【富士スピードウェイ】N1規定の「86&BRZレース」が初開催。期待された86同士のバトルは不発

雑誌に載らない話vol58

開幕戦はロードスターとの混走で、ご覧のような孤軍奮闘のレースとなった

2012年10月27日、富士スピードウェイで開催された「2012富士チャンピオンズレースシリーズ第5戦」のプログラムのひとつとして、N1規定のワンメイクレース「86&BRZレース」が初めて開催された。今回は、まだ車両の入手が難しいためBRZのエントリーはなく、86が3台のみという少々寂しいデビュー戦だったが、14台で争ったロードスターとの混走レースが行われたことで、現時点でトヨタ86のN1仕様としての完成度も垣間みることができた。

トヨタ86&スバルBRZの事実上のデビュー戦は海外だった。2011年10月にドイツのニュルブルクリンクでのVLNシリーズにGAZOOレーシングから影山正彦/佐藤久実選手が発売前の「FT-86」のネーミングで参戦し、2012年からはVLNレースに、そして5月に開催された24時間レースでは「GT86」として挑戦している。

予選アタック中の35号車、小河選手

国内では、ご承知のようにスバルのBRZが2012年のスーパーGT(300クラス)に開幕からフル参戦。一方でトヨタ86はN1規定のマシンで争う「スーパー耐久シリーズ」で国内に初見参。10月20日決勝の鈴鹿で完走を果たしている。この先、11月11日決勝の最終戦オートポリスにも出場予定だ。

しかしながら、これまでのレースではニュル24時間にトヨタ86が同一チームから2台エントリーした以外は、基本的に1台での参戦。すなわち、86やBRZ同士が戦うことはなかった。しかし今回はわずか3台とはいえ、86同士のバトルが初めて展開されることになったのだ。また2013年度からはNゼロとも呼ばれるナンバー付きマシンによる86&BRZのワンメイクレース開催も予定されている。それについては後でまた触れたいと思う。

現時点では最速の52号車、蒲生選手。タイヤはADVANのSタイヤを履く

さて、話を今回のN1仕様の86に戻そう。レギュレーションは富士チャンピオンズレースシリーズで現在開催されている他のN1(ロードスター/ヴィッツ/デミオ/スターレット/カルタスなど)とほぼ同様で、車両規則としては本格的なレース車両としての仕上げになり、限定的とはいえエンジン内部の加工もできる内容だ。

タイヤは市販車(RC)と同じサイズの205/55R16で、Sタイヤまでとなっている。使用できるタイヤはワンメイクではなく、ブリヂストン/横浜ゴム/ダンロップの3銘柄から選択可能というレギュレーションだ。また規定の最低重量は、市販車のRCグレードより60kg 軽い1130kgとされているので、規定された重量まで軽量化を行うことができる。

さて、開幕戦に出場したのは35号車の小河諒(りょう)、36号車の畠中修、52号車の蒲生(がもう)尚弥の3選手。21歳の大学生でもある小河選手は1992年にF3000のレース中の事故で亡くなった故・小河等選手の子息で、現在はFCJに参戦中。畠中選手は、以前スーパー耐久に参戦し、近年はVWゴルフのワンメイクであるGTI カップに参戦している。そして蒲生選手はトヨタの育成プログラムであるTDPに選ばれたキャリアを持ち、2010年には全日本F3選手権(Nクラス)で7連勝を果たすなど、22歳の若手ながら3人の中では一歩抜けた存在だと言えよう。

35号車と36号車はスーパーGTで35号車を走らせているクラフトレーシングからの参戦
左から畠中、蒲生、小河の3選手
トヨタ86の3台はこれだけ離れた後方からのスタートになったが、3台ともロードスターを全車抜き去った

