ショールームにセールススタッフがいない!?〜ヒョンデの展開と戦略を紐解く〜

2022年2月に韓国のヒョンデ(現代自動車)が日本に再上陸した。携えて国内に投入したのはIONIQ5(アイオニック・ファイブ)とNEXO(ネッソ・燃料電池車FCV)でC〜DセグメントサイズのSUVだ。IONIQ5の試乗レポートは既に掲載しているが、今回、国内導入にあたり、カスタマーサービスセンターなどユーザー対応する施設に関する説明会があった。

新横浜にオープンしたカスタマーエクスペリエンスセンターのエントラント

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神奈川県横浜市に2022年7月30日「CXC横浜(カスタマー・エクスペリエンス・センター)」がオープンした。新横浜駅近くにあるこのセンターは納車式、メンテナンスを行なう認証工場で、ショールームの機能も備えている。

2階のカフェスペースもおしゃれな空間でデザインされている

このヒョンデIONIQ5はネット販売されるBEVモデルで、ヒョンデは国内にディーラーを持たずに販売展開をしている。ネット上でIONIQ5を吟味し、購入を決めたら「ポチッ」と押すわけだが、実際は車庫証明もあるわけで、対面での対応も必要になってくる。

手順としてはネットで車両選択および見積もり、注文、車庫証明、代金支払い、納車という順番になるが、会員登録をすれば「見積もり」「試乗予約」「購入相談」をすることができる。全部をネット上で済ませることも可能だが、Face to Faceでの対応も可能ということだ。

このCXC横浜では予約すれば試乗することが可能だ。この試乗場所は徐々に拡大中でWeb上で試乗可能な場所が表示されており、都合の良い場所で試乗し購入判断をするという流れだ。

CXC横浜には3Dコンフィギュレーターや充電の実体験、V2Lの体験なども可能で、スタッフは常駐しているが、ディーラーのセールスマンではないところが、既存のカーディーラーとは異なっている。ヒョンデ・モーター・ジャパンとしては、ユーザーの声がダイレクトに聞ける貴重な場所であり、興味のある人の来訪を歓迎している。

施設内のあちこちに充電器が設置されている

全く新しいスタイルのショールーム

さて、このCXC横浜の建物は倉庫だったものを改装し、エクスペリエンスセンターに仕立てた。ZEV(Zero・emission Vehicle)がコンセプトのIONIQ5だけに、センターもZEVコンセプトを取り入れているという。内装の壁材には檜の間伐材とセメントだけで作った化学物質を含まない内壁材で作られているという。

またヒョンデにはFCVモデルもあるので水素タンクの点検設備や水素探知機を設置。そして床材も修理工場で見かけるグリーンの床ではなく白い。これはエンジン(ICE)の整備をしないため、オイルを伴う作業が少量で済むためにこうした対応としたという。

整備スペース全景。床も見慣れたグリーン色ではなく白い。オイルをほぼ使わない作業だから可能にした

CXC横浜はBEV、FCVの専用の工場として認証されており、原動機整備の項目は省いて申請し認証されている。そして作業エリアはショールームのどこからでも見えるように全面ガラス張りになっており、2階に設置されているカフェからも作業が見えるようになっている。

カフェからも愛車の整備状況が見えるようになっている

このようにCXC横浜は設備も含め未来感溢れるスペースで、ディーラーとは異なる業務形態でユーザーフレンドリーの場所になるわけだ。

そしてショールームの横には納車式を行なうスペースもあり、取材したこの日は大阪ナンバーのついたIONIQ5があった。大阪から新幹線に乗って取りに来て、横浜から東名高速を経由して大阪に帰るという話だ。立地条件としては全国からのアクセスが良いと言える。

納車式スペース。ターンテーブルがあり、オーナーとの記念撮影も可能

日本での展開

ヒョンデ・モーター・ジャパンとしてはこうした施設を今後大阪でも展開する予定で、その他の地域に関しては状況を観ながらの判断になるという。一方で購入者の車両メンテナンスは提携修理工場があり、現在、全国で30ヶ所以上で順次増やしていく予定になっている。

