ゲスタンプ ホットスタンプ世界No1の「ゲスタンプ」が日本車メーカーに積極攻勢

雑誌に載らない話vol188
2017年6月14日、ボディ、シャシーの設計、開発、プレス製造を専門とする、スペインに本拠を置く多国籍企業であるゲスタンプ(Gestamp)が、東京・八重洲にR&Dセンターを開設し、日本でのR&D能力を強化した。

東京R&Dセンターのオープニングセレモニーのテープカット。左からスペイン駐日商務官、スペイン駐日大使ゴンサロ・デ・ベニト氏、会長兼CEOのフランシスコ・J.リベラス氏、三井物産・常務執行役員・鉄鋼製品本部長の勝登氏、日本貿易振興機構(JETRO)の前田茂樹理事
東京R&Dセンターのオープニングセレモニーのテープカット。左からスペイン駐日商務官、スペイン駐日大使ゴンサロ・デ・ベニト氏、会長兼CEOのフランシスコ・J.リベラス氏、三井物産・常務執行役員・鉄鋼製品本部長の勝登氏、日本貿易振興機構(JETRO)の前田茂樹理事

ゲスタンプ社は、2017年2月に三重県松阪市に日本初のホットスタンプ(熱間成形)製造工場(ゲスタンプ・ホットスタンピング・ジャパン)を建設したことを発表している。工場面積は1万5000m2で、投資額は75億円。日本の自動車メーカー向けに同社が持つ世界一のホットスタンプ技術によるボディ、シャシー部品を生産するための工場で、2018年夏頃の稼働が予定されている。

ゲスタンプ 製品情報

今回、新設されたR&Dセンターは、顧客となる自動車メーカーと共同で、仮想衝突試験やホットスタンプ工程の先進的シミュレーション行ない、実際のボディ、シャシーの設計段階では自動車メーカーの設計に加わるゲスタンプ車のエンジニアを送り出す役割を果たすとされる。

日本でのゲスタンプ

なおゲスタンプ社は、2013年からアメリカ、メキシコ、南米でのビジネス展開において、三井物産と合弁事業を展開している。その後は三井物産がゲスタンプ本社の株式を12.5%取得し、ビジネスパートナーとなっており、日本においても営業サポートを行なうことになっている。

三井物産、確固たるパートナー

■ゲスタンプ社とは

スペインに本拠地を置くゲスタンプ・オートモシオンは、1997年の創業で意外と新しく、ローカルな金属プレス業としてスタートしている。当時の売上高は500億円程度だったが、今日では売上高が約1兆円規模の多国籍企業に成長している。その秘密は各地に積極的に工場を開設した国際化と、研究・開発への投資による独自テクノロジーの取得にある。

各国OEMとの共同開発

成長の過程で、アメリカのハードテック(2004年)、ドイツのボディ・コンポーネンツ製造業のエドシャ(2010年)、そしてティッセンクルップ・メタルフォーミング(2011年)を買収し、クルマのプレス製品、特に軽量・高強度化に欠かせないホットスタンプの分野で世界No1の企業に成長している。現在では世界21ヶ国に100ヶ所を上回る工場、12拠点のR&Dセンターを展開している。

クルマのボディの高強度と軽量さを両立させる成形技術としてホットスタンプが注目されて久しいが、MQBプラットフォーム導入を契機に積極的にこれを採用したフォルクスワーゲン・グループが最大の顧客となっている。その規模として、ゲスタンプはVWグループのためになんと84もの製造ラインが稼働しているという。

またボルボの最新モデル、90シリーズのボディの共同開発、ホットスタンプの製造を担当するなど、新しい世代のプラットフォーム、ボディの開発を支える企業となっているのだ。

またゲスタンプ社は、製造設備、専用金型などもすべて自社開発、製造していることも強みで、これがホットスタンプに関するノウハウの蓄積にも寄与していることも注目すべきだろう。

■ヨーロッパ流のホットスタンプ技術

ホットスタンプとは、高張力鋼版を900℃程度まで加熱してプレス成形する。そして、急冷却することで硬度と靭性を6倍以上に高める技術なのだが、当然ながら一般的な冷間プレスより加熱や冷却などの設備が追加されなど、コストが高く、これまで日本の自動車メーカーは積極的に導入することはなかった。

