止まっているクルマを評価する「静的評価」はどうやるのか?その方法を伝授 その2

雑誌に載らない話vol255
こちらの記事は2016年12月に有料配信したものを無料公開したものです。

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ロールス・ロイス ドーンのインテリア。最高級の材質を採用し、ハンドメイドで組立て

前回は、止まっているクルマの仕上げの良さや見た目の美しさの素となっている、エクステリアの静的評価のポイントを紹介したが、今回はインテリアの静的評価について伝授する。クルマのインテリアは購入してから、そのクルマを手放す時までずっと付き合うことになる。それだけにしっかりと評価したい。

自分が運転している時、エクステリアは自分の目で見えないが、インテリアのデザイン、質感、触感、シートの座り心地はクルマを運転中、ずっとドライバーに近い存在だ。そうしたインテリアの静的な評価は、ある意味エクステリアよりはるかに重要といえるかもしれない。

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500万円クラスのクルマだが、インテリアの仕上げの精緻さでベンチマークとなっているアウディA4

■インテリアの静的な評価とは

インテリアの静的な評価は、見た目の美しさ、手で触った時の触感、インテリア全体での質感といった感覚的なものから、シートの座り心地、ラゲッジスペースなどの使いやすさ、ペダルやスイッチ類など、機能的な面での評価も加えるべきだ。

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トランク内のデザイン処理、内面仕上げなどは車格、価格がダイレクトに反映されやすい

そのためインテリアの静的な評価を行なうためには目視するだけではなく、手で触れる、可倒式リヤシートなどを操作してみる、シートに座る、スイッチ類などを操作してみるなども必要だ。

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インテリアの静的な評価のポイントは次のようなものが上げられる。
・ 室内全体のデザイン、カラーコンビネーションのセンス
・ インスツルメントパネルの材質、仕上げ
・ トリム(艤装)の材質、仕上げ
・ シートの座り心地、シート表皮の材質
・ ラゲッジスペースの仕上げ、見栄え
・ インテリア全体の質感
・ インテリアの匂い

・ フロントシートの調整(ドライビングポジションの調節のしやすさ)
・ リヤシートの座り心地、シートバックの折り畳みのしやすさ
・ ラゲッジスペースへの荷物の積載のしやすさ
・ 運転席からの視界の良さ(前方、斜め前方、後方、斜め後方)
・ ペダル配置
・ スイッチ類の配置、操作性(多用するスイッチ類の操作のしやすさ)
・ サンバーザーの機能(触感、材質、バニティミラー照明など)
・ グローブボックスの容量、見栄え
・ 室内照明の質
・ インフォメーション・ディスプレイやナビ画面の見易さ
・ エアコンなど空調の配慮(左右独立か、前後独立か、また後席への空調の配分)

前半が仕上げや見栄え、質感、デザインの良否などの項目で、後半は操作性、扱いやすさなどの機能面の評価項目だ。

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インスツルメントパネルは合成皮革を上張り。グローブボックスは標準的な樹脂製

■評価されるインテリアとは

某自動車メーカーの内装設計のエンジニアが語っていた分かりやすい指標が、「ソフト、一体、継ぎ目なし」だ。「ソフト」とは、インテリアで手に触れる場所、インスツルメントパネルやトリム類の表面は、プラスチックの骨格の表面にウレタン・スラッシュ成形材を吹き付けて表面をソフトなクッション性のある表皮材とする、あるいは合成皮革張り、高級車では本革張りなど、手で触ってソフトな感触に仕上げることだ。海外ではパッド(PAD)付きインスツルメントパネルといった表現とされる。

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上級車のグローブボックス内面は植毛材を使用した仕上げで、樹脂材が見えないように処理

「一体」とは、インスツルメントパネルなど大きな部材を、多くの部品組み立てるのではなく、一体成形で作り、見た目の表面の均一性や立体的なデザインとすること。「継ぎ目なし」とはルールの内張りやピラーのカバー、インスツルメントパネルのメーター部とその周囲などが継ぎ目や目地が見えず、スムーズに繋がっていることを意味する。

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内装部品の仕上げ精度の目安となる各部の隙間

カラーコンビネーションなどのデザインセンスを除外すれば、この「ソフト、一体、継ぎ目なし」のインテリアであれば一定レベル以上の上質感が得られ、実際に触ってみてもチープさがない。逆にBセグメント以下のクルマでは、インスツルメントパネルはプラスチックそのものの固い表面仕上げとなる。ただこの場合も、表面にシボのデザイン処理をする、あるいはプラスチックに塗装をすることにより見栄えをよくする手法は取られている。

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インスツルメントパネル部とAピラーカバーがほとんど隙間なく合わされている例

もちろんプレミアムクラスのクルマは、手で触れる部分はプリントされた樹脂製ウッドパネルではなく、本木目のウッドパネルや、本革張り仕上げとなり、高級リビングルームのような雰囲気を作り上げている。

