2018年5月30日、東京で「CHAdeMO(チャデモ)会員大会2018」が開催された。CHAdeMOは、急速充電方式のもとに自動車メーカー、充電関連企業が集結するe-モビリティの協調プラットフォームで、2010年に設立されている。現在では日本国内だけでなく海外の企業も参加し、会員数は350社に達する。その会員を対象に年に1回の大会が開催されている。
■CHAdeMOの現状と今後
CHAdeMOは、世界に先駆けて電気自動車用の急速充電の規格、システムを取り決め、現在6kW〜200kWの出力で電気自動車を充電することができるようになっている。CHAdeMOの急速充電規格の決定後に、アメリカ、ヨーロッパの自動車メーカーが中心となり2012年5月に「コンバインド・チャージング・システム」(Combined Charging System:コンボ)が発表された。1個のコネクターで交流の普通充電と急速充電、直流の普通充電と急速充電に対応する規格としたものだ。
このため、日本発のCHAdeMO規格と欧米自動車メーカーによるCCS(コンボ)規格が並立することになったが、CHAdeMOは先発の強みもあり、結果的にはヨーロッパ、アメリカでもCHAdeMOの急速充電規格は認知され、2018年3月の時点で日本のCHAdeMO方式の急速充電器が国内に7241基あるが、ヨーロッパでも6260基と順調に拡大されている。
アメリカのテスラ社も独自のテスラ規格とCHAdeMOアダプターを備えている。またヨーロッパの急速充電器はコンボとCHAdeMOが2本立てのコネクターを備えているのが標準となっているのだ。こうした結果、CHAdeMO方式の急速充電器は急速充電器のシェアはナンバーワンであり、世界のEVの35%はCHAdeMO方式で充電でき、2番めが中国のGB/T規格が16%となっている。
今後は、EVの搭載する電池容量の増大に合わせ、現在より高出力の350kW〜400kW(350A〜400A/1000V)の急速充電器が計画されているが、この段階ではヨーロッパに加え、現在は独自方式の中国も規格の協調化に加わると見られている。
さらに今後の課題として、旧来のEV用の急速充電だけではなく、VtoX(EVと家、ビル、電力網との接続)も想定されている。大容量の高性能バッテリーを搭載するEVが大量に普及すると、家庭やビル、電力網と結合されることで、ピーク電力の抑制、再生可能エネルギーの蓄電など、社会の電力インフラを支える役割も想定することができるからだ。
また、EV用としては性能が低下したバッテリーは、EVの普及に合わせて膨大な量となるため、再生可能電力の蓄電、バックアップ電源用としてリユースされたり、バッテリーセルの分解・溶融によりリチウム、マンガン、コバルト、ニッケルなどの抽出、リサイクルを含めた構想も求められる。
■電動化の進むヨーロッパ
ヨーロッパではEUの援助により最大350kWの急速充電ステーション網の設置が加速している。EUからの補助金により自動車メーカー、電力会社などのコンソーシアムが150km〜200kmごとに350kW級の急速充電ステーションを設置し、全ヨーロッパをカバーする計画が進んでいる。
また同時に電動車のカーシェアリング基地、バス・ターミナル、パーク&ライド、市街電車駅などと組み合わせた充電ハブを形成する構想も進められている。
車両の電動化では、ロンドンタクシーは2021年までにPHEVを9000台導入すること、パリ交通公団は2025年までに全バス(4600台)の80%を電動バスを導入するなどの政策も決定された。さらにヨーロッパの主要都市部では小型EVを約4000台所有し、電動車による公共カーシェアリング「AUTO LIB」が急速に会員数を増やしつつある。
政策主導とはいえ、電動化と充電ステーション網の整備、さらには小型電動車を使用したカーシェアリングの普及は、日本は遥かに上回るペースで進行していることは興味深い。
■急速充電システムの普及はEVの普及と比例
急速充電システムに関連するビジネスは社会的なインフラでもあり、当然ながらEVの普及に左右されることは否定できない。
したがってEVは今後、2030年代〜2050年代までにどれほど普及するかが最大の関心事である。これまで、様々なEV普及の予測が行なわれてきたが、中国、インドなど巨大市場での電動化政策の採用と、アメリカでのZEV規制などに連動し、ヨーロッパの自動車メーカーも電動化を重視する方向に一斉に舵を切ったことで、従来のEV普及の予測は、より早く普及する方向に見直しが行なわれている。
経済産業省の次世代自動車研究会は、2030年にEV、PHEV、FCV、ハイブリッド、クリーンディーゼルを含む新世代車が50%〜70%と予測し、その中でEVとPHEVは20%〜30%と予測している。
またグローバルで見ると2017年以降、EVの販売が急激に上向いており、特に中国、アメリカ、ドイツでの伸びが顕著だ。
CHAdeMO大会では、会長の志賀俊之氏(日産・副会長)の2050年代に向けての大胆予測に基づく講演が行なわれた。志賀氏は、モビリティ社会の進化をCASE(通信常時接続、自動運転、カーシェアリング、電動化の頭文字)の拡大と位置付け、2050年になくなっているモノとして、ガソリンスタンド(電動化による)、運転免許や自家用保険(自動運転による)、交差点の信号機(通信接続による)、各家の駐車場(カーシェアリングによる)といった象徴的な事例を上げている。
国際エネルギー機関(IEA)の2012年時点での2050年の新車販売予測では、ハイブリッド、PHEVが約50%、EVやFCVは約40%としていたが、志賀氏は2040年でEV、FCVが90%を占め、2050年には、全保有車がEVもしくはFCVになるという大胆な予想を示した。もちろんその前提には、より高性能な次世代バッテリーの実用化による、バッテリー価格の低コスト化が求められるのだが。
またもう一つの前提は、再生可能エネルギーから得られた電力を、貯蔵できる技術の確立も求められる。それを担うのは従来からの揚水発電、水素、電気化学的電池(レドックスフロー電池など)が想定されている。さらに大量のEVと電力網との接続によるスマート・グリッドによる充電・放電による電力マネージメントも想定されている。
志賀氏は、さらに電動車と組み合わされた自動運転技術は2030年代の半ばから2040年代には急速に加速し、2050年にはクルマの3/4は無人・自動運転で、1/4が有人車となると予測する。無人・自動運転車はAIの進化により実現し、輸送、配送は無人化が進み、シェアリング車両などは無人・自動運転化するなど自動運転技術が確立することで交通事故は飛躍的に低減し、移動困難者をなくすことができる社会が来ると見ている。
2050年の社会をどう捉えるかについては、東京電力パワーグリッド社の岡本浩副社長が、ユーティリティ3.0の時代と捉えている。ユーティリティ3.0とは電力の分散化、脱炭素化、デジタル技術の進化、そして人口減少がもたらす新しい社会を意味するという。
ユーティリティ1.0は、電力会社の登場であり、ユーティリティ2.0は発送電分離による従来の電力会社以外の電力販売会社の登場により電力小売の競争の発生を意味する。
そして今後のユーティリティ3.0の時代は、エネルギーの大半が電力化し、同時に発電ネルギーは脱炭素化が進むが、同時に人口の減少が進み、大規模な電力インフラより分散型電源が適合する時代になると予測する。同時にEVをベースにした電力コントロールや余剰電力の貯蔵などの導入でスマートグリッドも適合すると想定される。