ホットスタンプ技術を説明するR&D担当役員のイグナシオ・マルティン氏
ホットスタンプ技術を説明するR&D担当役員のイグナシオ・マルティン氏

しかし、欧州車では製鉄メーカが持つ差厚鋼板(テーラードブランク)、最近ではムベア社のテーラーロールドブランク(圧延による可変差厚鋼板)を使用したホットスタンプが骨格部の軽量化と高強度化を実現する技術として確立している。

つまり特殊な差厚鋼板、ホットスタンプという専門製造技術メーカーが最新のクルマのボディを支えているのだ。

BIW R&D ホットスタッピングソリューションの焦点

日本ではホットスタンプに対抗して、新日鉄・住金と日産自動車が共同開発した冷間プレスによる1.3GPaクラスのスーパー高張力鋼板技術がある程度普及している。しかしゲスタンプ社のR&D担当役員のイグナシオ・マルティン氏は「冷間タイプは今以上に強度を上げると破れる特性があり、限界がある。

ホットスタンプは20GPaがターゲットになっており、しかも差厚鋼板と組み合わせることで靭性と強度の両立、さらなる軽量化が可能であること、そして将来的により厳しくなる軽量化と衝突安全性能工場の要請に対して対応できるポテンシャルがあると断言している。

また部品単品では冷間プレスよりホットスタンプの方がコストは高いものの、各部品を一体化できること、補強部品を削減できること、大幅な軽量化できることにより、トータルコストではむしろ競争力があるという。

ゲスタンプ ホットスタンプ世界No1の「ゲスタンプ」が日本車メーカーに積極攻勢

また従来のようにボディの骨格部だけではなく、サスペンション・メンバーなどシャシー部品もホットスタンプで製造することでさらなる軽量化、高性能化が実現できるということもポイントだ。

テーラーロールドブランクとホットスタンプを組み合わせたBピラーとフロアフレーム
テーラーロールドブランクとホットスタンプを組み合わせたBピラーとフロアフレーム

こうした背景もあり、日本の自動車メーカーが新世代プラットフォームを採用した段階からホットスタンプ技術は徐々にクローズアップされてきている。ゲスタンプ社の日本への本格進出はまさにこのタイミングに合わせたといえる。

ゲスタンプ ホットスタンプ世界No1の「ゲスタンプ」が日本車メーカーに積極攻勢

すでにゲスタンプ社は、海外で生産される日本車と、日本で製造されるクルマの一部を合わせると、同社の売上高では約7%を占めている。だが、今後は20%以上に拡大する戦略をとっている。ヨーロッパを起点に始まったビジネスはアメリカでも成功を収め、次なる大市場としてアジア、特に日本にフォーカスしたのだ。

■R&Dセンターのオープン

R&Dセンターのオープンにあたり、ゲスタンプ社は関係者、取引先、メディアを招いてオープニングセレモニーを実施した。

ーーゲスタンプ社の会長兼CEOのフランシスコ・J.リベラス氏
「当社は日本のお客様との関係強化に向けた新たな一歩を踏み出し、お客様との確実かつ長期的な成長を継続することを目指しています。当社はそのグローバルなプレゼンスに基づき、自動車メーカーによる地域の製造業を支えると共に技術の移転を促進することができます。このR&Dセンターは、日本の自動車メーカーとの共同開発プロジェクトを推し進め、過去数年に渡り当社とお客様が進めてきた戦略をさらに強化する役割を担います」と語っている。

東京R&Dセンター新設の意義を語るフランシスコ・J.リベラスCEO
東京R&Dセンター新設の意義を語るフランシスコ・J.リベラスCEO

セレモニーでは、リベラスCEOの挨拶に続き、R&D担当役員のイグナシオ・マルティン氏がゲスタンプの技術とR&Dのシステムを説明し、続いて戦略パートナーとなっている三井物産の常務執行役員・鉄鋼製品本部長の勝登氏、日本貿易振興機構(JETROの前田茂樹理事、駐日スペイン大使のゴンサロ・デ・ベニト氏が挨拶を行なった。

開発前段階における早期関与

ゲスタンプ社はすでにホンダ、トヨタ、マツダ、日産、三菱、スズキがクライアントになっているが、今後はさらなる顧客と、受託量の増大を目指すことはもちろん、ボディ骨格やシャシー部品の共同開発の拡大も大きなテーマになっている。

ゲスタンプ 公式サイト

COTY
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