続々登場する最新・自動車業界用語解説 その3

この記事は2019年11月に有料配信したものを無料公開したものです。

前回までは「CASE」の「C」と「A」について解説したが、今回は「S」について考えてみよう。「S」は「sharing(シェアリング)」と「Service(サービス)」というふたつの概念を示している。

シェアリング

「S」は、前回の「C:コネクテッド(インターネット常時接続)」、「Autonomous:オートノマス(自動運転化)」などよりもっと漠然とした概念で、なかなかクルマとは直結しない。
関連記事:続々登場する最新・自動車業界用語解説 その1
関連記事:続々登場する最新・自動車業界用語解説 その2

「シェアリング」という言葉は、クルマに限らず社会的に注目されており、「シェアリング・エコノミー」などといった言葉も登場している。これまでの個人所有から共有へという生活意識の流れを示しているからだ。

都会ではアパートを借りる代わりにシェアハウス、クルマでは個人所有から「カーシェアリング」に、といった流れだ。カーシェアリングは、現在の日本でも拡大しつつある。カーシェアリングの提供会社が、クルマを用意し、利用者は自分が利用したいときだけ借りるという方式で、クルマは民間の駐車場などに用意してある。

カーシェア会社「カレコ」
カーシェア会社「カレコ」

従来、クルマを借りるにはレンタカーが一般的だったが、レンタカーを予約し、事務所に行って各種の書類を記入し、返却時には満タンにして返すという一連の流れより、カーシェアはより簡単にクルマに乗ることができる。

カーシェア会社のタイムズカーシェア
カーシェア会社のタイムズカーシェア

WEBで最寄りの駐車場にあるクルマを予約し、支給されたカード、またはID番号が送られてきたスマートフォンをクルマに近づけるだけでクルマのキーが解除され、使用できる。燃料も満タンにすることなく返却できるなど、レンタカーより利用が簡単だ。

またシェアリング用の車両には、クラウドと接続しているドライブレコーダー、運転レコーダーなども装備されており、ドライバーの運転状況などもモニタリングされるなど、レンタカーよりもハイテク化している。ただ、現状ではレンタカーの利用料金より時間単価が高めなので、どちらかといえば短時間の利用向きだ。

いずれにしても、身近にカーシェアリングが行なわれている駐車場があれば、クルマを購入しなくても、必要な時に自由に利用できるシステムなので、土曜、日曜の休日しかクルマのハンドルを握る機会のない人なら、自己所有より合理的であり、日頃は公共交通機関を利用する人にはうってつけだ。したがって東京、大阪などの大都市ではカーシェアリングの利用率が急激に高まっているのだ。

ディーラーに行かなくても最新のクルマに乗ることができるのもカーシェア・システムの利点
ディーラーに行かなくても最新のクルマに乗ることができるのもカーシェア・システムの利点

もうひとつ、近年は自動車メーカー、輸入車のインポーターもカーシェアの利用率アップに注目しており、最新のモデルが導入されている。そのため購入前に販売店での試乗ではなく、自分が納得できるまでテストドライブできるというのも最近のカーシェアリングのメリットになっている。

一方で、通勤、買い物など日常生活でクルマが欠かせない地域では、やはり自己所有のほうが便利だといえる。

カーシェアの社会的な意味

カーシェアリングの発想は、社会的な意義も大きい。例えば都会の一般的な勤労者は、平日は電車やバスで通勤し、休日だけ自分のクルマを使用するパターンが多い。しかし、そのクルマは少なくともウイークデーは止まっているだけで、クルマに焦点を当てれば有効な使い方とはいえない。その眠っている時間の長い、個人の自家用車を利用し他人を乗せて運ぶというのがUber(ウーバー)や滴滴(ディディ)の発想で、日本では白タク営業になり違法となるが、休眠車の利用率を高めることは社会的に見れば有意義だ。

アメリカのウーバー、リフト、中国での滴滴は個人の自家用車を使用して有料送迎サービスが普及
アメリカのウーバー、リフト、中国での滴滴は個人の自家用車を使用して有料送迎サービスが普及

さらに公共交通機関の乏しい、究極のクルマ社会といわれるアメリカのロサンゼルスなどは、幅広の道路網があるにも関わらず朝夕の通勤時には渋滞が発生する。この問題に対処するために、「ライドシェア」は推奨され、同じ方向に向かう人が数人で1台のクルマに相乗りすれば、渋滞の解消策の一つになる。そのため、こうした相乗りのライド・シェアカーは、渋滞のない優先車線「HOV(High Occupancy Vehicle)/Carpool」レーンを走行できるようになっている。

HOV車両はその道路によって2名上、3名以上など規定されているが、渋滞する車線を横目に快適に走行できるという大きなインセンティブが与えられている。

アメリカの自動車専用道路でのHOV車線。この道路では2名乗車以上の乗用車、バスが専用の車線を走行できる権利を持つ
アメリカの自動車専用道路でのHOV車線。この道路では2名乗車以上の乗用車、バスが専用の車線を走行できる権利を持つ

サービスの「S」

同じ「S」でもシェアリングに加えて「サービス」の意味も含まれている。これはモビリティ・サービス、つまりカーシェアリングだけではなく、過疎地での乗り合いバスや超小型モビリティによる運行サービスの提供、高齢者や身体障害者など交通弱者に対する移動サービスの提供など、幅広い公共性、社会性のある移動のためのサービスを意味しており、ある意味で「MaaS」の概念とオーバーラップしている。

