2021年シーズンのスーパーGT第2戦「たかのこのホテルFUJI GT500km」レースが静岡県小山町の富士スピードウェイで開催された。SUBARU BRZ GT300は予選でポールポジションを獲得、決勝を2位でフィニッシュした。
トップスピードではライバルに差をつけられているBRZ GT300が、ストレートが最も長い富士スピードウェイでポールポジションを獲得した。まさに新型BRZ GT300進化の証だ。
2020年シーズンは変則開催であり、富士で3回開催されている。結果は第2戦が予選4位、決勝2位、第5戦は予選4位、決勝16位、そして第8戦予選2位、決勝8位という結果。いずれも300kmのレースで、これまで予選2位が最高リザルトだった。
レース&マシン概要とBoP
今回のレースディスタンスは2年振りの500km、110周で、GT300では102周前後が想定される距離となる。ドライバーは3名まで登録可能だが、例年どおり井口卓人、山内英輝の2名体制で挑む。持ち込みタイヤは前戦の岡山でヨコハマタイヤが優勝しているため、ヨコハマは7セット。ダンロップ、ブリヂストンユーザーは8セットまで持ち込める。SUBARU/STIはダンロップユーザーのため8セットで、ソフトとハードの2タイプをそれぞれ用意した。(ウエットタイヤは別に10セットまで可能)
また、今回初のFCY(フルコースイエロー)の導入がある。無線と車載機器、そしてポストのフラッグも併用しての導入だ。リードしたタイムを失ってきた過去もあり、また追いつけるチャンスにもなる従来のSC(セーフティカー)から、車間維持のままのFCYは、勝敗に影響しないための措置として導入された。
一方、マシンではBoP(性能調整)で+50kgを搭載しており、このBoPはおそらく最終戦まで搭載継続になると思われる。サクセスウエイトは0kgで、主な性能調整は以上だが、GT300規定のマシンはほぼ同等のBoPが指示されているので、イコールコンディションと考えていい。ちなみに、先シーズンまでの「JAF GT300」「MC(マザーシャシー)」は今シーズンから「GT300」に統一され、GT300クラスと紛らわしいが、「GT300」規則で製造されたマシンということで統一されている。
そのGT300マシンは燃料タンクが120Lに拡大され、BRZ GT300も拡大している。そのもたらす効果は、ピットストップのタイミングの幅、給油量の幅が広がり、小澤総監督は「ピットウインドウで倍以上に幅が広がりました」と表現している。これは周回数、給油時間、1st、2ndスティントの距離に幅をもたせることも可能になったということで、戦略幅は1.5倍くらいに増えたイメージだ。別な視点で言えば燃費が良くなったとも言える規則変更である。
新型BRZ GT300の設計コンセプトとは
さて土曜日午前中の公式練習では山内英輝がトップタイムをマークし、マシン、ドライバーの好調さをアピールする。ここではハード、ソフトタイプのタイヤをテストしマッチングを探す。マシンの修正は終始リヤまわりに集中していた。
小澤総監督によれば「前後のバランスを変えて、タイヤが摩耗したときのグリップの薄さに対処する変更をしていますが、やりすぎるとフロントを痛めてしまうので、そのあたりの塩梅を探してます。そのためにダンパー減衰やバネレート、車高といった部分の変更ですね」
コンストラクターのR&Dスポーツ本島代表に話を聞くと「レースカーに大事なのは入力に対し、変化ポイントのないシャシーが重要です。「節」があるとパワーは逃げていくので全体でしっかり受け止めながらタイヤに荷重をかけられるマシンにすることです。エンジニアによって考え方は色々ありますが、私はしなって荷重をかける「しなるマシン」より、リジットに近い方向のマシン作りがいいと考えています」
「しなり」によって粘るマシンづくりと、剛性の高いマシンは正反対の考え方であり、R&Dスポーツでは剛性の高いシャシーで受け止めたパワーを、ダンパー、スプリング、ジオメトリーでタイヤへ伝えていく考え方だ。新型BRZ GT300は、こうした設計思想で構成されている。
