2020年に向け大規模な自動運転実証実験がいよいよキックオフ

内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期「自動運転(システムとサービスの拡張)」の重要なプログラムである「東京臨海部実証実験」が2019年10月15日に正式にスタートを切った。これは、政府が推進する自動運転時代の幕開けといってもよいだろう。

発表会にそろったトヨタ、BMW、フォルクスワーゲン、コンチネンタル、ヴァレオの自動運転車
発表会にそろったトヨタ、BMW、フォルクスワーゲン、コンチネンタル、ヴァレオの自動運転車

実証実験の概要

今回のキックオフは内閣府・中央合同庁舎8号館で行なわれ、SIP・自動運転のプロジェクトのメンバー、内閣府特命・科学技術政策担当の竹本直一大臣も出席した。また企業はトヨタ、BMW、フォルクスワーゲン、コンチネンタル、ヴァレオが参加し、大学からは金沢大学、埼玉工業大学がそれぞれ自動運転車を持ち込んだ。

この「東京臨海部実証実験」は、東京・有明〜青海地区などの臨海副都心エリアと羽田空港周辺、その両エリアを結ぶ首都高速の羽田線・湾岸線などが舞台となり、実証実験の期間は2021年3月までの17ヶ月間が予定されている。

東京オリンピック/パラリンピックの準備が進む東京で、しかも極めて交通量の多い公道を使用し、各社が開発中の自動運転、高度運転支援システムを使用して走行実験が行なわれるのだ。参加する産学の各団体には海外企業も参加しており、実証実験の規模としては世界に先駆けるスケールとなっている。

自動運転車を視察する内閣府特命・科学技術政策担当の竹本直一大臣
自動運転車を視察する内閣府特命・科学技術政策担当の竹本直一大臣

実証実験の狙い

今回の大規模な実証実験の狙いは何か。第1は、一般道における信号情報や高速道における合流支援情報など、交通インフラにより提供されるダイナミックな交通環境情報を活用した、ITSとの協調による自動運転技術の検証だ。

そして交通インフラを活用した実証実験の場や、必要な実証用機器等を政府/SIPが提供し、産学官連携して実験データの取得、分析を行なう場とすることで研究、技術開発を促進する。

また海外のメガ・サプライヤーなどもこの実証実験に参加しており、オープンな評価を行なうことで、国際的な協調・標準化を推進することも狙いのひとつだ。

また、日常的に交通量が多く、他国に比べても多数の信号機があるという東京ならではの公道で、一般の走行車両と自動運転車や高度運転支援システム搭載車が走行する、混流交通環境での実証実験となるため、交通の流れへの影響や評価も行なわれる。

これは一般の車両、一般のドライバーが走る公道で同時に自動運転車が走行するため、一般のドライバーはどのように反応するか、自動運転車が走行することで危険な状態が発生したり渋滞が発生しないかなど、社会的な反応、一般のドライバーが自動運転車と同時走行する時にどのような反応をするかなど、公道実験ならではの貴重なデータが得られることを意味する。

また、この実証実験の後に一般の人を対象とした大規模な試乗機会を行なうことも計画されており、一般の人が自動運転などを体験してどのような反応を示すのかも貴重なデータとなるわけだ。

産学の参加団体

この大規模な実証実験には、国内外の自動車メーカー、グローバル自動車部品サプライヤー、大学・研究室など合計28団体が参加することが決定している。

実証実験に参加する28団体
実証実験に参加する28団体

日本の自動車メーカーでは、トヨタ、ホンダ、日産、マツダ、スバル、ダイハツ、スズキ、三菱自動車、日野が参加し、日本の自動車サプライヤーは、ジェイテクト、三菱電機だ。海外自動車メーカーは、フォルクスワーゲン、メルセデス・ベンツ、BMW/MINIが参加する。

またグローバル・サプライヤーとして、ボッシュ、コンチネンタル・オートモーティブ、ヴァレオが参加する。その他にベンチャー系企業と自動運転技術を研究している大学が参加する。

参加する28団体では、レベル3〜4の自動運転の車両で参加する団体とレベル2〜レベル2.5の高度運転支援システムをを搭載した車両で参加する団体の両方がある。現時点で自動運転車両で参加するのは、トヨタ、日産、ホンダ、ボッシュ、コンチネンタル、ヴァレオなどの大手と、ベンチャー企業、埼玉工業大学が想定されている。