ヒョンデは2009年に国内市場から撤退をしている。13年ぶりの再参入になるが、初めての参入より再参入の方が数倍大変だと関係者は話す。つまり、絶対に失敗できないという足枷が倍以上になるからで、今後どのように展開していくのかも気になるところだ。

現在は再参入後IONIQ5は約500台の受注があるというが、本国韓国では数千台〜数万台規模の販売台数を期待している様子。再参入に関し、マーケット規模もあるが品質に厳しい日本で、評価されなければグローバルでは通用しないという思いがあるとメッセージしている。

ヒョンデの社長チャン氏は日本語が堪能で、たびたび来日し、日本のユーザーとダイレクトに会話もしているという。現在のヒョンデグループ全体で、生産台数規模は600万台ということで、ホンダ、日産を上回る生産台数がある規模だ。その社長と気軽に会話できるといった敷居の低さも驚異的と言える。

クルマの商品価値で勝負

そして嫌韓の空気がある日本において、ヒョンデの再参入は成功するのだろうか。この点についてヒョンデ・モーター・ジャパンでは、そうした嫌韓国イメージを持つユーザーに対して、イメージを払拭するような活動は特に行なわないとしており、カーメーカーとして商品価値をユーザーの判断で増やしていきたいという意向だ。

同社によれば40代の年齢を境に急激に嫌韓のイメージが下がるという。年配層ほどイメージが悪く、また上下関係のようなイメージも持っているという。しかしながら比較的若い世代にとって、経済大国日本というイメージはもはや存在しておらず、アジアNO1という意識もないという。それはそれで問題だと思うが・・・。また食品や芸能文化など韓国の影響も受けており、好韓も多いというわけだ。

世界初の技術で充電時間を短縮

さて、そうした背景の中で日本で販売されるIONIQ5だが、今回韓国からエンジニアが来日し、プレゼンテーションを行なった。以前、試乗記を掲載した時点ではコロナ禍ということもあり、エンジニアの来日が叶わず、設計者の思いも十分に伝えきれていないということだったのだろう。

そのエンジニアのプレゼンの中で、驚いたことが2点あった。一つは世界初の電圧の昇圧機能を持たせたモーター、インバーターを開発したことだ。通常のEVであれば、電圧を上げるためにはDC-ACコンバーターが必要で、DCからACに変換しU、V、Wの三相交流に変換するインバータと共に搭載している。が、IONIQ5のインバータとモーターにはDC-DC機能があり、400Vを800Vに昇圧することができる技術が投入されているというのだ。

充電口からアダプターを介してヘアドライヤーを。クルマ側でDC-AC、DC-DCを行なっている

それはつまり、同じ充電器でも充電時間が短くなるメリットがあり、具体的には約20%短縮できているという。CHAdeMO1.0の充電器の場合、500V/125Aで50kWの出力がある場合、SOC10%から80%への充電で400Vだと71.6分かかり、IONIQ5では59.9分と11.7分短縮できる。最近普及が始まったCHAdeMO1.2は500V/300A で150kWの充電器の場合29.8分が24.3分で5.5分早く充電できるメリットがあるのだ。

もうひとつ驚いたことはIONIQ5は「日本仕様」になっていることだ。具体的にはウインカーレバーが右側で、韓国は左ハンドルの国なので、右ハンドルに変えたとしてもウインカーレバーは左側になる。これは多くの輸入車が左側にあるのを見ればわかる。これを日本専用としているわけだ。さらにサスペンション、ステアリング、ブレーキシステムを日本仕様にしているという。

インパクトのあるエクステリア
右ウインカーは日本専用だった

いわゆる仕向地仕様なのだが、具体的には欧州仕様の「走り」仕様からコンフォートな方向へシフトした設定にしているというわけだ。欧州の速度域とは異なる日本独特の交通事情をよく理解した結果だ。実際に試乗してみて物足りなさやコンフォートすぎるといったフィーリングはなく、十分スポーティな走行が可能なBEVモデルになっている。

このように再参入では日本のユーザー、道路、交通環境をよく研究し、ユーザーからの声をダイレクトに聞き製品に反映していく体制で国内展開が始まった。この先、一般ユーザーがどこまで興味を持ち、実際に購入行動をとっていくのか興味深い。

COTY
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