ミシュラン、フォルヴィア、ステランティスが共同出資する水素燃料電池製造の合弁事業のシンビオは2023年12月5日、フランスのオーヴェルニュ・ローヌ・アルプ地方に、新たな技術と産業の中心地となる同社初のギガファクトリーであり、燃料電池の開発・生産拠点の「SymphonHy(シンフォニー)」工場が落成した。
広大な敷地内には、グループの本社、生産工場、エンジニア集団による技術開発拠点、そしてシンビオ水素アカデミーを有している。
最先端のテクノロジーを備えたSymphonHyは、高レベルの自動化とロボット化により、従来は高コストであった燃料電池を、より競争力のあるコストで大規模な生産を実現する。これにより、欧州におけるCO2ゼロのモビリティ推進を加速する鍵と位置づけられている。
30年以上の経験、株主や自動車業界のリーダーからのサポート、600万kmにおよぶ路上テストにより、シンビオは独自の水素燃料電池に関する知識を蓄積してきた。そして小型から中距離商用車、トラック、ピックアップトラック、大型バス、小型建機、フォークリフトまで、多用なモビリティのために効率的なゼロエミッションで、耐久性の高い幅広い製品ポートフォリオを提供することになる。
世界有数の自動車メーカーであり、シンビオの共同株主でもあるステランティスは、プジョー e-エキスパート、シトロエン e-ジャンピー、オペル ビバロ-e モデルといった小型商用車用のゼロエミッション水素燃料電池を初めて販売した。同社は、中出力アーキテクチャを備え、航続距離が最大500km、充電時間が10分未満である大型バンにも対応できる製品ラインナップを拡大している。
ステランティスは、積載量を犠牲にすることなく、十分な航続距離と迅速なタンク充填が可能な車両のポートフォリオを電動化するという目標に従い、アメリカにおけるRam(ラム)ブランドのフルサイズ・ピックアップトラック用の水素燃料電池技術を開発する計画も固めており、これらの車両にはすべてシンビオ製の燃料電池が搭載される予定だ。
ステランティスは、2030年までにヨーロッパで100%、米国で50%の電動車の販売を達成するという大胆な目標を実現するためにこの燃料電池の採用は大きな選択肢となっている。
また水素関連技術を推進しているフォルヴィアは、燃料電池製造から貯蔵まで、水素モビリティのバリューチェーンの75%をカバーしており、すでに2022年にフォルヴィアは世界中に1万個の水素タンクを納入した実績がある。
ミシュラン・グループは、事業用車両のエネルギー移行を専門とするモビリティ事業者である子会社のWatea by Michelin(ワテア バイ ミシュラン)を通じて、水素燃料電池自動車の提供を発表している。
さらに、シンビオはドイツのシェフラー・グループと提携して、燃料電池の重要な構成部材であるバイポーラプレート(BPP)を生産するための折半出資の合弁会社「イノプレート」を設立している。フランスのアルザスに拠点を置く「イノプレート」は、2024年第1四半期に操業を開始し、当初の生産能力は400万BPPで、2030年までに年間5000万BPPを生産し、120人以上を雇用する予定だ。イノプレートは、PEM(プロトン交換膜)型燃料電池市場向けの新世代BPPの生産を加速し、コストを削減しながら性能と競争力を向上させることになる。
シンビオは、燃料電池技術は持続可能な電気モビリティのバッテリー技術を補完する存在と位置づけ、高荷重、長距離、素早い充填時間を伴う、集中的で要求の厳しいプロフェッショナルなビジネス輸送部門に特化し、開発・生産を行なう戦略である。そのためフランス政府も支援を行ない、2028年までに2番目のギガファクトリーを建設し、フランスでの総生産能力を年間10万システムに倍増する計画としている。
また、アメリカにおいても既にパイロット・プラントを稼働させており、新しい燃料電池ギガファクトリーを建設する検討も行なっている。
この燃料電池プロジェクトは、少なくとも2030年までにバッテリー駆動の電動モビリティや従来の内燃機関技術と同等の性能を達成することを目指している。
水素を使用する燃料電池の技術は、トヨタ、ホンダが先行しているが、燃料電池のセル部の製造はまだ熟練作業員による少量生産のレベルに留まっており、自動化を伴う大量生産技術に関してはシンビオが世界をリードする可能性が大きいと考えられる。