【スーパーGT2025】第6戦SUGO300km 悔しい結果ながら新タイヤに一縷の望み SUBARU BRZ GT300 インサイドレポート

女神は微笑むことを忘れてしまったのだろうか。

2025年9月20日(土)、21日(日)宮城県村田町にあるスポーツランドSUGOで、スーパーGT第6戦「SUGO GT 300Km Race」が行なわれた。

SUBARU BRZ GT300は今季苦しいレースが続いており、新型車を投入したにもかかわらず結果に結びつかない。だが、前戦の第5戦鈴鹿では予選1位、決勝2位となり、ようやく結果につながるレースができた。マシンが新型となったことで信頼性も高くなり、総合的なレベルアップはできている。だが、レギュレーションの変更でフロントタイヤの小径化があり、また、BoP(性能調整)の変更や基本車両重量の変更など、チームで決められないルールへの対応も迫られている。

そうした中、鈴鹿のレースではサクセスウエイトを背負いながらも、ポールポジションを獲得したことは大きな成果であり、決勝レースも2位になったことが大きな自信になったのには間違いない。BRZ GT300が持つ潜在能力を引き出すセットアップができたわけで、そのキーポイントになる思考と技術も見えたのだ。

そんなチーム背景を持って乗り込んだ第6戦SUGO大会では、想像していなかったことが起きていた。じつはSUGOサーキットは今季路面の改修を行なっている。その新舗装は鈴鹿のセクター1の舗装と同じであるという。鈴鹿の公式練習では、新舗装のセクター1でタイムが伸びず苦しんだが、それが新たな挑戦をしたセットアップによって最適解を見つけ、ポールポジション、決勝2位の結果につながったわけだ。

セットアップが決まらない

したがってSUGOの新路面でも同じ技術と考え方で解決できるはずだった。ところが、どうやってもマシンは曲がらないのだ。Q1をドライブした井口卓人は「コーナーのアペックスまでブレーキを残し、アペックス付近から加速体制にするとアンダーが出て曲がらないんです。だから本来走れる速度を落とさないと曲がらないのでタイムが出ない」と言う。

チームにとって不運なのは、そうした現象に対して本来公式練習の段階でセットアップが決まるものだが、このSUGO大会では小雨が降っており路面はウエット。タイヤはレインタイヤを装着していた。午後の予選の予報はくもり。決勝レースは晴れ予報であり、ウエット路面でのセットアップの意味が見つからない状況だった。

そのためチームは天候の回復を待ち30分ほどピットで待機をする。これは他チームも同様でコース上には28台中6台ほどしか走行していなかったのだ。そしてドライアップしていく中、スリックで走れる状況に変わり、ようやくセットアップに取り掛かることになった。だが、加えて路面温度が低いという問題も出ていた。

悔しいQ1敗退

気温18度、路面温度21度。猛暑、酷暑から急に秋の気配になり、南東北は冷え込んだのだ。公式練習で残された時間は少ない。それでも鈴鹿での技術を活用し、マシンのセットアップを変更してベストなバランスを探る。しかし全体では20位前後のタイムしか出ていなかったのだ。

そして公式予選になるが、最適解は見つかっていない。公式練習後にチームミーティングを行ない、セットアップの方向性を決めていく。

迎えたQ1予選。天候はくもり。ドライバーは井口。

丁寧にウォームアップを行ない、5周目にアタックに入った。タイムは8番手。上位9台までがQ2に進出できるが、ギリギリのタイム。井口は再びアタックに入る。1分18秒932は前の周より0.2秒ほど削れている。がしかし、順位は12位。チームはさらに3回目のアタックが指示される。

3回目のアタックは、セクター2に入ったところで「全然ダメ、曲がらない」と井口がコメントし、アタックは終了した。結果はQ1敗退。タイヤの摩耗もひどいものだった。路面からの攻撃に耐えられなかったのかもしれない。持ち込んだタイヤは実績もある信頼できるタイヤなのに、SUGOの新路面には勝てなかったのか。

ミーティングの末導き出した2つの作戦

明日の決勝にむけてチームは長いミーティングを行なった。

決勝のグリッドは23番手。12列目だ。SUGO名物の上り勾配がすぐ背後にせまる場所に並ぶ。さて、チームはどんな作戦で決勝を走るのか。

小澤総監督は「Q1で使ったタイヤをスタートタイヤにする規則なので、そのままスタートしてもミニマム周回数まではもたないのは間違いないです。だから2ピット作戦も考えますが、給油リストリクターも今回装着させられているので、ほぼ順位争いのレースに参加できないことになります」

「もう一案はピットスタートです。フォーメーションラップでピットインをして、レースがスタートしたらタイヤを交換してピットアウトする作戦。最後尾からのスタートになりますが、ニュータイヤのメリットを活かしての追い上げで、どこまで順位をあげられるか?という作戦です」

