48Vマイルド・ハイブリッドを高圧過給する電動スーパーチャージャーの時代が来る

メルセデス・ベンツ Sクラス 直列6気筒3.0L ターボ 電動スーパーチャージャー
2017年秋発売予定のメルセデス・ベンツSクラスの直6 3.0Lエンジン。電動スーパーチャージャーとターボを組み合わせて搭載

2016年春にヨーロッパで発売されたアウディ SQ7 TDIは、V型8気筒4.0Lツインターボ・エンジンを搭載した高性能スポーツSUVだが、初の48V電圧を採用した電動スーパーチャージャー+ターボチャージャーを装備していることでも注目された。

アウディ SQ7 電動スーパーチャージャー
アウディSQ7に採用された電動スーパーチャージャー

また、サプライヤーのボルグワーナー、ヴァレオ、マグナ、三菱重工などから相次いで電動スーパーチャージャー製品が発表されるなど、電動コンプレッサーに注目が集まっている。

これまで、スーパーチャージャーといえば、クランクシャフトからの動力を使用する機械式スーパーチャージャーが常識だった。機械式のスーパーチャージャーの主流はルーツ式構造だったが、現在の電動スーパーチャージャーはモーターを高速回転させる遠心式チャージャー、つまりターボと同様のコンプレッサーを備えている。

ルーツ式スーパーチャージャー
機械式スーパーチャージャー

機械式は摩擦損失が多いのに対し、電動スーパーチャージャーはより高効率で、動力となるモーターも12V用、48V用に簡単に対応することができる。

■なぜ電動スーパーチャージャーか

内燃エンジンのダウンサイジングが今では世界のトレンドになったが、従来よりさらに低速トルクを引き出す、低速でのエンジン・レスポンスを高めるためにターボと電動スーパーチャージャーを組み合わせるのが有利というのだ第1の理由だ。

ウェイストゲーとターボと2ステージターボ 電動2ステージターボの性能曲線比較

また、現在のエンジンは低燃費、低排出ガスを目指し、多量のEGR(再循環排気ガス)を使用しているため、低速域で過給圧を高めるためにも電動スーパーチャージャーが必要になってきている。

ウェイストゲーとターボと2ステージターボ 電動2ステージターボの優劣比較

もうひとつ、新たに注目されているのが48Vマイルドハイブリッドとの組み合わせで、電動スーパーチャージャーを加速ブーストに使用するという使い方だ。

従来からの12V電圧を48Vに昇圧する48Vシステムは、クルマに搭載されている発電機兼用の駆動アシストモーターの出力を大きくすることができる。もちろんそれだけではなく、モーターを動力とする機器の高出力化が可能になる。こうしたメリットが注目され、48V化する動きが高まっているが、一番大きなメリットは48Vを活かしたマイルドハイブリッドというわけだ。

発電機兼駆動アシストモーターによる発進、加速時のモーターアシストを利用することで燃費は10%〜15%改善される。また、本格的なハイブリッド(300V〜500V)に比べて電装部品のコストを遥かに抑えることができ、小容量のバッテリーとAC-DCコンバーターの組み合わせというシンプルなシステムで、中型車以下のクルマに適合させやすいというメリットもある。

この48Vマイルドハイブリッドに電動スーパーチャージャーを組み合わせると、加速時にはモーターアシストにプラスして、エンジンの出力もアップすることができ、加速性能と低燃費を両立させることができるのだ。

■各社の電動スーパーチャージャーの動向

ボルグワーナー

ボルグワーナーは、2017年5月にメルセデス・ベンツSクラスの3.0L 直6ガソリンエンジン用に48Vの電動で駆動するスーパーチャージャー「eBooster(eブースター)」の納入を開始したと発表している。

ボルグワーナー 電動スーパーチャージャー 遠心式

ボルグワーナーが供給するターボチャージャーと組み合わせてeブースターを使用することで、燃費と低速トルクが向上し、ターボラグを感じさせることなくアクセル操作に即応した過給が実現する。

ボルグワーナー メルセデス・ベンツに納入した電動スーパーチャージャーを装備した2段式過給器 2段2速

この電動スーパーチャージャーはブラシレスDCモーターで、ネオジム磁石より耐熱性が高く耐久性のあるサマリウムコバルト磁石を採用し、高効率なパワーエレクトロニクスを組み合わせた小型のユニットとしてまとめられている。

