【横浜ゴム】性能アップを目指し、スウェーデンに自社テストコースを開設 レポート:菰田潔

雑誌に載らない話vol84

Yokohama Winter Event  Nattberg Sweden
横浜ゴムがスウェーデンに開設したウインタータイヤ用のテストセンター

CO2増加のせいかどうかは別にして、いま地球が温暖化に向かっていることは冬用タイヤの使用状況や冬用タイヤのテストフィールドの変化によって感じられる。レポート:菰田潔  2014年3月のニュース

◆温暖化によるテスト不足が問題

冬期はほとんどのクルマがスパイクタイヤだったノルウェイ、スウェーデン、フィンランドの北欧3カ国だが、近年は日本のスタッドレスタイヤが普及してきた。それは冬でも一部の道路で雪や氷がなくなりアスファルト舗装が顔を出すようになったからだ。舗装路をスパイクタイヤで走ればアスファルトを削り粉塵公害が問題になるのはどこの国でも同じ。日本のスタッドレスタイヤの販売が北欧でここ数年順調に伸びてきた理由はここにある。

スタッドレスタイヤのアイス性能は技術の進歩によってかなり向上しているが、極寒ではない時期のアイス性能は残念ながらスパイクタイヤに敵わない。そのためスタッドレスタイヤが多くなってくると、走行安全のため氷を溶かすための融雪剤を撒かなくてはならなくなる。それが環境への影響を危惧する声となって上がってきているようだ。スパイクタイヤもスタッドレスタイヤも、まだまだ発展の余地はありそうだ。

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↑日本では見られない北欧用のスパイク(スタッド)タイヤ↑

もうひとつ実感できる温暖化は、冬タイヤを開発するためのテストフィールドが減ってしまっていることだ。日本では真夏の7月~8月に冬タイヤの開発テストを行なうために、タイヤメーカーはニュージーランドに行っていた。南半球だから日本とは反対の真冬で、山の上にはスキー場があり、その隣にはクルマやタイヤのテストをするための雪と氷のテストコースがある。それはクイーンズタウン空港からほど近い場所だ。

しかし最近はそこも温暖化によって冬用テストが満足にできなくなっているという。地球が温暖化に向かっているとはいえ、2014年の冬はアメリカ合衆国が異常な寒さに襲われたし、北欧3カ国、ロシア、カナダではまだまだ冬は雪と氷の世界が残っている。だからこれまでと同じように冬用タイヤは必需品なのである。

◆グローバルで必要とされる冬用タイヤ

横浜ゴムはロシアにもタイヤ工場があり、ロシアだけでなくヨーロッパでも販売している。もちろん冬用タイヤも主力商品のひとつである。冬用タイヤを開発するにあたってテスト項目はたくさんあり、ニュージーランドで満足にテストできない状況では、メインになる北海道の「T*MARY」と呼ぶ冬用タイヤのテストコースだけでは消化しきれなくなっている。
そこでスウェーデンの北部の極寒の地に横浜ゴム専用のテストコースを構えることになった。日本では2ヶ月程度しかできない冬タイヤテストが、スウェーデンのこの地では年に4ヶ月できるという。

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「V905」(左)と「iG55」
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スタッドレスタイヤ「iceGUARD 5」

 

横浜ゴムが製造する冬用タイヤは大きく分けて3種類ある。まず日本でメインとなる冬用タイヤといえばスタッドレスタイヤである。雪の上だけでなくアイスバーンでもグリップを確保しているのが特徴だ。磨いたようにツルツルになった交差点付近のミラーバーンとかブラックアイスと呼ばれるアイスバーンでも、発進・停止ができるようにトレッドコンパウンドとトレッドパターンを工夫している。日本以外にも日本と気象環境が似てきた、韓国、中国、カナダ、ニュージーランド、ロシア、北欧3国で需要がある。「iceGUARD5(iG50)」が最新のモデルだ。

ヨーロッパ大陸で標準的な冬用タイヤは、ウインタータイヤと呼ばれるもので、スタッドレスタイヤよりスピードレンジが高く、アウトバーンもハイスピードで走れるタイヤだ。スタッドレスタイヤと比べると雪とアイスバーンでの性能は劣るが、ドライ路面やウェット路面での性能が高い。ドイツでは3年前から冬期は冬用タイヤを履かなくてはならないという法律が罰則付きで施行されたため、商品が足らなくなったという経過がある。

