平成29年交通安全白書を読む 高齢者の事故対策が最大の課題

雑誌に載らない話vol191
平成29年版交通安全白書が内閣府から発表された。白書では平成28年中の交通事故の分析の他に、高齢者に係る交通事故防止が特集項目として取り上げられ、対策を推進することが新たな方針とされている。

■交通事故の推移

交通事故(人身事故)の長期的推移をみると、戦後、昭和20年代後半から40年代半ばごろまでは死者数、負傷者数ともに増大しており、昭和26年から45年までに負傷者数は3万1274人から98万1096人(31.4倍)へ、死者数は4429人から1万6765人(3.8倍)へと増加した。このため、交通安全の確保は焦眉の社会問題となり、昭和45年に交通安全対策基本法が制定され、国を挙げての交通安全対策が進められた。

交通事故発生件数、死者数、負傷者数及び重傷者数の推移

平成28年の交通事故死者数は3904人で、過去最悪であった昭和45年の1万6765人の4分の1であり、昭和24年以来67年ぶりに4000人を下回ることができた。なお、この報告における交通事故統計の数値は、原則として警察庁の交通統計による数値で、交通事故死者数は、24時間死者数である。このほかに交通事故発生後30日以内に死亡した者(30日以内死者)の数の集計では平成28年は4682人となっている。

致死率及び死者数の推移

状態別交通事故死者数(平成28年)

平成28年中の死傷者数は62万2757人と12年連続で減少しているものの、依然として高い水準にある。死傷者数を人口10万人当たりでみると、昭和45年の962.1人から一旦急激に減少したものの、50年代から増勢に転じ、平成13年に934.7人となった。その後は、減少し28年には490.6人となった。

自動車保有台数1万台当たりでみると、昭和43年の619.8人からほぼ一貫して減少を続け、平成3年には130.6人までに減少し、その後横ばいとなり28年には76.3人となっている。

事故原因(過失要因)の割合

■平成28年の交通事故

平成28年中の交通事故発生件数は49万9201件で、これによる死者数は3904人。負傷者数は61万8853人で、死傷者総数は62万2757人。負傷者数のうち重傷者数は3万7356人(6.0%)、軽傷者数は58万1497人(94.0%)であった。

前年と比べると、発生件数は3万7698件(7.0%)、死者数は213人(5.2%)、負傷者数は4万7170人(7.1%)減少し、死傷者総数は4万7383人(7.1%)減少。負傷者数のうち、重傷者数は1603人(4.1%)、軽傷者数については4万5567人(7.3%)減少した。

事故類型別交通事故件数(平成28年)

交通事故発生件数、負傷者数は12年連続で減少し、死者数も減少傾向にあり昭和24年以来67年ぶりに4000人を下回っている。

高齢者の人口10万人当たりの交通事故死者数は引き続き減少しているものの,交通事故死者のうち高齢者は2138人であり、その占める割合は、過去最高の54.8%となった。

また致死率については4年連続で上昇しているが、この背景には他の年齢層に比べて致死率が約6倍高い高齢者の人口が増加している。一方、その他の年齢層の人口は減少傾向にあることが挙げられる。

事故類型別交通死亡事故件数(平成28年)

平成28年の交通死亡事故等の特徴を調べてみると、正面衝突等(1191件、構成率31.4%)が最も多く、次いで横断中(940件、構成率24.8%)、出会い頭衝突(490件、構成率12.9%)の順で多く、この3類型を合わせると全体の69.2%を占めている。

過去10年間の交通死亡事故件数(人口10万人当たり)を事故類型別にみると、いずれも減少傾向にあるが、人対車両その他に係る交通死亡事故は他に比べ余り減っていない。

また28年中の交通事故件数を事故類型別にみると、追突(18万4567件、構成率37.0%)
が最も多く、次いで出会い頭衝突(12万679件、構成率24.2%)が多くなっており、両者を合わせると全体の61.1%を占めている。過去10年間の交通事故件数(人口10万人当たり)を類型別にみると、いずれも減少傾向にあるが、横断中、人対車両その他及び追突に係る交通事故は他に比べ余り減っていない。