ボルグワーナー 2段2速過給器 電動スーパーチャージャーとターボチャージャー

この新しい電動スーパーチャージャーの技術は、自動車メーカーにとっては内燃エンジンはもちろん、ハイブリッド車にも適合できるなど多様な可能性を持ち、ボルグワーナーはメルセデス・バンツをはじめ、グローバル自動車メーカー3社への販売を開始している。

ヴァレオ

フランスのヴァレオ社は、12V、48Vのマイルドハイブリッドを展開するシステムサプライヤーで、最もローコストの12V発電機兼モーターによるマイルドハイブリッドと、48Vの発電機兼モーターによるハイブリッド、そして通常の発電&モーターユニットをリヤアクスルに装備する48V電動リヤアクスルドライブ (eRAD 48V)があり 、さらに12Vまたは48V電源で駆動する電動スーパーチャージャーをラインアップしている。

ヴァレオ 発電・駆動モーター 12V用と48V用
マイルドハイブリッド用の発電・駆動モーター。左は12V用、右は48V用

この電動スーパーチャージャーは、マイルドハイブリッド・システムと組み合わせると、発進加速、追い越し加速を電力で稼働させ、さらにエンジンの出力アップを図ることができる。この電動スーパーチャージャーは水冷式で、制御ECUやCAN接続端子を内蔵するなど独自のパッケージングとなっている。最高回転数は7万回転、重量は48V用で2.6kg、12V用で2.5kgと軽量だ。

ヴァレオ 電動スーパーチャージャー 遠心式
ヴァレオの電動スーパーチャージャー

三菱重工エンジン&ターボチャージャー

三菱重工の過給器部門会社は、ガソリン、ディーゼル用ターボのグローバル・サプライヤーだが、2020年を目途にマイルドハイブリッド車、PHEV向けのターボを投入する。その中に電動スーパーチャージャーも含まれている。

マイルドハイブリッド、PHEV用は電動2ステージターボと呼ぶシステムだ。48V電源に対応している。電動2ステージターボの構成は、ターボチャージャー1基と電動スーパーチャージャー1個のデュアル過給システムで、吸気側に入った空気を電動コンプレッサーで過給し、その下流にターボチャージャーを配置して再度過給できるようにするシステムだ。

三菱重工 電動スーパーチャージャー
2010年に試作された電動スーパーチャージャー。2kWモーターで14万rpmを実現

三菱重工は2010年頃から、モーターの高速応答性を活かしターボラグの解消、自然吸気エンジン並みの燃費、エンジンのダウンサイジングを実現できる手段として電動スーパーチャージャーを研究・開発しており、最高回転数が10万rpm以上を実現している。

開発では1.4Lのガソリンエンジンで目標トルクに到達するまでのエンジンレスポンスは、従来のターボチャージャに比べて立ち上がり時間を35%低減できたという。

三菱重工は世界統一排ガス試験サイクルWLTC(Worldwide harmonized Light duty driving Test Cycle)が採用されるなど、実際の走行状態を想定した新規制では、特にディーゼルはターボのロバスト性、制御性の改善と共に、更なる高過給圧、高レスポンス化が必要になると見ている。

三菱重工 試作2段2速過給器 電動スーパーチャージャーとターボチャージャー
試作された電動2ステージターボシステム

従来の排気ターボではターボラグやEGRによる応答遅れが重なり、最適な制御が難しかったが、従来の排気ターボに加えて電動ターボの高速応答性をいかしたアシストにより、大幅なエンジンダウンサイジングが可能となり、結果、大きな燃費改善と過渡応答性改善の両立ができるというのだ。

電動2ステージターボのプロトタイプは12V電圧で、最高モーター出力3kW、最高回転数9万rpm、最高回転数までの到達時間0.6秒。低速性能と過渡応答性の改善、搭載性の自由度から電動スーパーチャージャーと従来の排気ターボと組合せた電動2ステージターボシステムが最も有効という結論に達している。

なお三菱重工の電動スーパーチャージャーはすべて専用モーターを採用し、他社の電動スーパーチャージャーはすべて水冷式を採用しているのに対し、モーター、インバーター部をシンプルな空冷としてコストダウンを図っているのが特長だ。

今後、電動スーパーチャージャーは、ガソリンエンジン車ではマイルドハイブリッドとの組み合わせが、そして大型ガソリン車、ディーゼル車は従来のターボと電動スーパーチャージャーとを組み合わせた2ステージ過給システムとして脚光を浴びることになるだろう。

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ボルグワーナー公式サイト
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ヴァレオ 公式サイト
三菱重工エンジン&ターボチャージャ 公式サイト

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