なお、今回の実証実験に関して政府と関連機関は、内閣府、警察庁、総務省、経済産業省、国土交通省、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が実施担当し、国家レベルのプロジェクトとなっていることも注目点だ。

政府/SIPが実証実験のために整備する交通インフラ

臨海副都心地区にはITS無線通信タイプの信号、信号情報とリンクする3次元高精度デジタルマップが用意される。ITS無線通信タイプの信号機は33ヶ所だ。

また羽田空港地区ではITS無線通信信号機、磁気マーカー、自動運転バス用の仮設バス停、自動運転バス用の専用レーン、信号情報発信機などが設置される。

羽田空港と臨海副都心を結ぶ首都高速道路には、合流支援情報発信機、ETCゲート情報発信機、車線別交通規制情報発信機が設置される。またいずれの地区でも3次元高精度デジタルマップが用意され、実証実験に参加する車両には信号情報、合流情報などの車載受信機が提供される。

左図が臨海副都心部でのITS無線通信信号機の設置ヶ所、右が羽田-臨海副都心/汐留の首都高速道路での実証実験実施区間
左図が臨海副都心部でのITS無線通信信号機の設置ヶ所、右が羽田-臨海副都心/汐留の首都高速道路での実証実験実施区間

ITS無線通信信号機の実証実験

無線通信による信号情報利用の有効性を交通環境下で検証する。信号の点灯色の情報と車載センサー(フロント・カメラ)の2重系による信号情報の読み取り・認識の精度向上。さらに信号が青-赤の残秒数情報によるジレンマゾーン(黄色表示中に停止線を通過できず、かつ急減速なしでは停止できない信号のタイミング)の回避の実証。

左図が信号のジレンマ・ゾーン。右は霧、強い逆光などで車載カメラでは信号の色が識別できない状況の例
左図が信号のジレンマ・ゾーン。右は霧、強い逆光などで車載カメラでは信号の色が識別できない状況の例

これらにより、ドライバーへの信号情報提供の有効性の確認、交通インフラの設置条件の見極め、優先順位付け、実証を踏まえた標準仕様の確定を行なうことが期待できる。

首都高速での本線合流支援情報の実証実験

車載センサー(近距離レーダー、超音波センサーなど)を補完する路側センサー情報などにより本線を走行する車両を検出し、その情報を車両に送信することによる走行支援の有効性を検証。これにより、首都高速の合流部における安全かつ円滑な合流が実現するかどうかを確認することができる。

首都高速での合流支援
首都高速での合流支援

自動運転バスの実証実験

レベル4の次世代型交通システム(MaaS用バスなど)を実際の交通環境で実証実験する。これを実行するため、磁気マーカーを利用した自動操舵、専用バスレーンとバス優先信号システムで、定時運行が達成できるかの検証。また発進、停車時の滑らかな加減速制御、バス停で隙間の少ない位置に正確に停車できる正着制御により乗降客のアクセシビリティの評価も行なわれる。

羽田空港地区で自動運転バスを運行して実証実験を実施
羽田空港地区で自動運転バスを運行して実証実験を実施

なお、自動運転バス、バス停への正着制御はトヨタ、ジェイテクト、埼玉工業大学がそれぞれ自動運転バスで参加を決定している。自動運転バスは30km/h程度で走行する予定だ。

SIP自動運転・第2期のプロジェクトは政府予算として2019年度で31.2億円、2020年度も同等レベルの予算が見込まれる。また今回の実証実験のインフラ設置などの費用として4億円の補正予算がつけられており、国家的なプロジェクトのひとつであることがわかる。

またすでに警察庁なども、公道でのレベル2の運転支援システムにおいても手放し(ハンズオフ)運転を認めており、現時点でも手放し運転のハードルが高いヨーロッパに比べても日本は運転支援システム、自動運転に関して世界の先頭を走っているといえるかもしれない。法整備も含め、日本がこうした先進的なポジションに立っているのは、やはり戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)自動運転プロジェクトの大きな成果といえるだろう。

東京臨海部実証実験の実施について SIP「自動運転(システムとサービスの拡張)
内閣府 戦略的イノベーション創造プログラム

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