冬期という定義が曖昧なのだが、ヨーロッパでは気温が7℃以下になるとサマータイヤよりウインタータイヤの方が100km/hからの制動距離が短くなると一般に告知されている。つまり7℃以下になったらウインタータイヤに履き替え、春になって7℃を越えたらサマータイヤに履き替えることが推奨されているのだ。ヨコハマのヨーロピアンウインタータイヤの「W.drive」はV903の現行モデルから、最新モデルのV905に進化した。

3種類目はスパイクタイヤだ。ヨーロッパではスタッドタイヤと呼ばれる。冬の間、長期間に渡って道路が雪や氷で覆われている地域ではまだスパイクタイヤが標準になっている。スタッドレスタイヤに近いトレッドパターンだが、トレッドゴムに金属ピンを立て、雪はトレッドパターンの溝でグリップし、アイスではスパイクピンが氷を引っ掻いてグリップを確保している。「iceGUARD STUD iG35」から最新モデルは「iceGUARD STUD iG55」に進化した。

◆スウェーデンに自前のテストコースを開設

「YOKOHAMA TEST CENTER of SWEDEN」は、横浜ゴムがArctic Falls社から長期契約で借りた最新のテストコースである。Arctic Falls社はスウェーデンに5つのテストコースを持ち、自動車関連企業やタイヤメーカーに貸している。2013年に建設された最新のテストコースを横浜ゴムが10年契約で借りたものだ。場所はスウェーデン北部のルレオ空港からクルマで1時間30分ほど内陸に向かったアルブスビュンである。

YOKOHAMA_TEST_CENTER_of_SWEDEN_Locations© Foto: Per Pettersson.

敷地は40万平方メートルで、その中に9つの異なるテストコースがそれぞれ独立して無駄なくレイアウトされている。ここは湖の上ではなく、雪の下には地面がある。コースに多少なりともアップダウンを作れるのがメリットだ。4ヶ月間の冬用タイヤのテストで8ヶ月は遊んでいるのかと質問すると、夏はパスバイノイズ(加速騒音)というタイヤの走行中の静粛性を計測するための設備があるので、テストコースとして稼働しているようだ。

◆試走してみた
コースレイアウト図でグレーのところは雪、ブルーはアイス、赤は連絡路である。図の4番、5番のスキッドパッド以外のコースは、今回の訪問で試走することができた。

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1番は550mの直線の雪の路面である。コース幅は楽にUターンできるから15〜20mくらいはありそうだ。ここはVWゴルフ7で走った。往きは全開加速のあとフルブレーキで停止。奥でUターンをしたあと、レーンチェンジをして帰ってくるコースだ。最新のウインタータイヤである「W.drive V905」はブレーキがよく効き、ハンドルの効きも良く、総じて滑りが小さいのが判った。他のプレスに散々走られた雪道は、全開加速のところは轍ができていたが、ほとんど影響を受けなかった。

2番は1番と同じ550mの雪の路面である。ここはポルシェ・カイエンが用意されていて、最新のスパイクタイヤ「iG55」で走った。往復ともコース幅をいっぱいに使った大きな振幅のスラロームコースがパイロンで設定されていた。カイエンのトラクションは強烈で、アクセル全開で試したが雪道とは思えない加速力だった。車重が重いのでスラロームでの方向転換が大変だったが、トラクションとブレーキング性能の高さは体感できた。ターンするところは、雪が掘れて下のアイスバーンが顔をだしていた。60人のプレスに雪の路面が痛めつけられたせいだ。

© Foto: Per Pettersson.
「 V905」でハンドリングコースを走るBMW 1

3番は1620mある雪のハンドリング路である。ここが一番楽しく走れた。クルマはBMW 1シリーズ。DSC(横滑り防止の電子制御)はすべてカットして走ってみた。ヨーロッパのウインタータイヤである「W.drive V905」はスパイクがないにも関わらず、大きなドリフトアングルになっても急にスピンモードになることもなく、粘り強くコントロールしやすいグリップであった。

