「WTCCを支えるヨコハマ物語」うん?なんのことだ?あっそうか、ヨコハマタイヤのことか。WTCCとは「World Touring Car Championship」の略。そう、ツーリングカーによる世界選手権のことだ。ヨコハマはそのWTCCにタイヤを供給している。ちょうどF1グランプリにピレリ1社だけが供給しているのと同じ。少し前ならブリヂストンがF1に供給していたことを覚えている人もいるだろう。
◆欧州のモータースポーツは信頼に繫がる
ヨコハマはWTCCをその供給先に選んだのは今から10年近く前になる。2005年、ヨコハマタイヤは欧州でのタイヤ販売を拡大するためドイツのデュッセルドルフにあった出張所をベースに、新たにヨコハマヨーロッパ社を設立した。「より多くの人にヨコハマブランドを知ってもらい、タイヤを購入してもらうためにさまざまな販促・PR活動を展開する上での拠点としてスタートしました」(神田大輔 ヨコハマ・モータースポーツ・インターナショナル株式会社 企画部長)
現在でもそうだが欧州ではミシュラン、コンチネンタル、ピレリと老舗タイヤメーカーがあり、日本からの進出は当然のようにハードルは高かった。少しでもヨコハマを理解してもらうにはどうすべきか?その問題解決の糸口はモータースポーツへの参戦であった。
欧州ではクルマに興味がある、という人ではなくても、モータースポーツで実績がある製品の信頼度は高いという。それはクルマだけでなくタイヤを含めたパーツでもそうだという。日本ではレース部品のノウハウは市販品へ活かされている、あるいはレースチームのノウハウは市販自動車へ活かされているという認識は小さい。全く別物という認識のほうが一般的で、レースはある意味特殊なもので、好きな人たちが好きでやっているという捉え方なのが一般的だ。だから、なかなか欧州のようにレース=高性能商品という図式には繫がらない。
▲WTCCはタイヤはヨコハマのワンメイクのため、各チームに公平に供給される
欧州の自動車メーカーでは、社内のエリート集団がレースを担当するというのが一般的である。そのことを良く知る大衆は彼らの活躍こそ、いい市販商品作りに繫がっている、と考えているわけだ。レースで勝つとそのクルマは売れるという現象は実際に起こる。それはクルマだけに限らず、サスペンションやブレーキパーツ、そしてタイヤも同様に認識され、それらのメーカーエンジニアもエリートであり、そして結果的にレースでの成功は製品の信頼度を大幅に向上していくものなのだ。
◆ツーリングカーレース用タイヤが得意なヨコハマ
ヨコハマは1970年代から国内でのツーリングカーで活躍している。国内のツーリングカーレースではダンロップ、ブリヂストンの2強という図式の中、富士ツーリングカーレースのアドバンカラー和田孝夫選手の活躍は華々しかった。ヨコハマがスポーツタイヤ・ブランドの「アドバン」を立ち上げたのが1978年で、アドバン・レーシングタイヤは、ツーリングカー・カテゴリーからスタートし、アドバンカラーというのもその頃から定着してのではないだろうか。今ではクルマ好きであれば、アドバン=ヨコハマタイヤは当たり前のこととして認知されている。その後はF2や富士グラチャンシリーズでも高橋国光選手、耐久のCカーでもヨコハマはアドバンブランドで躍進を続けた。また、海外でもマカオ・グランプリ(F3)タイヤのワンメイク供給やツーリングカーのギアレースに参戦し、国内のサーキット路面とは違う性能を要求されるレースにも積極的だった。
「これまでの開発の歴史からもツーリングカー用のタイヤには自信がありました。はっきり言ってGTよりもツーリングカーのほうがデータの蓄積が多いので、それが世界戦レベルだとしても、あまり心配はしていませんでした」と語るのは参戦当初から開発に携わるヨコハマ・モータースポーツ・インターナショナル株式会社 開発本部の渡辺晋氏。だが、そう簡単なものではなかったからレースは面白い。この話の続きは後日公開。
そして、その頃から途切れることなくツーリングカーのタイヤを供給するヨコハマは、欧州ビジネス展開においてツーリングカーというカテゴリーを選択するのは、ごく自然の流れだったのだろう。WTCCへの参戦を選択し、2005年にはFIAへの入札に参加することになる。
当時、世界選手権として開催されるレースはF1とWRCしかなかった。欧州での人気獲得は、やはりレベルが高いレースでの結果が比例して高評価に繫がる。マーケットシェアがほんのわずかしかなかったヨコハマは、WTCCへ挑戦することで、認知度をあげ技術力のアピールの場として参戦することを選んだのだ。
「参戦当初は欧州での販促というのがメインでしたが、今のWTCCは欧州外での開催と半々ぐらいになっています。ワールドツーリングカーという名称どおり、欧州外でのヨコハマブランド認知に役立っているというのも事実ですね」(神田大輔 企画部長)
WTCCはアフリカ・モロッコ、ロシア、日本、中国、アルゼンチンと行なわれており、欧州以外でも開催されている。「今となっては欧州以外での開催によって、世界中でヨコハマを認知してもらえるようになったと思います。欧州での販売も伸びていますので、モータースポーツへの参戦は極めて大きな存在だったと思います」と、神田氏は言う。
それはレースが開催されるような環境のある国であれば、ヨコハマはほとんどの場所で拠点を持っており、サービス体制もそして市販タイヤも販売しているので、WTCCへの供給というのは現地の観衆には強烈なアピールとなっているわけだ。
また、10年近い参戦経験により「もし、仮に欧州の自動車メーカーが何かのレースを始めようとしたとしたら、『ヨコハマさんも参加しませんか』と自動車メーカーから声を掛けてもらえると思います」(渡辺晋氏)。つまり、欧州の自動車メーカーの中でも「ヨコハマ」はすっかり浸透し、信頼も高いという証拠でもある。そしてこの信頼はレースだけでなく市販車の標準装着タイヤとして採用されるというビジネスの流れも生み出し、レース技術を市販品に反映するというヨコハマスタイルの成功例と言えるだろう。
「レース技術と市販品への技術がリンクし、そして市販タイヤ、市販レーシングタイヤの種類の多さも自慢の一つです。クルマ好きが作るからいいタイヤが作れるんだと思います」という話のように、クルマ好きが活躍するのがヨコハマタイヤというわけだ。
ヨコハマタイヤが供給するWTCC日本ラウンドは10月24日(金)から26日(日)鈴鹿で開催される。なお、チケットは8月17日発売開始