年齢層・状態別人口10万人当たり交通事故死者数で見ると、過去10年間の交通事故死者数(人口10万人当たり)の推移については、いずれも減少傾向にあるが、平成28年の歩行中死者(人口10万人当たり)については、高齢者で多く特に80歳以上(5.27人)では全年齢層(1.07人)の約5倍の水準となっている。

年齢層・状態・男女別交通事故死者数では16~24歳の女性では自動車乗車中、65歳以上の女性では歩行中の占める割合が高い。また昼夜別・状態別交通事故死者数、負傷者数では、原付乗車中(昼間66.1%)、自転車乗用中(昼間63.5%)、自動車乗車中(昼間62.3%)、自動二輪車乗車中(昼間60.9%)については昼間の割合が6割以上と高いのに対して、歩行中(夜間68.3%)については、夜間の割合が高くなっている。

負傷者数を昼夜別・状態別にみると、自転車乗用中(昼間77.6%)、自動車乗車中(昼間73.4%)、原付乗車中(昼間73.1%)、自動二輪車乗車中(昼間68.2%)、歩行中(昼間60.2%)といずれも昼間の割合が6割以上と高くなっている。

さらに平成28年中の交通死亡事故発生件数を道路形状別にみると、交差点内(33.7%)が最も多く、次いで一般単路(交差点、カーブ、トンネル、踏切等を除いた道路形状:32.6%)が多くなっている。

また過去10年間の交通事故死者数(人口10万人当たり)の推移にはいずれも減少傾向にあるが、平成28年の歩行中死者(人口10万人当たり)については高齢者で多くなり、特に80歳以上(5.27人)では全年齢層(1.07人)の約5倍の水準となっている。

人口10万人当たり交通事故死者数の推移

自動車や原動機付自転車の運転者が第1当事者となる交通死亡を年齢層別にみると、16~19歳と80歳以上が他に比べ多くなっており、平成28年中については16~19歳(13.5件)が最も多く、次いで80歳以上(12.2件)が多かった。

その他では、平成28年中の自動車乗車中の交通事故死者数をシートベルト着用の有無別にみると、非着用は558人で前年と同数であった。これまでシートベルト着用者率の向上が自動車乗車中の死者数の減少に大きく寄与していたが、近年はシートベルト着用者率が伸び悩んでいる。平成28年中のシートベルト着用者率は94.4%で、自動車乗車中の交通事故死者数をシートベルト着用有無別にみると、平成28年中のシートベルト着用有無別の致死率をみると非着者の致死率は着用者の14.5倍と高い。

高速道路、自動車専用道路における交通事故発生件数は9198件で、これによる死者数は196人、負傷者数は1万6092人で、前年と比べると交通事故発生件数、負傷者数は減少し、死者数も19人(8.8%)減少した。

高速道路における交通事故発生状況の推移

高速道路は歩行者や自転車の通行がなく、原則として平面交差がないが高速走行となるため、わずかな運転ミスが交通事故に結びつきやすく、また事故が発生した場合の被害も大きくなり、関係車両や死者が多数におよぶ重大事故に発展することが多い。そのため高速道路における死亡事故率(1.9%)は一般道路における死亡事故率(0.7%)に比べ2倍以上となっている。

運転者の年齢別逆走事故件数

また高速道路における事故類型別交通事故発生状況をみると、車両相互の事故の割合(91.4%)が最も高く、中でも追突(74.8%)が多い。車両単独事故の割合(7.5%)は一般道路(2.7%)と比較して高くなっており、防護柵等への衝突が最も多く、次いで中央分離帯への衝突が多くなっているのが特徴だ。

■高齢者と交通事故

交通事故死者数に占める高齢者の割合は,全死者数の半数を超えて過去最悪を更新している。また、高齢運転者による交通死亡事故が相次いで発生したこともあって平成28年11月15日に「高齢運転者による交通事故防止対策に関する関係閣僚会議」を開催し、高齢運転者の交通事故防止対策に政府一体となって取り組むことにしている。

平成28年11月15日に開催された「高齢運転者による交通事故防止対策に関する関係閣僚会議」

平成28年末の運転免許保有者数は約8221万人で、27年末に比べ約6万人(0.1%)増加している。このうち75歳以上の免許保有者数は約513万人(75歳以上の人口の約3人に1人)で、27年末に比べ約35万人(7.3%)増加し、今後も増加すると推計されている。

