現在のクルマでは、エンジンやモーターの制御、進化したインフォテイメント、高度運転支援システム、シャシー統合制御などが不可欠になってきている。そして各分野のコントロールには多数のECUが搭載され、CAN接続されている。
CAN(コントロール・エリア・ネットワーク)はボッシュが開発した車載用通信規格で、多数のECUやデバイスと接続され多重通信を行なっている。例えば、車速、エンジン回転数、トランスミッション制御、パワーステアリング、オーディオ、パワーウインドウ、ブレーキの油圧制御、故障診断などクルマのコントロールに関する情報の通信に使用されている。

しかし、多数のECUを接続する時代になり、新たなニーズ、例えば無線通信アップデート(OTA)や、より進化した通信を含むインフォテイメントなども実現しており、より情報を高速かつ大量に転送する必要性が高まってきている。
例えば、高度運転支援システムでは、多数のセンサーを使用し、走る、曲がる、止まるに関連するユニットが協調して作動するには、複数のECUユニットが相互に同期し、より高速に通信することが求められる。

現在の標準となっているCAN、CAN fd Linなどは低速通信プロトコルを使用しているため、限界を迎えているのだ。また、無線によるECUのアップデートなどの機能を追加するには、ハードウェアとソフトウェアの両方で車載ネットワークが複雑化し、ワイヤハーネス数やゲートウェイの追加などによりコストが増大しつつある。
オンセミ社は、こうした現状に対して集中型で一元的な通信ネットワークが不可欠だと考え、より高速でシンプルなイーサネット「10BASE」の導入が必須だとしている。

オンセミ社はアメリカ・アリゾナ州に所在する半導体メーカーだ。オンセミの源流はモトローラ半導体で、同社からスピンオフの後、企業買収により三洋半導体部門やフェアチャイルド半導体を始め、次々に半導体企業と合併し、世界規模の半導体開発、製造企業となっている。自動車、通信、コンピューター、民生用、医療用、工業用など多分野の半導体を開発、製造している大手だ。
現在の自動車業界で注目を集めるSDVや、E/E(電気電子)アーキテクチャーで駆動コントロール、インフォテイメント、シャシー制御など各ゾーンアーキテクチャーの実現に向けて、オンセミはイーサネット化が必須としている。
自動車におけるイーサネットの採用は15年前にBMWが初めて自動車に導入し、車両診断用テレマティックス、ソフトウエア更新など特定の分野に採用した歴史がある。ちなみに従来のCAN経由のソフトウエア更新は10時間以上を要していたが、イーサネット採用により劇的に短縮することができた。
イーサネットはインターネット通信の基盤であることは周知だ。フレキシブルで拡張性があり、10M~1Gbpsまで同じフォーマットのイーサネットで高速通信をサポートできる。また、TCP/IP、サイバーセキュリティなど既存の技術のメリットを車載ネットワークでもそのまま投入できることもメリットとなっている。

現在のSDV、E/Eアーキテクチャーでは、車両OSの統合ECUと、駆動量制御やシャシー制御、インフォテイメントなど各分野のゾーンECUが存在するが、これらを統合するためにはゲートウェイ(異なるネットワークを結合するための中継・変換器)が必要になる。ゲートウェイは高コストな部品である。
オンセミはイーサネットを最大限に拡張する「オールイーサネット・アーキテクチャー」を提案し、ゲートウェイが省略でき、コストも低減することが可能としている。
またイーサネットは、高速通信、ゾーンコントローラーへの中速通信、センサー類などへの低速通信など多様な通信を伝送することができる階層システムを構築することもできる。
このようにメリットの多いイーサネットは、アメリカ、ヨーロッパ市場で採用が開始されており、SDVには必須の通信システムと想定されている。したがってオンセミ社は、まもなくオール・イーサネットを採用するソフトウエアディファインドビークルが登場すると予想している。
オンセミ社は車載通信ネットワークとして最適化するためにIEEE規格の「10BASE-T1S」を採用している。10BASE-T1Sは、低速通信とハイパフォーマンスを両立することができるのだ。10BASE-T1Sは同一データラインへの電力供給ができ、その結果ワイヤハーネスの重量増や複雑化を低減。またテスラが先行している電装の48V電圧にも対応できるようになっている。
オンセミは、1つのチップで高電圧とスモールスケールデジタルの両方を組み込むことができる。同じようなシステムを構成するには、複数のチップを使用するが当然それよりコストは低減できる。

オンセミ社は、現在のコスト面では、「10BASE-T1S」は既存のCANよリ少し高いがまもなく同等コストになり、しかもワイヤーハーネスの簡素化により、より低コストが期待できるとしている。
オンセミ社は、日本の自動車メーカー向けのセミナーも開催し、車載イーサネットの普及を加速させる方針なのだ。