ABB FIAフォーミュラEのシーズン9が始まった。開幕戦はメキシコ・メキシコシティで開催され、例年どおり11チーム、22台のマシンで競われた。そして今季からマシンが第3世代へと変更され、タイヤもミシュランからハンコックへと変わった。
マシンはGen2からGen3になり、全体の大きさはコンパクトサイズになった。またリヤウイングのないデザインで、「フォーミュラマシン」という概念を変える新しい考え方で設計されている。パワーユニットは共通のバッテリでGen2では52kWhを搭載していたがGen3では41kWhへとサイズダウンしている。そしてレース中に回収するエネルギーは40%にも上る回生エネルギーを確保しているのだ。
電気自動車の開発フェーズとして、バッテリ容量=航続距離であるが、インバータやモーターの進化により同じバッテリー容量でも航続距離を伸ばすという方向にシフトしている。そのため電気のレースカーであるフォーミュラEもバッテリ容量を削減しつつ、出力は大幅にアップしているのだ。
グループ予選では300kWでタイムを競い、デュエルス予選と決勝のアタックモード中では350kWに出力がアップする。さらにタイヤに関してもサスティナブルな性能が求められ、ドライ、ウエットともに同じタイヤを使い、タイヤのライフも伸ばす性能が要求されているため、グリップ力はミシュランと比較して薄くなっている傾向がある。
こうした新たな技術要件を満たして11チームが参戦し、新たなフェーズでのシーズンが始まった。
注目の新ドライバー
今季は参戦チームに新規参入があり、ドライバーにも新人が加わっている。なかでも注目はニッサンで、Gen2まではフランスに拠点を置くニッサンeDamsチームで参戦していたが、eDamsを買収しチームポジションはフランスから日本に変わり、チーム名もニッサンとして参戦している。
そしてドライバーは日本のスーパーGTでも活躍したサッシャ・フェネストラスが23号車をドライブする。さらにニッサンのパワートレインを供給する新チーム「ネオム・マクラーレン」はジェイク・ヒューズが初参戦する。ヒューズはF2で走り、メルセデスのリザーブドライバーだった28歳。ここも注目である。
予選
予選方式はGen2とほぼ同じでグループ予選をA組、B組にわける。これはシリーズランキングの偶数と奇数でわけ、上位4台ずつの計8台がデュエルスに進出。デュエルスの最初のクォーターファイナルは同じ組同士の1位と4位、2位と3位で競い、1ラップ勝負をし、セミ・ファイナルに進出。そしてファイナルではA組のトップとB組のトップが競いポールを決める方式に変わった。
グループ予選からデュエルスに進出したA組ドライバーは、トップ通過がアンドレ・ロッテラー(アバランチ・アンドレッティ)で2番手にセバスチャン・ブエミ(エンビジョン)、3位ルーカス・ディ・グラッシ(マヒンドラ)、4位にサッシャ・フェネストラスが入った。
グループBはジェイク・デニス(アバランチ・アンドレッティ)、ティクトム(NIO)、ジェイク・ヒューズ(ネオム・マクラーレン)、そしてパスカル・ヴェアライン(タグホイヤー・ポルシェ)ん8人となった。
デュエルスではA組からディ・グラッシが勝ち上がり、B組はデニスが勝ち上がった。予選のファイナルではデニスのドライビングミスもありディ・グラッシがポールポジションを獲得。
決勝
迎えた決勝ではシーズン8までは45分プラス1周で競われていたが、シーズン9は周回数レースとなり、さらにセーフティカーなどが導入された場合は周回数が最大7周加算されるルールに変更となった。またアタックモードはこれまでと同様の4分間だけ350kWへ出力アップするが、4分間の時間配分は自由化され、ドライバーが選択できるようになった。
しかしながら、デュエルスでも350kWに出力をアップしながらもラップタイムは伸び悩むチームがほとんどで、パワーを使いきれていない印象。したがって、決勝レースでもアタックモードは消化するイメージが強かった。
さて、今回の開幕戦は36周のレースで、決勝のグリッドはポールポジションにディ・グラッシ(マヒンドラ・ZF)、2位デニス(アンドレッティ・ポルシェ)、3位ヒューズ(マクラーレン・ニッサン)、4位ロッテラー(アンドレッティ・ポルシェ)、5位ティクトム(ニオ)、6位ヴェアライン(ポルシェ)、7位ブエミ(エンビジョン)、8位サッシャ(ニッサン)、9位ダ・コスタ(ポルシェ)、10位エバンス(ジャガー)というグリッド。
ホールショットはディ・グラッシが取り、デニス、ヒューズ、ロッテラー、ティクトム、ヴェアラインの順でクリーンにスタート。今季中国のNIOが速いのは注目されるが、このあとオーバーパワーの制御エラーがオフィシャルから指摘され、ドライブスルーペナルティや10秒の加算などもあり、レースからは脱落した。
そしてオープニングラップではフラインスがニッサンのノーマン・ナトに追突し2台ともリタイヤとなった。SC(セーフティカー)が入りマシン回収後、7周目にレースが再開されるが、直後にサム・バードがマシントラブルでコース上に止まり再びSCとなった。
10周目に再開され、12周目にデニスがディ・グラッシを捉えてトップに浮上。続いてヒューズ、ロッテラー、ヴェアライン、サッシャと続いた。サッシャはシーズン8の最終戦で参戦しているものの、ほぼデビューレースと言ってもいいが、好位置につけていた。
18周目にはシーズン8でチャンピオン争いをしたモルタラが単独スピンをした。こうしたFIAのトップカテゴリーでレース中の単独スピンは珍しく、Gen3マシンの扱いが非常に難しいことが想像できるシーンだった。
27周目にアタックモードをうまく使ったヴェアラインがヒューズを交わし3位に浮上。トップはデニスで2位のディ・グラッシに4秒もの大差をつけてリードしていた。そのディ・グラッシは29周目にヴェアラインにかわされ3位に後退。エネルギーマネージメントに苦労している様子でペースが上がらない。そこをすかさずヴェアラインが交わした状況だ。
そして33周目に5周の加算周回数が伝えられた。この時点でチームは残りのエネルギーマネージメント作業に入り、順位を守りつつ最後まで走り切る条件を算出していく。
ディ・グラッシはその後もペースは上がらず隊列に蓋をするような形となり、後続車が詰まり出すものの、3位をキープしてフィニッシュ。トップのデニスは2位ヴェアラインを大きくリードして余裕のトップチェッカーとなった。
注目のニッサン・サッシャは加算周回に入ってからはガクッとペースが落ち、最終的には12番手まで順位を下げており、エネルギーマネージメントの難しさが露呈したフィニッシュとなった。
優勝はジェイク・デニス(アバランチ・アンドレッティ)、2位パスカル・ヴェアライン(ポルシェ)、3位ルーカス・ディグラッシ(マヒンドラ)ということでポルシェのパワートレーインがワンツーで、3位のマヒンドラもZFパワートレインなのでジャーマンスリーという結果になった。
次戦は再来週1月27日サウジアラビアのディルイーヤで第2戦、第3戦が行われる。