車体制御と出力制御をするアクセルペダルの話

この記事は2016年11月19日に投稿した【有料メルマガ】を無料化して再投稿したものです。P1J06963s

アクセルペダルは、「加速するためのペダル」という意味だ。英語ではアクセラレーター、ガス・ペダルと言う。自動車が誕生した初期にはペダルではなく、ステアリング部にレバー操作式のアクセル・レバーを配置するというスタイルも存在したが、後には世界的に足踏みペダル式に統一されていく。

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フォードA型。ステアリングホイール右側にアクセル・レバー、左側のレバーは点火進角レバー

クルマを発進、加速するためには変速機のギヤを選び、クラッチを接続しながらアクセルペダルを踏み込むと、エンジンの出力が上昇して加速する・・・というのが発進、加速の一連の操作となる。

アクセルペダルの働きは、ペダルの踏み込みに応じてワイヤー(鋼線)を引っ張り、そのワイヤーはエンジンに装備されたキャブレターのスロットル・バルブを開く。つまりアクセルペダルの踏み込みに対応してスロットル・バルブが開き、エンジンの燃焼室に空気と燃料が供給され、エンジンの出力を増大させる役割を持っている。これがクラシックなエンジンの働きだ。

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電子制御スロットル、つまりドライブ・バイ・ワイヤーのシステム

■ 電子スロットル

エンジンに燃料を供給する装置は、従来はキャブレターを使用していた。エンジンの吸気負圧に応じて燃料を霧吹き機構で供給する仕組みだが、霧吹きの仕組みに頼らない機械式燃料噴射システムが開発され、その後の1960年代後半から1970年代に電子制御式の燃料噴射システムが開発されている。1990年代には世界中のガソリンエンジンのすべてが、この電子制御燃料噴射システムに切り替わっている。

その背景には排気ガス浄化システムとして3元触媒が開発され、3元触媒を稼動させるためには正確な空燃比が求められたからだ。3元触媒を働かせるためには、理想空燃比を保つ必要があるのだが、そのためにエンジンが吸入する空気量を正確に計測し、3元触媒の部分で理想空燃比となっているかどうかを計測。互いの情報をフィードバックして燃料噴射量を決定するシステムが電子制御燃料噴射だ。

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エンジンが吸入する空気量を計測するエアフロー(エアマス)センサー

エンジンの吸気量を計測するのがエアフロー(エアマス)センサー、3元触媒で空燃比を計測するのがO2センサーで、このふたつの情報をベースに燃料噴射量を計算するのがECU(エンジン制御コンピューター)だ。このシステムにより、排ガスのクリーン化と出力の向上を両立させることができるようになった。

そして1990年代後半から、エンジンの吸気量をコントロールするスロットルバルブを、それまでのワイヤーによる機械的な制御から、アクセルペダルの踏み込み量、踏み込み速度に応じてスロットルバルブをモーター駆動する電子式スロットルバルブが登場し、2000年以降はすべてのクルマに装備されるようになった。電子スロットル=ドライブ・バイ・ワイヤーである。

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現在ではアクセルペダルは電気的なスイッチで、配線が接続されているだけ

電子スロットルのメリットは、従来のようにアクセルペダルからエンジンのスロットル部までワイヤー(鋼線)を引き回し、長さを調整するといった組み付けに比べ、電気的なスイッチのアクセルペダルと電子スロットルを配線で結ぶほうが組み立てるときに有利であることと、運転状況に合わせてスロットル・バルブを任意に、自在に自動制御できることがメリットだ。

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電子制御スロットルの構造

■電子スロットルの働き

電子スロットルがコンピュータで自在に制御できるとはどういう意味か? ひとつは、スロットルの開度特性を自由に設定できることだ。ワイヤーでスロットルバルブを機械的に操作していた時代は、スロットルバルブの開度の特性を、アクセルペダルのリンク+ワイヤーで調整していた。

パワーの大きくないエンジンを搭載しているクルマは、アクセルペダルのリンクを工夫することで、アクセルペダルを少し踏んだだけでも、アクセルの踏み込み量以上にスロットルバルブが開く、いわゆる「早開き」の特性にしていた。

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スロットル開度のチューニングと加速特性

これによりドライバーが予想した以上の加速が得られ、結果的に発進加速の力強さを感じられるようにチューニングできるのだ。もちろん、この場合はアクセルペダルを大きく踏み込んだ場合には、エンジンの出力は本来の実力の範囲でしかない。

電子スロットルは、こうしたスロットルバルブの開き方を自由に設定できるので、アクセルペダルの踏み込み速度が速い場合には、スロットルバルブを急激に開け、アクセルペダルをゆっくり踏んだ時はスロットルバルブはよりゆっくり開く、あるいはアクセルペダルを少し踏んだときでも大きめにスロットルバルブを開く早開きといった特性を演出することができるのだ。

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電子制御スロットルはモーターでバタフライを開閉させる

■ 新たなスロットルバルブの役割

2000年代に入ると、エンジン制御のロジックも大きく進化した。それまではアクセルペダルの踏み込み量、つまりドライバーが要求するエンジンのトルクは吸気量によって決定され、その吸気量に応じた燃料が噴射される仕組みとなっていた。

しかし、トラクション・コントロール、ESPなどクルマの運動を制御するシャシー電子制御システムが登場すると、そのシャシー制御システムに応じてエンジンの出力もコントロールする必要が出てきたのだ。そのため、エンジン制御は従来とは異なる「総合トルク制御」という制御ロジックが採用されるようになってきた。

この制御ロジックは、ドライバーのアクセルの踏み込み量でドライバーの意思を検出すると同時に、その時点でのタイヤに求められる駆動力をECUが演算し、そのトルクが得られるように電子スロットルを自動制御するシステムだ。

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この制御を採用することで、ESPが作動した時に自動的にスロットルバルブを絞ってエンジン出力を低下させることが実現できるようになった。また駆動輪のトルクを推測することで、そのトルクに見合う変速ギヤを自動選択できるというエンジン、トランスミッションの統合制御もより円滑に行なうことができるようになるなど、従来では不可能だったことが実現している。

さらに、年々高まる燃費性能向上の要求に合わせ、運転中に自動的にスロットルバルブを開けて、ポンピング損失を低減させる技術にも電子スロットルは使用されるようになっている。

低負荷での走行時にはスロットルバルブを開き、同時にEGR(排気ガス循環)を吸気側に導入することでポンピング抵抗を低減することができる。つまり低速・低負荷で走行中は、ドライバーがアクセルペダルを軽く踏んでいるだけだが、実際にはスロットルバルブは大きく開いた状態で走っているのだ。

このように電子スロットルバルブの実現により、アクセルペダルはドライバーの加速意思を検出するセンサーとなり、加速特性のチューニングを行なうことができることと、ESP、トラクションコントロール時のエンジン出力の始動制御、燃費性能向上のためのスロットルバルブの自動制御が行なわれており、クラシックな機械式のアクセルペダル、スロットルバルブの時代とは大きく役割が変わってきているのである。

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