過疎地で実証実験を行なうロボット・シャトル社(DeNA)
過疎地で実証実験を行なうロボット・シャトル社(DeNA)

トヨタの豊田章男社長が「トヨタはモビリティ・カンパニーになる」という宣言を行なったが、自動車だけを製造・販売するだけの企業ではなく、社会的な移動サービスを提供できる企業にするという意味なのだ。具体的にどのようなモビリティ・サービスが求められるのか、どのようなサービスが今後成長していくのかは、まだ模索段階ではある。

電動化

次に「E」について。「CASE」の「E」は電動化を意味する。つまり内燃エンジンを搭載したクルマから、モーターを搭載した電気自動車、それとエンジンとモーターを搭載するハイブリッド/PHEV/マイルドハイブリッド、燃料電池車への転換というトレンドである。

その背景は、何といっても地球規模での気候変動を抑制する、つまりCO2排出量の大幅な削減策としての電動化である。

京都議定書

その起点となったのは1997年に京都で開催された「第3回気候変動枠組条約締約国会議」だ。ここで、初めて地球温暖化の原因となる温室効果ガス二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、亜酸化窒素(N2O)、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)、パーフルオロカーボン類(PFCs)、六フッ化硫黄(SF6)について、先進国における削減率を1990年を基準として各国別に定め、共同で約束期間内に目標値を達成することが求められた世界会議だ。この京都での決議は「京都議定書」と呼ばれている。

もともと地球の気候変動に関しては「気候変動に関する政府間パネル:IPCC」により、1988年から国連、世界気象機関、各国政府の共同研究により、地球温暖化に関する科学的知見の集約と評価が行なわれ、評価報告書がまとめられている。

2007年の第4次評価報告書では、「我々を取り巻く気候システムの温暖化は決定的に明確であり、人類の活動が直接的に関与している」、「気候変化はあらゆる場所において、発展に対する深刻な脅威である」、「地球温暖化の動きを遅らせ、さらには逆転させることは、我々の世代のみが可能な挑戦である」とされている。

2015年にパリで開催されたCOP21の協定決定
2015年にパリで開催されたCOP21の協定決定

日本やアメリカでは、気候変動の問題はまだ深刻な課題として認識されていないが、ヨーロッパ諸国を中心にCO2削減の社会的な動きは切迫している。そして2015年にパリで開催された「第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)」では、パリ協定が発効された。

しかし、現在アメリカのトランプ大統領は、この協定からの離脱を発表して波紋を呼んでいる。パリ協定では、産業革命以前からの平均気温の上昇を2度C未満に抑えることを目標とし、長期目標としてできる限り早く平均気温の低下を目指し、今世紀の後半には人為的な温室効果ガスの排出ゼロを実現する、という内容だ。

これを受け、ヨーロッパ連合(EU)は地域内で販売する乗用車のCO2排出量を2030年までに21年目標に比べて37.5%、小型商用車の排出量は30年までに31%削減することを決定した。ただし「37.5%削減」が全乗用車に一律に適用されるのではなく、各メーカーは販売車種構成と販売台数などから妥当な削減値を割り当てられる企業平均値として37.5%削減が求められるのだ。

続々登場する最新・自動車業界用語解説 その3

想定以上のスピードでの電動化

2021年のCO2排出量の目標は95g/kmであるが、2030年のCO2排出量の目標は60g/km以下となる。このEUのCO2排出量目標の登場で、各自動車メーカーは想定していた従来の電動化の長期的なシナリオは崩れ、PHEVや電気自動車の大幅な投入を迫られることになった。

ヨーロッパの自動車メーカーは、CO2排出量がガソリンエンジンより少ないディーゼルエンジンを重視し、さらにガソリンエンジンのマイルドハイブリッド化などの現実的なステップを想定していたが、もはやPHEV、電気自動車の一定割合の投入が避けられなくなり、従来のシナリオより電気自動車の重要度が加速している。

このヨーロッパのCO2規制は、今後アメリカを除く世界のスタンダードとなる可能性が高く、自動車メーカーは戦略を大幅に見直す必要に迫られている。

そんなわけで、クルマの電動化、特にEV比率を高めることが喫緊の課題となっている。しかし、自動車メーカーは大きな難問を抱えている。現実的には駆動用バッテリーの価格は想定されていたほど低下せず、2万円/kWhの水準が続いている。したがって50kWhのリチウムイオン・バッテリーを搭載すればそれだけで100万円もするユニットを搭載したことになり、車両の原価を押し上げてしまうのだ。

電気自動車における最大の課題はリチウムイオン・バッテリーの価格コスト
電気自動車における最大の課題はリチウムイオン・バッテリーの価格コスト

EUの2030年CO2削減目標は、それがゴールではない。2040年、2050年とそれ以降も自動車だけでなく全産業の分野でさらなるCO2削減が求められるシナリオになっている。

電動化、特に電気自動車化は今や避けられない課題となっているが、各自動車メーカーにとってそれを実現するためには、多くのハードルを乗り越える必要がある。

COTY
ページのトップに戻る