ハンドルを切り込んでいったときの追従もよく、なかなかグリップ力が落ちないから安心だ。アクセルコントロールがしやすく、コーナーの入り口からドリフト状態を続けて出口まで持続させることも楽にできた。大きなドリフトアングルの滑りからグリップを回復するときに、カウンターステアの戻しをシビアにしなければならないところがあるから、もう少しスムースに回復するといいと思った。しかし通常はDSCが作動するから問題はないが。

このハンドリングコースにはゲストドライバーとしてフランス人のイヴァン・ミューラー選手がスタンバイしていて、同乗では派手なデモ走行を見せてくれた。イヴァン・ミューラー選手はヨコハマタイヤのワンメイクで開催しているWTCC(FIA世界ツーリングカー選手権)の2013年のチャンピオンである。フォーミュラドライバーと違って体格が良いのが印象的だった。気さくな人柄で、夕食時も楽しく会話をしてくれた。

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W.drive V905を装着したA4で走るハンドリング路

6番は雪道のハンドリングコースで、道幅があるのでセンターラインに雪の壁を作って、内側と外側の2重のコースを作っていた。3番のハンドリング路より走行スピードが低い領域でのテストに向いていそうだ。ここでは「W.drive V905」を履かせたアウディA4(FF)で走った。ところどころのカーブでは圧雪路からアイスバーンが顔を出しているので、ハンドルに頼って運転しているとフロントから逃げていきそうになるが、グリップ自体は粘り強いので急に滑らず安心感があった。

◆日本用スタッドレスのレベルは高い

7番は直線のアイスバーン路面。アクセル全開で加速するのと、パイロンの位置からフルブレーキングという縦方向のグリップを試すコースである。VWゴルフ7に「iG55」のスパイクタイヤと「iG50」のスタッドレスタイヤで走った。iG55は路面によって滑るところとグリップするところがあった。スパイクによりグリップが強いから、滑りが明確になるのかもしれない。「iG50」はハンドルがよく効くのでリヤが滑り出してESCが作動するくらいだった。ブレーキの効きもよく、日本のスタッドレスタイヤの実力の高さを知った。

© Foto: Per Pettersson.
スパイクタイヤを履いたゴルフで氷上テスト
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氷上ハンドリング路でスパイクタイヤを試す

8番はアイス路面のハンドリング路である。ここは新型フォード・フィエスタで走った。クルマが軽いこともあり、「iG55」のスパイクタイヤで楽々走れた。アクセルを踏み過ぎてホイールスピンが大きくなっても、ハンドルを切り過ぎてスリップアングルが大きくなっても、グリップを確保しているところがスパイクタイヤの良いところだ。

9番は雪の登坂路だ。傾斜が異なる路面が3種類用意されている。登り始めるところで一時停止し、そこから再発進するテストだ。VWゴルフ7にウインタータイヤの「W.drive V905」を履かせて走った。古い「V902」との比較もできたが、「V902」では発進も難しいところを「V905」は難なく発進でき、しっかりしたグリップでハンドルもふらつかずに坂を登っていった。ここでは日本のメイン商品であるスタッドレスの「iG50」でも走った。もちろん発進もできたし、ふらつかず気持ちよく登ることができた。

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雪上登坂テスト。坂の途中で一端停止し、再発進するときのトラクション性能を試験する

「ヨコハマ テストセンター オブ スウェーデン」の開設によって、横浜ゴムの冬タイヤの開発はさらにスピードアップが図れそうだ。横浜ゴムは世界各地で需要が拡大するなかで、開発部隊はより効率の良い技術開発が求められている。茨城県にある総合プルービンググラウンド「D-PARC」と北海道にある冬用タイヤプルービンググラウンド「T*MARY」、タイにある総合プルービンググラウンド「TIRE TEST CENTER OF ASIA」とここスウェーデンのテストコースが加わることで、実車でのテストは充実してきた。

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さらにドイツの「ニュルブルクリンク・テストガレージ」をベースにして過酷な実車試験をしている。実はニュルブルクリンクの所長がスウェーデンのテストコースの所長も兼務している。次回は「ニュルブルクリンク・テストガレージ」の様子を取材してみたいと思っている。

横浜ゴム公式サイト

COTY
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