フォーミュラEシーズン7の最終2連戦がドイツ・ベルリンのテンペルホフ飛行場跡で開催された。今シーズンは13戦中10人が優勝しており、第13戦終了した時点でシリーズチャンピオンの可能性を残しているのは、なんと18位までという大混戦。最後の2連戦でどれだけポイントを稼げるかがキーになった。
ポイントはグループ予選のトップになると1ポイント、スーパーポールで3ポイント、決勝レース中のファステストラップで1ポイントが獲得できる。そして優勝が25ポイント、2位18ポイント、3位15ポイントというポイントだ。トップのデ・フリースが95ポイントでリードするものの2位以下18番手までが各1、2ポイント差で争っており、チャンピオンの行方は全く見えていない。
そして第14戦のレースではシリーズをリードするトップ3のデ・フリース、フラインス、バードの3人が全員ノーポイントとなっていまい、ますます混迷するチャンピオンシップになったのた。
【予選ヴェルニューがポール】
元飛行場の駐機場跡はコース幅も広く、いつものコースよりは抜きどころの多いレイアウト。路面はコンクリート舗装でタイヤへの負担も大きいが、ダスティではないため、予選グループの上位が不利という、いつものパターンとは異なり上位グループが予選上位を占める結果となった。
グループ予選では2年連続シリーズチャンピオンを獲得しているDSテチータのヴェルニューがトップにたった。今季一度もポールを取っていないが、最終戦にはきっちり合わせてくるベテランだ。そして注目はヴェンチューリ。メルセデスのパワートレーンを使うサテライトチームが、本家メルセデスより上位にいる。つまりPUの性能ではなく、マシンのまとまりがいいということなのだろう、ナト、モルタラともに上位にいた。
そしてスーパーポールでは、DSテチータのワンツー。ヴェルニュー、ダ・コスタがフロントローに並び、3位ディ・グラッシ、4位モルタラ、5位ナト、6位ブエミという順で、日産ブエミが久しぶりに上位に進出していた。
【決勝ディ・グラッシが優勝】
スタートはキレイにDSの2台がホールショットを決めたが、今回出力アップできるアタックモードがレース中1回の使い切り義務と8分間というルールに変更されている。抜きどころの多いコースだけにこのアタックモードの使い方が明暗を分けることもあった。
レース序盤、ランキング3位のバードがマシントラブルでまずリタイヤしてしまう。その関係でSCが入り、アタックモード中だった日産の2台は無駄にしてしまう結果となり、8位、、9位より上位には進出できなかった。トップはヴェルニュー、ダ・コスタ、ディグラッシ、モルタラと続いた。
22分経過した時点で、12位スタートだったアウディのレネ・ラストがアタックモードをうまく使い4位まで進出している。この時点でトップはDSテチータのヴェルニュー、ダ・コスタで3位、4位がアウディという展開に変わっていた。ヴェンチューリのモルタラはアクティベートゾーンに入り順位を落とすが、このあと挽回する展開だ。
やはりレース中盤はアタックモードによって順位は激しく入れ替わり、軽い接触も交えながら大きなアクシデントはなくレースを消化していく。残り5分の時点ではアウディのディ・グラッシ、ヴェンチューリのモルタラ、エンヴィジョンのエバンス、ナト(ヴェンチューリ)、デニス(BMW)、ヴェルニュー(DSテチータ)、ダ・コスタ(DSテチータ)という順。
序盤から中盤はDSテチータが良かったものの全体にタイムは遅く、次第に順位を落とす結果になっている。また3番手のエヴァンスもエネルギーマネージメントをしているためか、タイムが上がらず、トップ2台は逃げていき、逆に後続に蓋をしている形となり、最後の1、2周が勝負ということになった。
最終ラップ、ディ・グラッシが逃げ切り優勝。続いてモルタラだったが、この2台とも残りのエネルギーは0.0%というドンピシャの残量マネージメントは見事だった。3位エヴァンス、4位ナト、5位デニス、6位ヴェルニューという順。
これでますますチャンピオンシップは混迷し、ニック・デ・フリース(メルセデスEQ)のリードは変わらず95点。以下。
2位:エドアルド・モルタラ(ヴェンチューリ)92点
3位:ジェイク・デニス(BMWアンドレッティ)91点
4位:ミッチ・エヴァンス(ジャガー)90点
5位:ロビン・フラインス(エンヴィジョンヴァージン)89点
6位:ルーカス・ディ・グラッシ(アウディアプトシェフラー)87点
一方チームスタンディングでは
1位:ジャガー・レーシング171点
2位:DSテチータ 166点
3位:エンヴィジョン・ヴァージン・レーシング165点
日産は残念ながら10位という結果になっている。
【最終戦】
そして翌日、同じ場所で最終戦が行なわれる。が、コースは逆周りのレイアウトに変更され戦うことになる。
フォーミュラEシーズン7の最終戦を迎え、チャンピオンシップはランキング14位までがチャンピオンの可能性を残し、7位までは自力優勝できるという混戦となった。そして始まるグループ予選の1グループは、そのチャンピオンシップの上位6台によるものなので、是が非でもスーパーポール進出が重要となる予選だった。
