BYD本社は2025年3月17日、最新のEVプラットフォーム「スーパー e-プラットフォーム」を採用した最新モデル「漢(Han)L」(セダン)、「唐(Tang)L」(SUV)を発表した。
BYDはこれまで2021年に送り出した「e-プラットフォーム3.0」を採用してきたが、その登場から4年で世界初の技術を満載した新世代プラットフォームを生み出したのだ。

スーパー e-プラットフォームとは
スーパー e-プラットフォームは、単にEV用のプラットフォームというだけではなく、搭載する最新のEVユニットで、大幅に内部抵抗を低減した新リン酸鉄「ブレード」バッテリーを搭載。
1000V(最高1500Vまで対応)という車両の超高圧電気システムに対応し、最先端の超高性能駆動モーターと量産化を可能にした超高電圧対応のSiC(シリコンカーバイト)インバーター、さらに新開発の1000kWという超高電圧の直流急速充電器を包括しており、世界No1のEVメーカーであるBYDがテスラを始め、他メーカーのEV技術を大幅に凌駕する技術を実現し、世界に衝撃を与えている。

この充電速度の大幅な向上の背景には、中国市場におけるBYDの競合メーカーが次々に充電速度の向上を図っており、BYDは圧倒的なリードを獲得するために満を持して最新技術を投入したということができる。
車両側の超高電圧システムと超高出力の急速充電器により、スーパー e-プラットフォーム採用モデルは5分間の充電で約400kmの走行距離が確保でき、これは1秒あたり航続距離約2kmという高速充電レベルだ。
BYDが主張する「油電同速」、つまりガソリンエンジン車の給油とEVの急速充電が同等速度であり、従来のEVの充電に時間がかかるという常識をブレイクスルーしているのだ。

そのため、スーパー e-プラットフォーム側でも超高電圧に対応できる電気システムとし、ブレードバッテリーも高速充電に耐えられるように改良。さらに1000kW出力の専用急速充電器も新たに開発している。ちなみにテスラ・スーパーチャージャーは最大500kWで、その2倍ということだ。
じつは2021年に、中国の電力企業連合会と日本のCHAdeMOが共同開発した、超高出力の急速充電規格「チャオジ=CHAdeMO 3.0」がスタートを切っている。この規格は出力900kW(600A×1500V)に対応しており、液冷ケーブル技術なども盛り込まれている。
この時点で、900kW級の急速充電は現実には夢物語であり、将来に向けての余裕を持たせた規格と思われていたが、それから4年でBYDは現実のものとしているのだ。
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最新ブレードバッテリー
スーパー e-プラットフォームに搭載されるのはリン酸鉄のブレードバッテリーであり、従来どおり車両のフロア面に配置し、フロア構造材として機能するCTB(セルtoボディ)であることはこれまでと共通だが、超高出力の急速充電に対応するために大幅な進化を遂げている。

急速充電の速度を向上させるためには内部抵抗を低減させ、電解液の中でイオンの移動速度を大幅に向上させることが不可欠になる。BYDは内部抵抗を約50%低減して課題を解決し、充放電性能が10Cというハイレベルを実現している。
「C」とはCレートと呼ばれ、充電、放電のスピードを意味する。一定の電流での充放電測定の場合、電池の理論容量を1時間で完全充電(または放電)させる電流の大きさを1Cと定義してる。
電池の容量が2Ahの場合、1Cは2Aとなる。 2Cは1Cの倍の電流値に相当し、理論容量を30分で完全放電する電流値を意味する。
したがってBYDの新ブレードバッテリーが実現した、10Cというレベルは約10分以内に充電が完了するという性能を持っていることを意味している。これを実現するためには、新開発の電解液を採用したと想定される。
さらに、正極、負極を分離するセパレータの性能を大幅に向上させており、高電圧での急速充電を繰り返しても十分な耐久性を実現しているという。

バッテリーの温度制御に関しても、ブレードバッテリーの上下面を冷媒で冷却できるように温度制御の性能を高め、高電圧の急速充電によるバッテリーの温度上昇を抑制している。

この結果、SOC5.0%からの高出力充電では、充電開始直後に充電出力は1000kW、SOC20%で660kW、SOC42%で560kWと緩やかに低下するが、5分間の充電でSOC63.1%を記録するという。この5分間の急速充電で、バッテリー容量では400kmの走行分の電力を確保しているということになる。

