ボッシュは2018年11月27日、VMPS (Vehicle motion and position sensor) により車両の正確な自車位置特定を実現し、将来の自動運転のために冗長性のある自車位置特定サービスの提供がスタンバイしていることを発表した。
位置情報は自動運転に不可欠
車両に装備された様々なカメラやレーダーなどのセンサーと、車載ECUの制御によって自動運転が成立すると誤解される事が多いが、実際には車両の正確な位置情報などの各種のスマートサービスなしには実現できない。
ボッシュ取締役会メンバーのディルク・ホーアイゼル取締役は、「自動運転にとって、サービスはハードウェアやソフトウェアと同じくらい重要な要素です。優れた安全性と信頼性を備えた自動運転車両を道路に送り出すために、私たちはこの3本柱すべてに注力していく必要があります」と語っている。
ボッシュは、自動運転技術を実現するため、統合的なソリューションを作り上げている。その中で特に重視される領域として、自車位置を高精度に特定することは自動運転における安全性にとって重要なテーマだ。自動運転車両がいかなる時でも走行している位置を、センチメートル単位で正確に把握することができれば、より安全な運行が可能になる。
これを実現するために、ボッシュは世界に例のない自車位置特定パッケージを提供する。これはハードウェア、ソフトウェアとサービスを一体化し、正確な自車位置特定のための冗長システムと位置づけられる。
自車位置を正確に把握するVMPS
ボッシュは、自動運転車両の自車位置を正確に把握するVMPS(Vehicle motion and position sensor)を開発した。この新しいセンサーには、衛星測位システム(GNSS)の信号を受け取る高性能な受信機が組み込まれ、自動運転車両の絶対位置を特定するためにこの信号は欠かせないのだ。ただ、衛星ベースの測位での課題は、データが不正確にならにょうに対処することが求められる。
測位衛星は地球から2万5000km離れた距離にあり、毎秒4000mの速度で動いている。衛星から送り出される信号は地上に到達するまでに、電離圏や対流圏の雲の層を通過するため、これが遅延や誤差につながるのだ。現在のナビゲーションシステムでは、この信号でも十分な精度があるといえるが、自動運転の要件を満たすには不十分だ。
そこでボッシュは、さまざまなプロバイダーから供給される補正データを活用することにし、2017年に合弁企業 のSapcorda社を立ち上げた。これにより、正確な位置情報を持つ基地局のネットワークをもとに、プロバイダーはGNSS測位情報を補正できるようになっている。この補正された、より精度の高い位置情報データはクラウドや静止衛星を介して車両に送信することができる。
VMPSが受信するのは、GNSS信号だけでない。人間の触覚に相当する操舵角センサーと車輪速センサーからも、車両がどの方向に向かっていて、どのくらいの速度で走行しているかという情報を取得する。さらにVMPSには人間の内耳に相当する慣性センサーが組み込まれている。こうした車両からのデータをもとに、車両の進行方向を把握できるようになっているわけだ。
VMPSは、GNSS信号、補正データ、さらに慣性センサー、車輪速センサーと操舵角センサーからの情報を集約する。しかし、自動運転車両の正確な自車位置を特定するためには、これらの情報だけでもまだ十分ではなく、インテリジェントなソフトウェアを通じて処理する必要がある。
これをもとに、自動運転車両は周囲数m以内での自車位置を正確かつ確実に把握し、それに応じた運転操作が計算できるようになる。自動運転車両の位置は主に補正されたGNSS信号に基づいて特定されるが、例えば車両がトンネルに入った時など、衛星との接続が途切れた場合でも、VMPSは数秒間、車両の位置を把握し続けることができる。
こうした場合は、絶対位置情報が特定された最後の地点をもとに、計算された車両の位置情報が得られるのだ。さらにGNSS信号を長時間受信できず、VMPSが車両の位置を特定できなくなってしまった場合でも、ボッシュのロードシグニチャーを通じて位置を推定することができる。
ボッシュ・ロードシグニチャー
ボッシュ・ロードシグニチャーは、車両に搭載されるミリ波レーダー、カメラなどのサラウンドセンサーの情報と地図情報をベースにした相対的な自車位置推定サービスだ。VMPSを使った絶対的な自車位置特定ソリューションと並行し、ボッシュはこのサービスも提供している。
衛星とVMPSをベースにした位置情報をボッシュ・ロードシグニチャーの地図ベースの自車位置推定サービスと組み合わせることにより、自動運転時の高い安全要件をクリアすることができる。
ボッシュ・ロードシグニチャーは、車載のカメラとレーダーセンサーが車線、道路標識やガードレールなど、道路上や道路脇にある物体を検知してこれらの情報を集約。レーダーセンサーはカメラとは異なり、暗い場所や視界が悪い時でも道路上や道路脇の物体を検知でき、検知範囲も広いという大きな利点がある。そして車載の通信モジュールを通してセンサーが検知した道路上や道路脇にある物体に関するデータをクラウドに送信する。
それらの道路やその周囲の情報は、高精度マップの一部を形成するマップレイヤーの生成に用いられ、自動運転車両は、自車の周囲の道路にある物体を検知し、マップと照らし合わせ、検知した道路標識やガードレールがマップ上のデータと一致するかどうか確認する。この比較を通じて、自動運転車両は高精度なマップから相対的に、車線内の自車位置を正確に把握することができるのだ。
このようにVMPSとボッシュ・ロードシグネチャーの2つの技術を使用し、クラウド・サービスと車両が双方向の情報を交換することで、安全性の高い自動運転がはじめて実現する。