ロードスター勢とはタイムが超接近

10月27日、土曜日の富士スピードウェイの天候はおおむね曇りで、時折雲の合間から柔らかな日差しも顔をみせるという、絶好のレース日和に恵まれた。路面は終始ドライで、コースレコードも記録されたほどだ。8時35分から20分間で行われた予選でも、ロードスターのポイントリーダーである雨宮恵司選手が2分8秒663のレコードラップでポールポジションを獲得した。

混走の86 勢では、予想通り52号車の蒲生がアタック3周目で2分8秒台の前半に入れ、最終的に2分7秒761をマーク。タイムが接近するロードスターとの混走レース全体でもトップのタイムだった。35号車の小河 は、アタック2周目の2分8秒394がベストのまま予選を終え、36号車の畠中 は、最終アタックの5周目で2分9秒682までタイムを縮めた。現状では3名のベストには約1秒ずつのギャップがあることが判明した予選だった。

決勝は12時35分からで、4563m×10周で争われた。タイムは超接近している86 とロードスターだが、実は86 の3台は43番手グリッド以降からのスタートが予め決定していたため、200m以上離れた位置からロードスター勢を追いかけることになった。

FSW(富士スピードウエイ)のN1ロードスターは、排気量が1.6Lと小さいが、最低重量は850kgと86より約300kgは軽いので、コーナーでの身のこなしは明らかに俊敏だ。もちろん直線では86が圧倒的に速いのだが、果たして10周の間に前を行くロードスターを料理できるのだろうか?

1周目のヘアピン。この段階では3台の86は接近していたが、徐々に離れることに

スタートは同時で、レッドランプからのブラックアウトで14台のロードスターと3台の86がチェッカーを目指した。しかしながら、やはりこの3台は徐々に間隔が開いて単独走行になり、中盤以降は団子状態のロードスター勢に行く手を遮られる難しいレースを強いられることになった。同一ラップで走っているロードスター勢も彼ら同士で激しい戦いをしているので、当然のように道を譲ってくれる気配はなく、3台の86にとってはまさに孤軍奮闘の10周だったと言えよう。

やっと52号車の蒲生選手が全体のトップで6周目のヘアピンを通過

結局、序盤から86勢では独走態勢を築いた蒲生選手が、5周目で全体でもトップに立ち、2番手の小河選手が9周目、3番手の畠中選手に至っては最終ラップまでロードスター勢とのバトルを演じた末に14台抜きを完了。リーダーボードにも、チェッカーフラッグの後は上から順に86勢3台のゼッケンが並んで、まずは新世代スポーツカーとしての面目を保ったと言えるだろう。

いずれにしても、富士チャンピオンズレースシリーズの「86&BRZレース」は、まだ始まったばかり。クルマも本格的なセッティングはこれからだと思われる。また今回も畠中選手が決勝中に2分8秒666と、予選ベストから1秒以上縮める最速ラップタイムをマークしたように、ドライバーもまだ発展途上というところだろうか。2012年は12月9日の最終第6戦でも、この86&BRZレースが行われる予定になっている。

ナンバー付きのベース車がTRDからリリース

トヨタのモータースポーツ部門であるトヨタテクノクラフト(TRD)では、2012年10月25日に、2013年度から開始されるナンバー付きワンメイクレースである「GAZOO Racing 86 Race」参戦用のベース車両として「86 Racing」を発売した。価格は280.0万円(北海道地区は280.63万円)で、実車のデリバリーは2013年1月中旬からを予定している。


この86 Racingは、2013年夏に始まる予定のナンバー付きワンメイクレース参戦を前提に架装。競技には欠かせないロールケージやエンジンオイルクーラー、専用のブレーキバックプレート、前後の大型牽引フック、4点式シートベルトなどを装備。トランスミッションは6速MT車のみが設定されている。またボデイカラーは7 色(サテンホワイトパールのみ有料色で3.15万円高)用意されており、インテリアカラーはブラックのみとなっている。

富士スピードウェイ公式サイト

TRD「86レーシング」専用サイト

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