高齢者免許所持数

高齢歩行者等の死亡事故の発生状況を見ると、平成28年の交通事故死者数は3904人(前年比-213人,-5.2%)で、昭和24年以来67年ぶりに4000人を下回った。人口10万人当たり死者数は高齢者を含め全年齢層で減少傾向にあるものの、高齢者人口自体が増加しているため死者全体のうち高齢者の占める割合は上昇傾向にあり、平成28年は過去最高の54.8%となっている。

免許人口10万人当たり死亡事故件数
免許人口10万人当たり死亡事故件数

高齢者及び高齢者以外の交通事故死者数の推移

状態別(自動車乗車中、二輪車乗車中、自転車、乗用中、歩行中)の死者について高齢者の死者数とその占める割合は,歩行中が1003人(73.7%)、自転車乗用中が342人(67.2%)と他の状態(自動車乗車中643人(48.1%)、二輪車乗車中142人(20.8%))と比較して高い水準にあり、高齢歩行者等が死亡する事故が多くなっている。

当事者の類型別死亡事故件数比較(平成28年)

当事者の死亡事故における人的要因比較(平成28年)

また高齢者の歩行中死者、自転車乗用中死者のうち死者数に占める法令違反ありの死者数の割合はそれぞれ約60%、約80%で推移しており、高齢者自身の法令違反が交通死亡事故の一因となっているものと考えられる。

■高齢者の事故に対する取り組み

高齢者の交通事故を低減させるために、「高齢運転者による交通事故防止対策に関する関係閣僚会議」の開催の結果、従来からの取り組みに加え新たな施策が検討された。高齢運転者の特性を考慮した車両安全対策、自動ブレーキなどの先進安全技術は、高齢運転者による交通事故の防止や事故時の被害軽減の効果が期待されているのだ。

高齢者運転対策の推進

国土交通省は相次ぐ高齢運転者による交通事故を受けて、国内乗用車メーカー8社に対し「高齢運転者事故防止対策プログラム」の策定を要請した。これを受けてメーカー各社は平成29年2月末までにプログラムを策定し、それに基づき自動ブレーキ、ペダル踏み間違い時加速抑制装置などの先進安全技術について、研究開発の促進、機能向上と搭載拡大、ディーラー等における普及啓発等に取り組むことを決定している。また自動車メーカーは、これらの予防安全装置に加え、オートライトの普及も行なうことを決定している。

セーフティサポートカーS

この結果、自動ブレーキ、ペダル踏み間違い時加速抑制装置については平成32年までにほぼすべての車種(新車乗用車)に標準装備、またはオプション設定され、このうち自動ブレーキについてはそのほとんどが歩行者を検知可能となる見通しとなっている。

また国土交通省、経済産業省、金融庁及び警察庁は、高齢運転者による交通死亡事故の発生状況等を踏まえ、高齢運転者の安全運転を支援する先進安全技術を搭載した自動車(安全運転サポート車)の普及啓発を図るために平成29年1月25日に「安全運転サポート車の普及啓発に関する関係省庁副大臣等会議」を開催した。

同会議で安全運転サポート車のコンセプトや当面の普及啓発策、先進安全技術の一層の普及促進のための環境整備等について検討を進め、同年3月に中間取りまとめを行なった。

この中間取りまとめでは、高齢運転者による事故実態を踏まえた「安全運転サポート車」(ver.1.0)のコンセプトを定義し、同車の愛称を「セーフティ・サポートカーS(サポカーS)」と定め、官民をあげた普及啓発に取り組むほか、自動車アセスメントの拡充や一定の安全効果が見込まれる水準に達した先進安全技術の基準策定等について検討されることになっている。

また新車への対策に加え、既販車への装着ができる「後付けの安全装置」についても安全性を担保しながら普及促進を図ることにしている。

このように、従来から行なわれてきた交通安全運動に加え、新たに自動ブレーキや誤発進抑制装置が高齢者の交通事故抑制、被害軽減のためにスポットライトを浴びていることは注目すべきだろう。

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