが、日本ではヨーロッパなどのような超高速走行(超高速:100km/h~135km/h)は非現実的なため、市街地(低速:最高60km/h)、郊外(中速:最高80km/h)、高速道路(高速:最高100km/h)という3パターンが採用されている。

なおWLTCは、世界各国で適用されることが合意されているが、アメリカだけはWLTCは採用せず、従来のMPG(miles per gallon)法を使用するという。ただ、アメリカは従来から市街地、郊外、高速モードでの計測を行なっているため、マイル/ガロンという単位は異なるが内容的にはWLTCとよく似ている。

■JC08モードとWLTCモードの違い

JC08モードのテストはもちろんシャシーダイナモと呼ばれる計測器の上で排ガス、燃費が計測されるが、WLTCもそれは同じで、シャシーダイナモ上で計測が行なわれる。

WLTC シャシーダイナモ上での計測風景
シャシーダイナモ上での計測。タイヤ下のローラーに車両に応じた抵抗を与える

しかし、計測条件に大きな違いがある。まず第一は、計測時に使用する車両の重量分け(等価慣性質量)がこれまでのJC08モードでは階段状に区切られていたが、WLTCモードではリニアな比例状態になり、したがって等価慣性質量の下のクラスを狙って軽量化することで表示燃費を高めるという従来の「決め技」が意味がなくなることがまず大きな相違点だ。

JC08とWLTPの等価管制重量の違い WLTPではステップレス

従来は、テスト時の等価慣性質量=テスト用のシャシーダイナモの抵抗値の設定が段階的にしか設定できなかったのだが、現在のシャシーダイナモは、その車両に合わせて自由に設定できるようになっているからだ。

またテスト時の車両重量も、従来は車両重量+ドライバーという計測重量であったが、WLTCでは車両重量+ドライバー+積載重量(積載率に応じた重量で、乗用車で+15%、商用車で+28%程度)と、やや重い重量での計測となる。

WLTCモードは、JC08モードに比べ計測時の走行距離が増大し、平均車速も、より高くなり実際の走行時の平均車速に近くなっていることも特長だ。さらにテストでの走行時間、総走行距離が共に増加している。またアイドリング時間の比率は減少する。

WLTC: Worldwide harmonized Light duty Test Cycle シャシーダイナモを使用した排ガス・燃費計測システム イメージイラスト
シャシーダイナモを使用した排ガス・燃費計測システム

■ハイブリッド車のデータは軒並み悪化

テストモードに含まれるアイドリング状態の時間が短縮されることは、アイドルストップ付きのクルマの燃費向上率がJC08モードより下がることを意味する。またテスト開始時にはコールド(冷間)スタート、つまり暖機なしでのスタートとなる。JC08モードではコールド・スタートが25%、暖気後スタートが75%をミックスして使用)していたため、WLTCモード燃費はJC08モード燃費より下がることは間違いない。

このコールド・スタートだけでのテストになると、従来はモーターのみで発進できたハイブリッド車は、冷間スタートのためエンジン回転を伴う発進に変わるなど、ハイブリッド車には厳しい燃費・排ガスのテスト法となるわけだ。

テスト時には電装品、エアコンなどは全てオフの状態で計測されるのは、これまでのJC08モードと同じなので、その分はWLTCモードのデータでも、実燃費としては25%程度は割り引いて考える必要がある。

またJC08モードではMTのシフトポイントは決められていたが、WLTCでは各車両の性能、例えば走行に必要な出力やエンジンの出力特性などに合わせて変速できるようになっているので、MT車はWLTCのほうがやや有利な燃費となることも予想される。

JC08 WLTCクラス3a クラス3b それぞれのデータの違い
JC08モードとWLTCモードの比較
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