このように見ると、リン酸鉄リチウムイオン・バッテリーであるブレードバッテリーに最先端の技術が投入されており、これまで高性能といわれている全固体バッテリーを遥かに超える性能が実現しているということができる。
超高出力の新急速充電器
高速の急速充電を実現するためには、車両の1000kW高圧電気システムに対応するには、超高出力の急速充電器が必要になってくる。

BYDは最大1360kWという超高出力の急速充電器「フル液冷メガワット級フラッシュ充電ターミナルシステム」を開発した。
この急速充電システムは最高1360kWという高電流化を行ない、急速充電を可能にしている。この新急速充電器をBYDは早急に中国全土で4000基以上を新設する計画だ。


超高出力の急速充電機であるため、充電器のシステム延滞が液冷化されており、充電ケーブルも液冷となっている。
また、車両側では2本の充電ケーブルを同時に接続できるデュアル急速充電にも対応しており、500kW級以上の超急速充電器を2本接続すると、最大1000kWの急速充電ができ、中国市場で一般的に普及している急速充電器など既存の急速充電器でデュアル充電を使用することも可能なのだ。

1000V車両システムの駆動系
スーパー e-プラットフォームには、新開発の高性能モーターを含む12in1と呼ぶe-アクスルが搭載されている。BYDは従来、8in1、つまり8個の駆動関連ユニットを1パッケージにまとめたe-アクスルを採用してきたが、さらに集積度を高めた12in1のe-アクスルを実現している。

そして、駆動モーターも新開発している。この新型モーターの最高回転数は3万511rpmに達し、量産モーターとしては世界No1を実現。この回転数は競合モデルのモーターを大幅に引き離しているのだ。これを実現するために、モーターの構成部品の高精度化し、高回転耐久性を大幅に向上している。また、このモーターは遊星歯車式の減速ギヤと組み合わせ、コンパクトなe-アクスルを形成している。
このモーターの最高出力は580kW(788ps)という驚異的なレベルにある。また、このモーターを高電圧制御するために、より高電圧に対応した1500Vに対応できるSiC MOFSET インバータを採用している。なおこのSiCインバータもBYD内製であり、超高電圧に対応できるSiCインバーターの量産化は世界初となる。

先進・高性能インバータとして使用できるSiC(シリコンカーバイト)は、原材料からSiCチップを作り出すのは歩留まりが悪い、つまり量産が難しく、さらにSiCチップの加工も難易度が高いとされているが、BYDは内製で量産化を実現したとしており、これも驚異ということができる。
■「漢(Han)L」(セダン)、「唐(Tang)L」(SUV)
スーパー e-プラットフォームを採用したBYD王朝シリーズのフラッグシップとなる2車種は、中国市場で4月に正式発表し、受注を開始することになっている。

2車種の価格は、Han Lが27~35万元(約557~723万円)、Tang Lは28~36万元(約578~743万円)。為替レートを考慮すると、実勢価格はこれより10%安いと考えられるため、全面的に新技術を搭載しているにも関わらず十分リーズナブルだ。

そしてこの2車種の動力性能は、Han Lの0-100km/h加速は2.7秒、最高速度は306km/h、Tang Lの0-100km/h加速は3.6秒、最高速度は287km/hという高性能で、テスラやポルシェ タイカンの高性能モデルに勝るとも劣らないレベルだ。

また搭載しているバッテリー容量は83kWhで、十分な容量、つまり十分な航続距離を備えている。このバッテリー容量と、高速道路上にある超出力急速充電器の利用により、高速道路での長距離走行もガソリン車と同等の利便性を実現したということができるのだ。
さらに、これらのモデルはソフトウエア・ディファインド・ビークルとなっているのはもちろん、先進運転支援システム「天神之眼」(DiPilot)を装備し、高速道路だけでなく市街地でもハンズフリー運転が可能なのだ。
ちなみにBYDは、今後は100万円台のエントリーモデルにも「天神之眼」を標準装備化すると発表しており、量産効果による低コスト化、商品力の向上を図っている。
現時点では、Han L、Tang Lは中国市場向けとされているが、次のステージではグローバル展開を狙っていることは間違いない。