しかし、予選を終わってみると1位ヴァンドーン、2位ローランド、3位ナト、4位シムス、5位ブロンクヴィスト、6位エヴァンスという順位で、シリーズチャンピオンの権利あるドライバーがエヴァンス一人という結果になった。そのためグループ予選とスーパーポールでもらえるポイント4点がチャンピオンシップに関係しないドライバーが獲得することになった。
スーパーポールではヴァンドーン、ローランド、エヴァンス、シムス、ブロンクヴィストという順でナトがトラブルで出走できず6番手スタートとなった。
この時点で自力優勝できるドライバーは4人に絞られ、可能性としては13位までとなった。ところがトップ10のドライバーをみると、チャンピオンシップに絡めるドライバーはなんとわずか3名。
ランキング4位のミッチ・エヴァンス(ジャガー)、ランキング3位ジェイク・デニス(BMWアンドレッティ)、ランキング13位のパスカル・ヴェアライン(ポルシェ)の3選手。そしてエヴァンスは3番手スタートで、デニスは9番手スタート、ヴェアラインは10番手スタートだ。一方チャンピオンシップリーダーのニック・デ・フリース(メルセデスEQ)は13番手スタートのため、エヴァンスが圧倒的有利な状況で決勝を迎えたことになる。
【前代未聞のアクシデント】
そして決勝では信じられないアクシデントが起きた。ランキング4位エヴァンスがスタートできずランキング2位のモルタラが激突するアクシデントが起きた。両者ともに怪我はなかったものの、デ・フリースにとって、ランキング2位と4位が居なくなり少し楽な展開となったのだ。
そして再スタートの1周目に、なんと今度はランキング3位のデニスがウォールにヒットし、リタイヤするアクシデントに見舞われた。この時点でデ・フリースを追いかけるランキング2位、3位、4位が居なくなるという前代未聞の最終戦になった。
振り返ると、追いかけてくるドライバーはランキング5位のロビン・フラインス(エンヴィジョン・ヴァージン)が21番手スタート、6位のルーカス・ディ・グラッシ(アウディアプトシェフラー)が17番手、ランキング7位のアントニオ・ダ・コスタ(DSテチータ)が15番手スタートであり、デ・フリースにとっては非常に有利なレースとなったのだ。
レースは再スタート後、ストフェル・ヴァンドーン(メルセデスEQ)とオリバー・ローランド(日産e.Dams)がトップ争いを演じ、3番手以下シムス、ナト、ブロンクヴィストと続きデ・フリースは9位前後まで順位を上げていた。
【デ・フリースがポジションキープ】
今回のレースではアタックモードは前日の8分間1回の使用義務から、通常の4分間2回に変更されている。そのため抜きどころの多いこのコースではアタックモードを使うタイミングで大きく順位は変動する展開となった。
残り30分の時点でノーマン・ナト(ヴェンチューリ)がトップにたち、ヴェンドーンは次第に下がっていく。シムス、ローランド、ロッテラー、デ・フリースという順だが、これもアタックモードで順位は変わる状況だ。
そしてダ・コスタがディ・グラッシに押し出されてクラッシュするシーンもあり、チャンピオンシップを争うドライバーが続々と姿を消していく。最終ラップはナトがフォーミュラE初優勝を飾り、2位にローランド、3位ヴァンドーン、ロッテラー、シムス、ヴェアラインという順でチェッカーを受けた。
デ・フリースは最後ポジションキープの走行をし、降りかかる火の粉を避けるように安全にフィニッシュラインを8位で通過し、FIA フォーミュラEの初代シリーズチャンピオンを獲得した。
こうしてシーズンを振り返るとメルセデスEQの圧勝で終わった。シリーズチャンピオンはフォーミュラE参戦2シーズン目のニック・デ・フリースがチャンピオンに輝き、チームランキングでもヴァンドーンの3位フィニッシュにより2台のポイントが上乗せされチームポイントリーダーだったジャガーを抜いてチャンピオンチームに輝いた。そして最終戦優勝のヴェンチューリもメルセデスのPUを使うサテライトであり、メルセデスの底力を見た気がする。
第15戦結果
優勝:ノーマン・ナト(ヴェンチューリ)
2位:オリバー・ローランド(日産e.Dams)
3位:ストフェル・ヴァンドーン(メルセデスEQ)
4位:アンドレ・ロッテラー(ポルシェ)
5位:アレキサンダー・シムス(マヒンドラ)
6位:パスカル・ヴェアライン(ポルシェ)
2020/21シーズン7シリーズドライバーランキング
チャンピオン:ニック・デ・フリース(メルセデスEQ)
2位:エドアルド・モルタラ(ヴェンチューリ)
3位:ジェイク・デニス(BMWアンドレッティ)
4位:ミッチ・エヴァンス(ジャガー)
5位:ロビン・フラインス(エンヴィジョン・ヴァージン)
6位:サム・バード(ジャガー)
2020/21シーズン7シリーズチームランニング
1位:メルセデスEQフォーミュラEチーム
2位:ジャガー・レーシング
3位:DSテチータ
日産は残念ながら10位だった。
ここからストーブリーグへと変わるが、BMWとアウディが今季限りの撤退を表明している。それに伴い、ドライバーの移籍や新たな参戦チームがあるかもしれない。またPUの提供はどうなるのか、など話題は事欠かなさそうなオフシーズンとなる。