「新品状態のタイヤとタレたときでは入力が変わってくるので、マシンをどこに合わせたセットアップにするかということが大事であり、難しいところですね。全領域で完璧というのはありえないので、ベストなポイントを探すことが重要だと思います」と本島代表は教えてくれた。
当然グリップ力が高いときと、落ちてヘタってきたときではマシンに伝わるエネルギーは違ってくる。その違いがハンドリングや接地感などでドライバーは感じ取り、スロットルを踏めるかどうかに関係してくるというわけだ。
かつてBRZ GT300は富士ではトップスピードが遅く、空力で稼ぐマシン作りをしコーナリングスピードを失うという苦い経験もしている。またフロントのダウンフォースが薄くハンドリングの手応えの悪さなどを訴え、公式練習では、あれも、これもとセットを変更したシーズンもあった。だが、今季のマシンはこうしたベースのセットがすでに決まっており、サーキットごとに、路温ごとに、そしてタイヤごとにアジャストしていく内容へと変化している。まさしく正常進化しレベルアップしていることが伝わってくる。
予選ポールポジションを獲得
そして迎えた予選、井口卓人も調子を取り戻しAグループトップタイムの1分35秒963をマーク。そしてQ2ではポールポジションを目指して山内がアタックする。その時、井口からはセクター2でアンダー傾向が強く出ているというコメントがあり、マシンの仕様を変更した。
これがピタリと当たり山内は1分35秒343を叩き出し狙いどおりにポールポジションを獲得した。このとき、何を変更したのだろう。小澤総監督に聞いてみた。
「前後のバランスですね。リヤウイングの角度調整をしました。スプリングやダンパーまでやるとフロントへの影響もあるので、その塩梅が難しいのですが、うまくいったようです」と。これも前述の新品タイヤとユーズドではその挙動変化に違いが現れる部分であり、小澤総監督にすれば、ある意味想定内ということだろう。
また、井口にとって岡山でのQ1敗退はかなりショックで、帰京後、スタッフ、山内に相談し、そしてシミュレーターを使って不調だった原因を探したという。「シーズン前のテストでも新型は調子が良くて、今季への期待がありました。また周りの期待も大きくそれは凄く感じていたので、『結果を残さないと』という思いも強かったです。結果的に守りの走りをしていたのかもしれません。いまでもモヤモヤが残っているし、今日、Q1でいいタイムが出せたので、すっきりしましけたけど、今日の結果がなければプロ失格という気持ちでいました」と井口は心境を吐露している。
レースマナー
一方、ポールを狙う山内の心理はどうだったのか? Q1のBグループでは、60号車が井口のタイムを上回っており、さらにQ2でタイムアタックするときに、クリアが取りづらい状況になっていた。
「Q1での60号車のタイムは、別になんとも思いませんでした。抜けるタイムだという自信はありましたから。でも、タイムアタックしているときに18号車が接近していて、空力的に影響する部分もあったと思います。あのアタックのやり方はないですよね。結局、最後スリップに入ってトップタイムが出せたので良かったですけど、途中苛立って暴言を吐いてました。そうしたら無線で『集中、集中!』って聞こえて冷静さを取り戻せました」と山内は話す。
GT300はほぼ同時にコースインをし、おおむね均等間隔でウォームアップをする。そして3周目、4周目でタイムアタックという流れで全車が走行するが、そのタイミングとは異なる走行をしていたようで、山内のアタックに影響が出ていたのだ。
また、山内は「Q1のあと卓ちゃんから的確なコメントをもらえたので、それを信じてマシンに変更を加えてもらいました。これがバッチリでした。最強コンビが証明できたと思います」とコメントしている。このときの処理が前述したリヤウイングの調整というやつだ。
こうしてポールポジションを獲得したドライバー、チーム、そしてマシンは絶好調だ。新型BRZ GT300が高い戦闘力を持っていることを誰もが実感したことだろう。けっして「得意」とは言いづらい富士でのポールポジションなのだから下馬評どおりのポテンシャルを見せたわけだ。
決勝のチームワーク
