【マツダ】発電用にロータリーエンジンを採用した「レンジエクステンダー」プロトタイプを公表

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デミオEVをベースに、リヤラゲッジの床下に発電ユニットを搭載したレンジエクステンダー

2013年12月20日、マツダは地方自治体などに限定リースしている「デミオEV」をベースに、発電用にロータリーエンジンを搭載したプロトタイプ「デミオEVレンジエクステンダー」を公表した。この発電システムを搭載したレンジエクステンダーは、デミオEVの航続距離200kmを400kmまで引き伸ばすことができるという。

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2012年から自治体、企業に限定リースされている「デミオEV」

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◆近未来先行技術概要

ベースとなっているデミオEVは床下のほぼ全面に18650型リチウムイオン電池を使用した電池パッケージを敷き詰め、容量20kWhを確保している。総電圧は346Vで、最大出力75kW(102ps)/150Nmのモーターを採用している。

このデミオEVも短時間ながら試乗できた。ガソリンエンジンのデミオに対してリチウムイオン電池やインバーターなどで190kgの重量増となり、車両重量1180kgとなっているものの、強力なモーターの加速により、ガソリンエンジンのデミオを上回るほどの加速感があった。強力な加速とリニアな伸びを重視したセッティングにしているという。

ただ、その一方でアクセル・オフでの減速、つまりブレーキ回生は予想したよりかなり弱めだった。シフトセレクターをD→Eにするとより回生が強化されるというが、EにしてみるとDモードよりは減速感が感じられるものの、期待したほどではないと思う。

このデミオEVは法人にリースするため、あえて回生を弱め一般的なエンジン/CVT並の減速感にしているのがその理由だそうだ。

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マツダは、現在のところスカイアクティブ技術によるガソリン、ディーゼルエンジンを展開しているが、環境技術としてはビルディングブロック戦略と称する構想を発表している。
つまり内燃エンジンのためのスカイアクティブ技術を基盤技術とし、その上にアイドリングストップや、減速エネルギー回生といった技術ステップを積み重ね、最終段階では電動化を計画しているのだ。

しかしその一方で、すでにアメリカのカリフォルニア州などは自動車メーカーに対して一定比率のゼロエミッション車=EV/PHEVの導入を2011年以来求め、2017年以降は本格導入が求められることになっている。このためマツダもEVの開発・投入のプログラムも進行させざるを得ないことになる。

したがって、デミオEV、そして今回公表されたデミオEVレンジエクステンダーもそのためのスタディ・モデルと位置付けられ、市販は少し先と見るべきだ。

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デミオEVをベースにしたデミオEVレンジエクステンダー
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エンジンルームに搭載されるモーター駆動ユニット、インバーターなど電動パワートレイン
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デミオEVレンジエクステンダーのインテリア。試験車両のため発電系シャットダウン・スイッチを設置
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リヤの床下に発電ユニットが吊り下げられ、後方からカバーされている
ラゲッジスペースに置かれた発電ユニットのコントローラー
ラゲッジスペースに置かれた発電システムのコントローラーユニット

◆ロータリーレンジエクステンダー

レンジエクステンダーとして成立させるために試作されたのが、ロータリーエンジンを使用した発電ユニットだ。発電用ジェネレーターを駆動するためのエンジンに、ロータリーエンジンが選ばれた。

その理由は、マツダが長年取り組んできた技術資産であること、レシプロエンジンよりコンパクトで運転時に静粛であることだ。ただし、このロータリーエンジンはこれまでの市販の諸元ではなく、専用に試作されたもので、330ccのシングルローター、水平回転式とし、出力は22kW(約30ps)/4500rpm。このエンジンはベルト駆動により2倍に増速して出力20kWのジェネレーターを駆動するようになっている。

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後方から見た発電ユニット。左側がロータリーエンジン、右側がベルト駆動されるジェネレーター
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ロータリーエンジン部を後方から見る。排気ポート、オイルパン(黒色)が見える
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発電ユニットを前方。水平配置のロータリーエンジンと点火プラグがわかる

発電ユニットはフラットな形状で、リヤラゲッジスペースの下に装着できるように上下方向の薄い長方体にまとめられている。ユニットとしては9.0L容量の小容量燃料タンク、インバーター、オイルパンなどがコンパクトに一体化され、ラゲッジスペースに影響を与えないことがこのユニットのポイントだ。

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なお、シングル・ローターエンジンは、従来のロータリーエンジンより薄く、よりS/V比を改善し、冷却損失を抑えるようになっている。またポート配置は、吸気がペリフェラルポート、排気はサイドポート式。排気エネルギーを抑えるためにサイドポート式にしているという。点火プラグは従来通りツインプラグだが、プラグの向きは新設定となっている。サイドハウジングやローターは鋳鉄製である。

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発電用に使用される330ccのロータリーエンジン。ペリフェラルポート吸気、サードポート排気とし、水平配置されるのが特徴。このエンジンで発電機をベルトで2倍速駆動する

ロータリーエンジンを採用した意味は実はもう一つあり、ロータリーエンジンはマルチ燃料、つまりCNG、プロパン、カセットコンロ用ガスなどに容易に対応できる資質を備えているという特徴を備えているのだ。

この資質はレンジエクステンダー用のエンジンとして有利という以外に、この発電ユニットを独立した発電機と位置付けた場合、災害時などの発電機としてのポテンシャルが高いことを意味している。したがって、この発電ユニットはレンジエクステンダー用のみならず、市販発電機としての発展性も考えられるという。

ただし、現時点ではこのロータリーエンジン発電システムは試作ユニットで、量産化の計画はまだないという。なおこの発電ユニットの重量は約100kg。そのためデミオEVレンジエクステンダーは1280kgとなり、ベースのガソリンエンジンのデミオより290kg重くなる。

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デミオEVレンジエクステンダーのステアリングを握って走り出すと、リヤからかすかなロータリーエンジンの音が聞こえる。しかし本格的な遮音は行なわれていないことを考えると相当に静かと感じた。

なおこの発電エンジンは本来は電池の充電レベルが下がると始動して発電するシステムとしているが、試乗したときはデモ用に10km/hで発電エンジンが始動し、それ以上の車速では車速に連動してエンジン回転が上昇するという設定になっていた。したがって、一時停止するとエンジンも即座にストップする。クルマが走り出して発電エンジンが始動する際も注意しなければわからなほど静かだ。逆に、アクセル開度や車速とは関係なしに、電池残量からREを始動、あるいはエンジン音を抑えるために、一定回転での充電という方法も可能であり、レンジエクステンダー専用エンジンとしての稼動方法も研究途中ということだ。
デミオ・ベースで290kgの重量増加とあり、発進時の加速感はあるものの発電ユニットがリヤに搭載されているため、旋回時にやはり重さ感は感じられた。

今回のデミオEVレンジエクステンダーの公開は、マツダの戦略が今後はスカイアクティブ技術を第2世代に進化させ、ハイブリッド車に対抗すると同時に、電動化においてはPHEV、EVの開発を加速するさせるというメッセージと考えて良いだろう。

マツダ公式サイト

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