ZFが目指すビジョン・ゼロの世界。これまで3回にわたり、必要とされる考え方や技術、具体的な提案をレポートしてきた。「see, think, act」データを集め、解析し、アクションする。この3ステップのラストがact、アクションだ。各種のセンサーやカメラ、アルゴリズムで解析されたデータを用い、クルマを動かすという最終的な行動を意味する。だが、もっとも重要なことでもあり、ここでうまく作動しなければ台無しだ。<レポート:高橋 明/Akira Takahashi>
ZFグローバル試乗会レポート vol.1 自動運転、EV化への未来像
ZFグローバル試乗会レポート vol.2 未知の体験が続々と
ZFグローバル試乗会レポート vol.3 ZFが開発を進める自動運転はレベル2、3の強化とレベル4までの道程
シャシーテクノロジーはZFが最も得意とする分野であり、世界の頂点に立っていると言っても過言ではない。スポーツカーや名車、高級車、超高級車が採用するステアリング、ホイールガイド、ダンパー、サスペンション、スタビライザー、ブレーキなどでクルマの特性がきまり、その多くがZF製のシャシーテクノロジーを採用していることからも理解できる。
さて、時代は次の時代へのステップが始まり、将来の運転機能をサポートする新たな連携システムが求められている。これまで求められていた安全、安心、快適に加え、データの連携による次なるステップとなるシャシーテクノロジーだ。
その要求に対する答えがインテグラル・シャシー・コントロール(ICC)とメカニカルシステムとの連携だ。
■空飛ぶ絨毯に変えるsMotion
ZFの連続可変減衰力コントロールダンパー(CDC)をもとに開発さたsMotionアクティブ・ダンパーシステムは、4輪に装着されたダンパーにモーター駆動ポンプが装着され、ピストンロッドのスピードよりも速く反応してダンパー減衰をコントロールする。
その結果、sMotionでは、路面の凸凹を数キロニュートンの力で吸収することができる。これにより車体はロールやピッチング、ヨーイングを実質的に除去できることが可能で、車両の安定性は向上し、これまでよりはるかに安全で快適なものになり、まるで空飛ぶ絨毯のようになると、Dr.クライン氏は説明する。
これらはカメラ、センサー、ライダーなどの情報と組み合わされ、自動運転機能のサポートとなり、車内ではドライバーは運転から解放され、他のことが快適にできるようになる未来があるわけだ。
■ロールをコントロールするERC
ERCはひと言で言えば、モーター内蔵のスタビライザーだ。このアクティブ・ロール・スタビライゼーション・システムは、アクスルに装着され、48Vのモーターを内蔵。カーブや荒れた路面からの影響を大幅に削減する。車体のロールは最大1400Nmの力で1/300msecの速度で相殺されるという。また、このコンポーネントの特徴として汎用設計であることも付け加えたい。
■車高が変わりながらバネレートは変化しないeLEVEL
電子油圧レベリング(EHL)技術は、スプリングプレートの位置を変化させ、車高をスムーズに調整する機能だ。油圧制御するサスペンションには、それぞれにアクチュエーターが装着され、車高が調整される。障害物を乗り越えるときや、積載時の荷重バランス調整、あるいは、EVの非接触充電用に最適な車高調整ができるというものだ。非接触充電は地面に埋め込まれた機器と車体下面に装着した機器との間で充電されるが、その際の距離が重要になることから、EHLの重要性があるわけだ。
これはメルセデス・ベンツEクラスに装着したテストカーをドライブした。テストでは車高の変化による乗降性が良くなったことやコーナリング時にはロールを抑えフラットな姿勢で旋回できる状況が体験できた。が、テスト用にそうしたセッティングにしているということで、さまざな応用方法があるという一面だ。
■高度に自動化された運転支援を支えるICC
インテグラル・シャシー・コントロールは、パワーステアリング(EPS)、後輪操舵のアクティブ・キネマティック・コントロール(AKC)、アクティブ・ダンパー・システムのCDC、そしてバイワイヤーを含む電子制御のブレーキシステムABSを連携するシステムだ。
ICCは個々に装着されたアクチュエーターをネットワークで連携する役目であり、それによりさまざまな新機能が実現できるシステムだ。ICCの働きは前後、上下、横方向の動きを最適に制御し、運転の快適性、安全性、ゼロ・エミッションに集約され、アクティブシステム系には予測機能も盛り込み、ADAS高度運転支援システムと連携させることで、より車両安定性への拡張性が高くなるというわけだ。
