ABB FIA フォーミュラEシーズン9の第8戦ドイツ・ベルリン戦が前日の第7戦に続いての2連戦が行なわれた。
コースはテンペロホフ飛行場跡の駐機場で路面はコンクリート舗装。バンピーな状況も変わらず、さらに2日目の予選は雨は止んでいるもののウエット路面で始まった。
前日レースでは今後のFEレースの戦い方を占うかもしれない事象が起きていた。第7戦からバッテリー容量が38.5kWhに削られたこともあり、また周回数がわかっているため、エネルギーマネージメントがより緻密にできるようになった。
そのため、序盤から順位争いをするより、バッテリー消耗を抑える走り方へと変わり、レースは終盤の超スプリントレースという展開になっていた。そのため予選のポジションの重要度も変わり、決勝でもポジションをどこに位置するかということを戦略的に行なう必要があるというわけだ。
そうした環境の変化があった中、第8戦の予選ではどんな展開になったのか。降雨はないものの完全なウエット路面で予選が始まった。グループAではジャン・エリック・ヴェルニュー(DSペンスキー)、パスカル・ヴェアライン(ポルシェ)、ニコ・ミュラー(アプト・クプラ)、ジェイク・デニス(アンドレッティ)がデュエルスに進出した。
アプト・クプラはフォルクスワーゲングルプのセアトの電動化ブランド名で、アプトチームはマヒンドラのパワートレイン、すなわちZF製のパワートレインを採用しているマシンだ。これまで低迷していたが、雨というコンディションを味方につけデュエルスに進出した。
グループB予選ではこのところ絶好調のジャガーパワーレイン4台がこの予選に臨んだ。だが、デュエルスに進出できたのはセバスチャン・ブエミ(エンビジョン)、ロビン・フラインス(アプト・クプラ)、ミッチ・エバンス(ジャガー)、ニック・キャシディ(エンビジョン)で、3台のジャガーと、こちらもアプトが初進出となった。
つづくデュエルスではブエミ VS キャシディという同チームの対決が前日に続き行なわれ、前日はブエミが勝利。この日は逆にキャシディが勝利したものの、パワートレインの不正利用によりペナルティを取られ、タイムが抹消となった。その結果、ブエミがセミファイナルに進出した。
一方で旋風を巻き起こしたのがアプトチームの2台で、ともに勝ちあがり、結果デュエルスの決勝をアプトの2台で争うことになった。ポールシッターはフラインスが獲得し、アプトのフロントロー独占という快挙を成し遂げたのだ。
ここまでをみる限り、予選順位争いは真剣そのもので、タイムを競うドライバーの本質は変わっていない様子。決勝レースでは、どんな戦略で展開されるのか興味深い。
決勝
決勝レースの天気は一転して晴れた。レインでのセットアップに成功したアプトチームとしては雨を期待しただろうが、路面もドライになった。周回数は前日と同じく40周で、32周を終了した時点でアディショナルラップがあるかどうか明確になる。それまでは各マシンはポジション取りといった展開が想像できる。
スタートはやはりおとなしい展開で始まった。アプトの2台がトップをキープし、3位以下でも激しく順位を争うシーンは見られない。前日のレースでは混雑する展開からの接触が多かったが、各ドライバーはそれを経験をしたことにより、レース終盤までマシンを壊さないように無理のない走行を選択したようだ。
またアタックモードの使い方は、各チームとも早めの消化を選択したようで、トップのフラインスは3周目に早くも1回目のアタックモードを使い、なんと6周目に2回目も使うという作戦に出た。
ところが、各チームとも似たような戦略で、どんどんとアタックモードを使い切る展開で、しかも追い抜きに使わず、ポジションキープという使い方だ。つまり350kWに出力がアップするということは、バッテリーを消耗するということであり、その出力を使わず、時間経過を待つという戦略なのだ。
そのため、レースは隊列走行をする展開になり、ときどき2台が並走ポジションを探るといったレースになった。また先頭になるとエネルギーを消耗するリスクがあるためか、意図的に順位を落とすチームもあり、従来のスピードを競う展開とはかけ離れたレースになった。
レースは32周目まで、順位の入れ替わりは激しいものの、ラップタイムは1分11秒台で展開。これはかなりスローペースの展開だ。ところが残り8周になると、アディショナルラップがないことが確定し、ラップタイムは一気にスピードアップする。
1分7秒台にペースが上がり、順位の攻防も見られるかと思ったが、各マシンともエネルギー残量は似たようなもので、アタックモードも使い切っているため、隊列走行は変わらないのだ。タイムだけは速くなったものの、仕掛けができない展開というわけだ。
残り8周の時点での順位はトップが、キャシディ、以下、デニス、ヴェルニュー、ダ・コスタ、エバンス、ヴェアライン、ギュンター、ヴァンドーン、ミュラー、ティクタムという順位で、均等の車間距離で展開している。
パワートレインで見ればジャガーとポルシェ、そしてDSが独占しており、予選トップのアプトZFパワートレインとNIOがかろうじて9番、10番手にいるだけだ。
残り2周で勝負を仕掛けるか?期待するも隊列は動かない。そしてファイナルラップ、全員がひとつでも前のポジションを狙うも、結局、何事も起こらず、キャシディが逃げ切り、今季初優勝を飾った。
この展開はフォーミュラEのレースとしての興行性に課題があると感じた観客も多いことだろう。速さを競うのではなくエネルギーのコントロールを競うことが優先され、スリリングな展開は起きなかった。やはり、周回数がわかっていることによる弊害ではないのだろうか。
さて、チャンピオンシップにも変動があった。
トップは変わらずヴェアライン(ポルシェ)100点、2位にキャシディ(エンビジョン・ジャガー)96点と肉迫した。
3位ヴェルニュー(DSペンスキー)81点、4位デニス(アンドレッティ・ポルシェ)80点、5位エバンス(ジャガー)76点、6位ダ・コスタ(ポルシェ)68点となった。
日産チームは未だ低迷しており、サッシャが7点で19位、ナトーが11点で15位だ。次戦Rd9戦はモナコで5月6日に開催される。F-1とほぼ同じコースで開催され、速度やマシンサイズもモナコにピッタリのフォーミュラEだけに、見応えのあるレースに期待したい。