迎えた決勝。スタートドライバーは山内。スティントは山内2回、井口1回の組み合わせ。そしてスタートタイヤは「A」が選択され、Q1で使ったタイヤが指定された。BRZ GT300はソフトでのスタートになった。
「タイヤ戦略はレース展開次第と摩耗状況を見ながら判断していきます。スタートがソフトなので次はハードもソフトも新品でいけます。そこでスティントをロングにするか、ショートにするかとか、状況次第で決めます」と小澤総監督。
山内は堅実にトップを快走し、途中FCYもあったが問題なくリードを保っている。序盤は60号車のGRスープラと55号車NSX-GT3、11号車、10号車ゲイナーチームのGT-R2台、そして52号車のGRスープラの計5台を引っ張りながら、5秒以内で展開する。
36周目、最初のピットインでBRZ GT300はソフトタイプのユーズドへ4本交換し、井口に交代した。一方、ブリヂストンを履く52号車は24周目に1回目のピットインをし、タイヤ無交換でピットアウトしている。井口は9位でコースに戻るものの、ピットインを済ませたマシンで見れば4位で復帰したことになる。
レース後、井口になぜユーズドを選択したのか聞いてみた。「混戦になるのは分かっていたので、最後のスティントでソフトの新品をヤマちゃんに履いてもらい、順位を挽回してもらうためです。ユーズドと言っても5ラップ程度のタイヤなので、プッシュできますし、でも後ろからも速いのが来ていて難しい展開でした」
BRZ GT300の熟成領域へ
73周目に再び山内へバトンタッチ。ソフトのニュータイヤでコースに戻る。このとき給油時間は短く、順位を落とすことなく4位でコース復帰した。76周目にはトップ5台の中で山内がトップタイムでラップを刻んでいる。そのため周回ごとにトップ52号車とは毎周回で1秒弱縮める展開となり、狙いどおりの展開となったわけだ。
山内は83周目に、3位を走る55号車NSX-GT3を捉え浮上。そして2位の60号車とは2.5秒差まで迫ることができた。その後FCYが1回入り、レース再開後、山内はトップ52号車と6.220秒差、2位60号車とは0.218秒差まで追い詰めていた。
結果的には、52号車が96周目にマシントラブルで離脱し、60号車との一騎打ちになった。が、1秒以下での接近戦に持ち込むものの、交わすところまでは行かず2位フィニッシュとなった。
山内からは「悔しい、本当に悔しい。応援してくれた皆さんに本当に申し訳ない」とまるで敗者の弁だ。また、60号車については、「同じGT300規定、同じダンロップなので、抜きたい気持ちはありましたけど、接近しても『これは抜けないな』という感じでした。何が足りないかと言えば、このタイヤに対するマネージメント力で、ロングランのテストができていないから細かなセットアップに差があるのだと思います。BRZの今の力がここまでという印象です」と話す。
筆者の想像だが、おそらくタイヤ性能が落ちたときに、ラップタイムを落とさないようにするためのセットアップとノウハウの不足という意味に思える。レース中に燃料が軽くなり、かつタイヤが落ちた時のバランス調整がやり切れていないことや、ロールを制御できるアンチロールバーなどもあり、そのデータが足りないという意味だろう。それは熟成領域とも言えるのではないか。
1周4.563km×103周=470kmを3時間4分走り、トップとは0.712差でゴールした。途中、給油しタイヤ交換もする。ドライバーも交代しての僅差のレースについて、小澤総監督は「2位フィニッシュを受けて、足りなかったものと言えば、決勝で0.1秒でもラップタイムを上げられるマシンにすることですかね。52号車は異次元の速さだったので、もしトラブルがでなければ完敗です」というコメントだ。
チーム、ドライバーズランキングは共に4位。次戦の鈴鹿にはサクセスウエイト48kgが搭載される。鈴鹿はタイヤへの攻撃性が富士より高いため、ブリヂストン勢は無交換作戦を取りにくいはずだ。もっとも得意とする鈴鹿では、ウエイトハンデを押しのけ、ポイントを獲得したい。シリーズチャンピオンを目指すBRZ GT300は鈴鹿でも高ポイントゲットを狙う。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>