これらのシステムを搭載した試乗車では、キャデラックCT6が用意されていたのだが、残念ながら順番待ちの時間切れで試乗することができなかった。が、これは推測だが、すでにメルセデス・ベンツのSクラスに採用されている乗り心地をよくする技術の進化版ではないだろうか。
■番外編の後輪操舵AKC
アクティブ・キネマティック・コントロールはVOL2のビジョン・ゼロヴィークルの回に解説したが、こちらでは、さらに大型車向けに作られたAKCを試すことができた。
車両はフォードのピックアップトラックで、国内で言えば2トントラックより大きいピックアップトラック。北米では一般的に乗られている車両だが、こちらのリヤアクスルにこのAKCを装着している。その狙いは小回りが利くようになること。
リヤタイヤが最大12度まで稼働するということで、パイロンで制限されたフィギヤ競技のようなエリアをテストドライブした。目視ではこれまでの経験から絶対に曲がれない、という転回場所も難なくクリアしていく。言い換えれば思った以上にハンドルが切れる動きをするので、どのタイミングで転舵すればいいのか?判断が難しいほどなのだ。
このAKCは北米でもこの大きさのピックアップは必要とされているが、やはり小回りが利かない不便さをアメリカ人も感じているという。そうした需要にも対応できるという例で、ZF社は乗用車用部品だけのサプライヤーではなく、大型のトラック、バスも専門分野であるため、こうした展開もあるというわけだ。
■デジタル・モビリティに必要なオープンマティックス 「ダッシュボード」を提案
最後はシャシー技術ではなく、クルマで移動するすべての人が享受できる、新しいソリューションの話。簡単に言えばopen telematics platformで、ZFではopenmatics(オープンマティックス)と表現している。
一体なんのことか。車載するユニットから車両固有のデータがクラウドに送信され、ユーザーはそのクラウドに「Dashboard(ダッシュボード)」というアプリを使ってアクセスし、さまざまな情報を得ることができるというものだ。
例えば輸送業者やカーシェアリングなどでは、すべての車両を一括管理できる。全車両の位置、稼働率、走行距離、空車状況、そして、燃料、バッテリーの充電状況、故障等のエラーメッセージなども取得でき、デジタル・モビリティというメガトレンドにおけるビジネスチャンスと捉えることができるわけだ。
われわれ個人ユーザーであれば、純EV車(BEV)の心配事のひとつに充電ポイントがある。自宅周辺を走るぶんには問題ないものの、長距離移動の時には不安を覚えるものだ。そうした不安を解消するひとつのソリューションとして、このダッシュボードが利用できる。ルート上には常に、充電ステーションが表示されているわけだから、長距離走行も安心だ。
さて、ZFが提案するオープンマティックスは、テレマティクス、アセット・トラッキング、エンターテイメント、診断、エンジニアリング等を含めた、メーカーに依存しないコネクティビティソリューションを提供するとしている。フリート管理を可能にし、アセット・トラッキングを促進し、エンターテイメントも提供する、としている。
もう少しかみ砕くと、高精度な情報を提供することであり、常時接続をすることで、個体が持つ情報(アセット トラッキング資産の追跡)、エンタメ、車両の健康診断などどのメーカーの車両であっても、接続でき情報を提供することができるということだ。そうすることで組織的(フリート)な管理が可能となり、個体の情報取得を促進し、さらにエンタメも提供していくというソリューションというわけだ。
■まとめ
全4回にわたってレポートしてきたZFのグローバル試乗会レポートだが、未来の自動運転に向けて、EV化に向けて、今、何をしなければならないのか?そして今必要とされているものは何か?さらに、将来、何をすることで豊かな生活へと結びつくのか?などが具体的に提案され、製品としても提示されたわけだ。どうしてもわれわれ自動車メディアは完成したクルマの評価だけにとらわれがちで、表面だけしか見えてこないのも事実。だが、こうした機会からの情報は非常に貴重で、今後の記事制作に役立っていくことになる。しみじみ。
ZFグローバル試乗会レポート vol.1 自動運転、EV化への未来像
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