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インスツルメントパネルの表面仕上げは、樹脂にシボ加工をしたものと、ウレタン・スラッシュ表皮では見た目は似ているが触感が異なる(写真はウレタン仕上げ)

またパワーウインドウのスイッチや、その周囲、センターコンソールの装飾などは、低価格車は樹脂仕上げだが、Cセグメント以上のクルマにはクロームメッキや金属調の装飾があしらわれることが多い。これも樹脂に金属調メッキをした材質から、鋳物のアルミ材を使用するなど様々だが、当然ながら質感を重視するクルマは、本アルミ材、高級車ではアルミやステンレス材の削り出しとするなど、ディテールに対するこだわりがこめられている。

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パワーウインドウ・スイッチも、デザイン、材質で、インテリアの質感に影響する

逆にイタリアやフランスの低価格クラスのコンパクトカーなどは、インスツルメントパネルは樹脂製だが、その表面にセンスのよいカラー塗装をしたり、カラーの組合わせにより、安っぽさを消し、センスのよいモダンなインテリアに仕上げられていることも少なくない。

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ドアを閉めた状態での隙間(写真は標準レベル)

いずれにしても、インスツルメントパネル、ドアの内張り、センターコンソールなど大きな部品は、昔は様々な部品を組み立てる構造になっていたが、近年はフォルクスワーゲン・グループが先頭を切って行なった「モジュール組み立て」を各社が採用し、緻密に仕上げられた大型部品の状態で、ラインで組みつけられるようになった。そのため、インテリアの質感、仕上げは格段にレベルアップしている。

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より精緻な仕上げのドア隙間

そのモジュール組み立てとは、例えばインスツルメントパネルはサプライヤーが配線からメーターパネルまでを事前に組み立て、完成したインスツルメントパネルを自動車メーカーの製造ラインに納入し、ライン上ではインスツルメントパネルをはめ込むだけという生産方法だ。

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ドアを開けた時に見えるステップ(サイドシルカバー)部の デザインや材質、仕上げもチェックポイント

自動車メーカーの製造ラインで個々の部品をネジ止めするより、サプライヤーが複雑な構造の部品を見栄え良く、精度良く組み上げたユニットの方がネジが見えず、綺麗で精密な仕上げができるからだ。もちろんこれは、大量生産されるクルマを前提にした製造方法で、少量生産の高級車には適合しない。

■シートの機能性

よく言われるように、畳文化の日本と、欧米のようなイスの文化圏では、シートに対するこだわりや良否の判断基準が異なり、クルマのシートの評価方法も、日本だけは微妙に異なる点があるといわれている。

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かつて、日本における高級なシートは、リビングのソファーにようにクッションが柔らかく、体は沈みこむものが良いとされていた時代もあった。もちろんそんなシートではドライバーだけではなく、同乗者も走行中に姿勢が崩れて疲労を生み出すだけだ。

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日本においても自動車メーカーにより人間工学、整形医学などの研究が行なわれ、脊椎・腰椎支持シートなどが開発されているが、クッション素材や、クッション用のバネなども含めた総合性能ではまだまだといわざるを得ない。

シートの評価は、バケットタイプ、スポーツシート、ラグジュアリータイプといった見かけの形ではなく、あくまでも機能本位で評価すべきであり、ショルダーサポートがないラグジュアリーシートといえども、腰、尻の位置が座面にきちんと収まり、コーナリング時でも乗員の肩が左右にずれにくいホールド性が求められる。

つまりシートの左右のショルダー部の保持性、座面左右の太腿の保持性が重要で、この部分にはある程度変形しにくいクッション材が必要だ。またシートに座った状態で、腰椎や脊椎下部をしっかり支えるクッションがあるかないかで、長時間ドライブでの疲労に差が出る。

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前方視界、斜め前方視界も静的な評価。Aピラーの前後方向の位置、太さや断面形状が影響する

さらにシート表皮も、滑りにくい仕上げが求められ、本革、合成皮革の場合は見栄えはよくても滑りやすい仕上げになっているものには高い評価が与えられない。

こうしたシートの評価は、フロントシートだけではなく、リヤシートも同様で柔らかすぎる、滑りやすい表皮のリヤシートは乗員を疲労させやすいのだ。

■まとめ

インテリアは、デザインセンスや、使用される材料の良し悪し、仕上げの丁寧さなどで見栄え、質感は大きく変わるが、特に重要な点は細部に対する配慮やこだわりともいえる。これは言い換えれば日本が得意とする「おもてなし」精神でもあり、かつては日本車のインテリアの仕上げに対する評価は世界的に悪くなかった。

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しかし日本におけるバルブ景気の崩壊、リーマンショックなどを経るごとにインテリアに対する仕上げや細部に対するこだわり、配慮が薄められ、逆にヨーロッパのメーカーに逆転され、現在は追いつけ、追い越せの段階になってしまっているのだ。

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