フィアットのさらなる先端技術は、ツインエア2気筒エンジン

フィアット・パワートレーン・テクノロジー社(FPT)が開発した、最新技術であるマルチエア・テクノロジーを採用した第2弾が「ツインエア」エンジンである。このツインエア・エンジンは、2010年3月に開かれたジュネーブオートサロンでフィアット500(チンクェチェント)に搭載されて発表された。

現行のフィアット500には、1.2L、1.4Lの直列4気筒エンジンを搭載しているが、2010年秋には、この新開発の2気筒「ツインエア」エンジンが搭載される予定になっている。

ツインエア・エンジンは、世界で最もクリーンなエンジンを標榜し、燃費、排ガスで世界トップレベルとなるダウンサイジング・コンセプトのエンジンである。逆にいえばA、Bセグメントをカバーするダウンサイジング・コンセプトの新開発エンジンとしてツインエアは検討され、低フリクションと熱効率を両立させるために、直列2気筒、875ccというパッケージが選択された。

面白いことにダンテ・ジアコーサが開発を担当した2代目フィアット500も、偶然ではあるが直列2気筒(空冷)エンジンであった。ちなみに日産が開発した1.2Lエンジンが3気筒、VWグループが開発しているとされるA、Bセグメント用の0.9Lエンジンがやはり3気筒という噂だ。

前回レポートしているマルチエア・エンジンは、エンジンの基本骨格が既存の4気筒をベースにしているが、ダウンサイジングを意図したツインエアは近未来に向けた完全な新設計である。したがって、設計コンセプトは875ccでありながら、直列4気筒の1.4Lエンジンクラスなみの出力を狙い、大幅なフリクション低減を行うため2気筒とし、かつ低回転での最大トルクとエンジン回転数を大幅に下げようというのだ。

ツインエア・エンジンに採用されているマルチエア・テクノロジーは、チェーン駆動される排気カムに付随する別のカムが、各気筒の油圧ポンプでオイルを加圧し、加圧されたオイルは一旦チャンバーに蓄圧される。そして、電子制御ソレノイドバルブが油圧をコントロールし、吸気バルブの開閉を行う。吸気バルブは油圧で制御されているため、吸気バルブの開閉タイミング、リフト量は任意に制御でき、吸気量をコントロールすることができる。、また、スロットルバルブは使用されないため、ポンピングロスは生じない。さらに、吸気バルブは、エンジン負荷に応じて、早閉じ、2段開閉なども行うため、燃焼の制御の点でも優れている。

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エンジンスペック

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・排気量:875cc 2気筒 ターボ付き

・ボア×ストローク:80.5mm×86.0mm

・動弁機構:チェーンドライブSOHC・8バルブ+吸気マルチエア(連続無段可変吸気タイミング&リフト+スロットルレス) HLA付きフィンガー式ローラーロッカーアームによる排気バルブ駆動

・圧縮比:10.0

・最高出力:85ps(63kW)/5000回転(リッター当たり出力=97ps/L)

・最大トルク:155Nm/2000回転

・寸法:307mm× 500mm×596mm(全長×全幅×全高)

・機関重量:85kg(DIN)

・排ガス:ユーロ6

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上記のスペックからも分かるように、マルチエア・エンジンがベルトドライブであるのに対しより新しいチェーン駆動とし、排気バルブの駆動はカム直動式であったものがロッカーアーム式になり、さらなるフリクションの低減を行っていることがわかる。また圧縮比もマルチエアの9.8よりアップされ10.0になっている。

multiairvalve crank sturbo

直列2気筒エンジンの場合は、クランクシャフト位相角は180度と360度タイプがあるが、ツインエアは等間隔爆発の360度タイプとし、クランクシャフトの側面に1次振動を打ち消すためのバランサーシャフトを装備する。

性能的には、同出力(1.4Lクラス)のエンジンと比べ、CO2を30%削減、CO2排出量はフィアット500(2ペダルMTで92g/km 、MTで95g/km。現行の1.2Lで119 g/km)。これはダウンサイジング・コンセプトと、ターボ過給、スロットルバルブレスのマルチエア技術により達成されている。つまり徹底した低フリクション(低回転化も含め)、高い熱効率、ポンピング損失低減によるものといえる。

超低燃費で拡張性の高いツインエア・エンジン

このような高効率のエンジンであるため、燃費性能も傑出している。エンジン本体での燃費性能だけではなく、アイドルストップ・システム(標準装備)により燃費は同出力(1.4Lクラス)より30%以上低減。さらにアイドルストップ・システムと組み合わせギヤシフトインジケーターも標準装備することで実用燃費も高めている。また同時にドライビング・プレジャーを感じられる特性としたという。

燃費は、MTで4.91L/100km、2ペダルMTで4.0L/100km(いずれも欧州ミックスモード)、現行フィアット500(1.2L)は、MTで5.1L/100km(ミックスモード)である。マルチエアイテクノロジーにより、875ccの小排気量エンジンにもかかわらず、最大トルクはわずか2000回転で得られ3500回転まで持続する。これは、慣性のきわめて小さな新開発のターボや、最適化された吸気流デザインによって成し遂げられたという。したがってドライバーは、低速からのフレキシビリティと独特のドライビング・プレジャーを実感できる。

フィアット500に搭載した場合、最高速は175km/h、0→100km/h加速は11秒。(現行1.2Lは最高速160km/h、0→100km/h加速は12.9秒)である。こうした性能だけにとどまらず、このツインエア・エンジンは、今後の戦略的にも重要なエンジンと位置づけられている。つまり、近い将来にはCNG(天然ガス)などマルチ燃料に対応し、さらに超コンパクトなパッケージングはハイブリッドカーやエンジンを搭載し自分で充電するレンジエクステンダーEVにも適合させるという狙いがある。

このようにツインエア・エンジンは、きわめてチャレンジングな拡張性の高い、戦略的なパワーユニットであることが実感できる。875ccという排気量は、日本の軽自動車規格の660ccに近い。その軽自動車もかつては2気筒エンジンが主流であったが、現在は3気筒化されている。そして設計コンセプトも保守的でターボ過給エンジンを含め、大きな革新は行われてこなかった。

日本には今日的な意味を持つ660cc軽自動車という最高の材料があり、最新のテクノロジーを取り入れることで燃費、排ガス、出力など性能面での大幅な飛躍が期待できはずなのだが、革新は省みられず、コスト低減運動に終始しているのは残念といわざるを得ない。

ダイハツの2気筒コンセプト・エンジン

daihatsu

実は、2009年の東京モーターショーにダイハツがコンセプト・エンジンとして、2気筒+ターボ過給+直噴エンジンを出展している。最高出力は47kW/4500回転、最大トルクは100Nm/1500-4000回転。高圧縮比化や大量EGRシステムを組み合わせることによって、燃費を従来比30%以上改善するという狙いとなっていた。これはかなりツインエアに近いコンセプトといえる。

しかしその一方で既存エンジンの改良や大量EGRの採用により、燃費30km/Lを達成できるとしており、ターボ過給+直噴というコストアップ要因を考慮すると既存エンジン路線に軍配が上がり、2気筒エンジンはまだ研究段階の域を出ないと見られる。

そもそも、ツインエア・エンジンで標準採用されるアイドルストップ・システムでさえ、日本の軽自動車・乗用車の多くには絶望的である。つまりアイドルストップ採用に伴うコストアップが吸収できないからである。それに比べ、はるかに財務体質が弱いといわれるフィアットは、近未来の生き残りをかけて大きく動き出していることは評価に値する。

文:編集部 松本晴比古

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