全日本ラリー第6戦「モントレー2021」が2021年6月11日(金)−13日(日)に、群馬県高崎市のGメッセ群馬にサービスパークを設置して開催された。残念ながら今回もコロナウイルス感染予防対策として無観客で行なわれたが、ラリーは熱い接戦となった。
SS(スペシャルステージ)はトータル61.22kmで競い、わずか0.9秒差でスバルWRX STIの鎌田卓麻/松本優一組が、GRヤリスの勝田範彦/木村裕介組を破り3位を獲得した。優勝は3連勝となるファビアR5を駆る福永修/齊田美早子組、2位もファビアR5を走らせる柳澤宏至/保井隆宏組が入った。
今季のモントレーは全SSがターマックとなり、会場となったサービスパークも高崎市内へと変更されて開催された。競技エリアは群馬県・藤岡市・神流町・上野村・南牧村の西毛エリアで、スペシャルステージ3本、合計61.22km、リエゾン区間を含む290.25kmで競われた。
期待が膨らむWRX STI勢
初日レグ1のSSは1本のみで、21.92kmのGrandma.kimuraで競われた。国内ラリーのSSとしては長めの距離であり、SUBARU TEAM ARAIの新井敏弘も「海外ラリーみたいなコースで、コルシカよりアベレージは速いコースだね。アンジュレーションも強く、バンピーだから難しさもあるコース。こういうハイスピードなコースは過去にたくさん経験してきているから、少しは有利だと思うよ」と自信を覗かせるコメントがあった。
また同じWRX STIを走らせるitzz RALLY TEAMの鎌田卓麻は「ハイスピードで難しいですね。でもテインのショックアブソーバーは海外ラリー向けに開発しているので、こういうコースではいい結果を出せると思います。またクルマもターマック用の新車が間に合ったので、僕も期待しています」と開幕戦での怪我を微塵も感じさせない力強いコメントがあった。
一方、第5戦で初の表彰台2位を獲得したTOYOTA GAZOO Racing GRヤリスの勝田範彦は「前回の京丹後のあと、テストでリヤサスペンションのセッティングを変えました。このハイスピードなコースで、アンジュレーションが強いから軽量なボディが有利とはならないですね。そう思ってダウンフォースを稼げるようにリヤに大型のウイングを背負ってみました」と対策をしていた。
第3戦九州・唐津、第5戦京丹後と連勝しているファビアR5を走らせるTHREE FIVE MOTORSPORT福永修は「これまで順調に、調子よく来てますけど、群馬のみなさんが速いのはよく分かっているので、胸を借りるつもりで走ります」と謙虚なコメントだった。(第4戦久万高原ラリーは10月29日(金)-31(日)へと日程変更)
鎌田5番手
そのSS1では、全日本トップカテゴリーのJN1クラス走行後、31号車がコースを塞ぐアクシデントを起こし、赤旗中止となってしまった。そのため、赤旗が出た時点でコース上を走行していた競技車両を含めてノータイムとなり、均等のラップタイムが割り当てられるという対応が行なわれている。
アクシデントの影響が無かったJN1クラスでは、トップタイムをファビアR5の柳澤宏至が叩き出す。2番手にGRヤリスのアドバンカラーで走る奴田原文雄、3位GRヤリス勝田範彦、4位ファビアR5福永修、5位WRX STI鎌田卓麻という順となった。
期待される新井敏弘は不運なことに、スローパンクチャーに見舞われ途中タイヤ交換をしていた。そのため最下位でのゴール。この時点でトップとは数分離れており、今回のSSは残り2本ということからも選手権からは脱落確定となり、レグ2ではデイ・ポイント獲得のために全力走行することになった。
SS1を終えて5位の鎌田卓麻は「前半調子が良かったので、ガンガンに攻めていったら残り3kmあたりでブレーキが無くなっちゃって、最後の1.5kmはノーブレーキになっちゃいました。それでもトップのファビアに15秒弱の差なので、手応えはありますね」
新車投入の鎌田WRX STI
鎌田の乗るWRX STIは今回のラリーに新車投入しているので、チーフエンジニアに話を聞いてみた。「これまで6年間かけてクルマの開発をしてきて、グラベル用とターマック用ではボディを作り変えています。サスペンションの違いは当然ですけど、ボディ剛性の作り方が違いますね。そうしたノウハウを重ねてきて、それで開幕戦にターマック用の車両で参戦したのですが、全損してしまい、その後のラリーはグラベル用をモディファイしてターマックで使いました。それでも京丹後で5位に入ることができて、手応えがあったんですよ。そのボディの違いは速さで言うと0.5秒/kmあります。だから今回投入した新型ターマック用が結果を出せて良かったです」とコメントしている。