チームは後者のピットスタートを選択した。Q1敗退によりニュータイヤのセットが2セット残っている。そのメリットを最大限に活かせる作戦というわけだ。ただ、不確定要素として2セットのうち、1セットは来季用にむけて開発した新作のタイヤで実績はゼロ。バックアップ的に持ち込んだタイヤなので、どこまで使えるのかは未知数だ。

一方、実績があるタイヤで走った予選は、2.5回のアタックで激しく摩耗している。そのため、ピットスタートを選択したとしてもタイヤのライフは短く、追い上げる走りをしたら摩耗も早く来ることは予想できた。そこで、決勝前ウォームアップ走行で、その新作のタイヤを履き、塩梅を確認することとした。

新作タイヤに賭けるしかない

20分間のウォームアップ走行で新品2セットの皮剥きをしながらコンディションの確認をすることになる。しかし、そこでも赤旗中断があり、連続走行ができない不運があった。そうした中、新作タイヤがイケるのではないかという判断になり、ピットスタート後は新作タイヤを履き、追い上げる作戦を決行することにした。ロングランの性能が見えないだけに、タイヤの性能ダウンが起きた時点でドライバー交代と給油という戦略を取ることにした。

新作タイヤに賭けるしかない。ドライバーの山内英輝に期待がかかる。山内のロケットスタートやターゲットの追い抜きには光るものがある。気づけばステルスのごとく忍び寄り、ライバルを撃沈していく走りがイメージできる。

予定通り、1周のパレードラップ後、フォーメーションラップがはじまり、BRZ GT300はピットに入った。ピットに留まり、シグナルがグリーンになるのを待つ。数秒後、グリーンランプが点灯しGT300のレースがスタートした。チームはすぐさまQ1で使ったタイヤを外し、新作タイヤを装着させてBRZ GT300をドライブする山内を送り出した。

最後尾の28位からラップを刻み始める。ラップタイムは、トップの#60 Syntium LMcorsa LC500 GTと同タイムで走行している。みるみる27位のマシンに追いつき、山内の追撃体制が整う。スタートからわずか20ラップで10台をごぼう抜きにし、21周目で18位に。レースは84周。十分時間はある。

驚異的な追い上げでトップに

周回を重ねるごとに順位は上がり、24周目17位、25周目16位、27周目15位。この周回数付近になるとピットインするチームが出てくる。山内はさらに順位を上げる。28周目12位、29周目10位とついにトップ10に入ったのだ。30周目9位、そして35周目は5位となり、39周目は2位となる。そして41周目、トップの#18 UPGARAGE AMG GT3がピットインをしたことで山内はトップに立った。

もちろん上位陣はピットに入ったため山内の後ろにいることになるが、それでも最後尾からトップに立つまで追い上げができるとは想像もしていなかった。グランドスタンドに詰めかけた応援団も興奮する。

ただ、#18 UPGARAGE AMG GT3がピットインするとほぼ同時にフルコースイエロー(FCY)が出されており山内は80km/hでの走行を強いられた。#18 UPGARAGE AMG GT3と同時にピットインができればそのリスクを背負うことがなかったのだが、FCYの出るタイミングでピットボックスのサインは微妙すぎた。FCY中のピットインはペナルティとなるため、チームはピットインの指示ができなかった不運があった。

そしてFCYが解除され、少しでも後続を引き離したい山内は全力で逃げに入る。その2周後今度は大クラッシュが発生し、セーフティカー(SC)が導入された。SC中はピットがクローズされるため、山内は再びコース上をゆっくり周回することになる。

その後赤旗となり、全車ストレート上でマシンを止めることになった。ガードレールの破損修理が行なわれたためおよそ1時間の中断があり、レースは再開される。

再開後に無念のトラブル発生

山内は再びマシンに戻りトップでのレース再開となった。SC先導からのレース再開のため、山内はSCがピットに入ったことを無線で確認し、ピットに戻った。

レースは中断時間が長く84周の周回数を消化することが不可能となったため、残り時間のレースとなった。最大延長午後4時30分だったため、残り30分の時間レースとして再開した。チームは残りの周回数を計算し給油量を決める。ミニマムの燃料を搭載し井口に託す。

井口は10位前後でレースに戻ったのだが、すぐに右リヤタイヤがおかしいと無線が入る。その直後右リヤタイヤが外れそうな映像が映し出され、井口はピットに戻った。

赤旗中断で冷えたマシンは、タイヤ交換後大きなトルクが後輪にかかり、ハブが緩んでしまったようだ。そのため、すぐにはタイヤ交換ができず、修復作業が必要となった。レースは残り5分となったところで、コースに戻ることができたが、当然数ラップ遅れでの復帰となった。また、このトラブルでピットインしたタイミングがFCY中であったこともありペナルティ60秒が加えられ、そのペナルティも未消化のため、レース結果に100秒が加算された。

結果は22位。ノーポイントのレースとなったが、新作タイヤのパフォーマンスが確認でき、耐久性も高いことも解った。さらに攻撃性の高い路面への適応も可能とわかり、次戦、そして来年に向けて収穫があったことは一筋の光明かもしれない。

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