レグ2はSSが2本あるが、同じSSを繰り返す設定。19.65kmを2回走り、その間サービスパークには戻らない。そのため、天候変化を踏まえ、鎌田は雨対策用に2本タイヤを搭載。同じくGRヤリスの勝田も2本載せていた。が、タイヤ1本あたり20数キロの重さがあり、ある意味ギャンブルにもなる判断だ。
トップを狙う鎌田/松本組
そして迎えたSS2では好調のファビアR5福永がトップ。続く2番手に鎌田が入った。ファビアR5に遅れること3.2秒という速さだ。3位はクスコのファビアR5柳澤宏至、そして4番手にGRヤリス勝田、ついで奴田原と続いた。
どうしたことか新井敏弘はSS2をスタートしてすぐ、ライブタイミングの表示が動かない。競技後、状況を聞くと自嘲気味な表情で「あのさ〜なんだろうね。今度はハンドルが効かなくなっちゃって走れなかった。考えられないよ、ちゃんと整備してんだからさ」と。結局SS2でリタイヤとなり、新井のモントレーは終了となった。が、次戦は今季初のグラベルとなるラリーカムイ。ファビアR5を超える速さに期待したい。
さて、SS2を終えSS3に向けてのリエゾンで降雨があった。一転してドライ路面からセミウエットへと変化した。雨は降ったりやんだりという状態がつづき、SS3スタートまでに鎌田、勝田はタイヤを2本交換。フロントに装着しダンパーの減衰調整をする。勝田はリヤのトーも変更している。また鎌田はサービスへ連絡しダンパー調整の指示を仰いだ。
SS2終了時点で総合順位はトップ柳澤のファビアR5、2位福永のファビアR5、3位WRX STI鎌田、4位GRヤリス勝田、5位GRヤリス奴田原とつづく。トップを争う柳澤と福永は3.1秒差で、最終SSで逆転があり得る。そして3位鎌田と4位勝田の差は1.6秒でこれもまた僅差。さらに5位奴田原と勝田の差は1.3秒で、鎌田とは2.9秒という僅差にいる。一方、ファビアとWRX STIとは12秒開いており、逆転は厳しい。最終のSSでの注目は、どっちのファビアR5が優勝となるか、3位はWRX STIかGRヤリスのどちらになるか?に絞られる。
SS3はセミウエットということもあり、タイヤの差があったかもしれない。トップは福永が制し、そして3位争いはまったくの同条件で競う、鎌田と勝田との勝負で、SS3は0.7秒差で勝田が3位となるものの、総合では鎌田が勝田に0.9秒差を付けて逃げ切り3位獲得となった。奴田原はドライセットのままだったため、鎌田と7秒差となり5位で終了した。
ラリー終了後、鎌田は「コースにもよりますけど、GRヤリスに勝てたのは大きいですね、勝ちたいところで勝つことができて最高です」と。
もうひとつのモントレー
モントレーとは、フランス語で3つの名峰mont tresという言葉から、かつて群馬県の赤城山、榛名山、妙義山の上毛三山を舞台にラリーが開催されていたことで、群馬県で開催される全日本ラリーの名称として定着したということだ。
2003年のアルペンラリーに出場していたジャーナリストの国沢光宏は、道路脇の苔に乗り、側溝に落ちた経験があると話す。今回はオープンクラスにハイエースで参戦し、クラス3位でフィニッシュした。またかつての秋のやまびこラリーを走ったジャーナリストの清水和夫もJN5クラスにヤリスCVTで参戦しており、クラス6位。そしてもうひとりジャーナリストの竹岡圭はVWポロで参戦し、オイルクーラーや大型ラジエターなどラリー部品がなく、ノーマルで走行しているためJN2クラスではあるがマシンハンデが大きい。そしてモントレーはクラス6位フィニッシュだった。
さらに、今回はレーシングドライバーの織戸学も参戦していた。全日本ラリーには3年ぶりということで、頭文字Dがデザインされたトヨタ86で走り、峠を得意とする走りが見られるかと思われたが、SS2でコースアウトしリタイヤに終わった。
次戦は北海道のラリーカムイ。7月2日(金)-4(日)北海道ニセコ、蘭越エリアのグラベルでの競技になる。WRX STIを走らせる新井敏弘、好調の鎌田卓麻、そして新井大輝の復帰も期待される。グラベルではドライバースキルの違いが顕著になることもあり、目下3連勝中のファビアR5を止めるのはWRX STIなのかGRヤリスなのか、激しい戦いに注目だ。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>