EUが義務化したスピード違反防止システム「ISA」導入の背景

ヨーロッパ連合(EU)は2022年7月6日以降に発売される乗用車、商用車、バス/トラックなどのすべての新車にスピード違反を防止する技術であるインテリジェント・スピード・アシスト(ISA)の搭載を義務付ける規制を導入した。そして2024年5月から既存車にもISAの装置の搭載を義務付けることになったのだ。

EUの決めた定義では、ISAは「運転者が道路環境に応じて適切な速度を維持できるように、適切かつ特化されたフィードバックを提供することで支援するシステム」とされている。つまり地図情報や車載カメラとGPSによる道路標識の認識情報をベースにし、速度オーバーになっている場合にドライバーにそれをフィードバックして警報し、ドライバーに確実に注意を喚起させるシステムになっている。

スピードオーバーの場合、ISAは警報音や警告灯だけではなく、ECUを通じてアクセルペダルを、あるいはハンドルを振動させるなどのフィードバックも想定されている。

システム的には、ドライバーに警告するシステム、速度超過している場合は、アクセルペダルの反力を大きくして、それ以上踏み込みにくくするタイプも考案されている。それでも速度を上げることは可能だが、そのためには通常よりも強い力でアクセルペダルを踏み込む必要がある。

さらにインテリジェントなシステムとしては、速度を超過しないように自動的に車速を制限するものも想定されている。ただ、ドライバーがこのシステムをが作動させるかどうかはスイッチで選択できるシステムとなる。

このISAの導入の背景には、ヨーロッパでは2018年から車両の位置情報を各地の情報センターに送信する緊急通報システムサービス「eCall(イーコール)」の搭載が義務化されていることがある。このためほとんどすべての車両はにGPSを搭載しているので、このISAの導入もハードルが低かったのだ。

また、さらに一歩先のスピード規制も構想されている。場所に応じて法定速度を超えないように車速を制御する「インテリジェント・スピード・アダプテーション」のプロジェクトで、車速制限が行なわれる道路には制限速度情報を発信する道路インフラも整備されようとしている。

こうした制限速度オーバーを防止するシステムの導入の流れの背景には、市街地での速度オーバーによる事故の抑制、さらにヨーロッパの郊外道路での交通では車速が高く、いったん事故が起きると重大事故になる確率が高いため、その道路における制限速度を安易にオーバーしないようにして死傷事故を抑制するという交通安全の考えからと、過剰なスピードでの走行を抑制することで燃料消費を低減させるというふたつの理由がある。

またこうした速度制限を守らせる規制の前提としては、ヨーロッパ各国での市街地でのゾーン30(30km/h規制)が積極的に導入されており、その一方で郊外の道路や高速道路、自動車専用道路の出入り口やジャンクションでの速度規制は日本の制限速度より高く、こうしたヨーロッパ流の制限速度を超えるとかなり危険な状態になるという現実がある。

そういう意味では、とにかく車速を抑えるという単純な発想ではなく、多くのドライバーにとって納得しやすい現実的な速度規制政策ということができる。

EU 交通安全憲章 公式サイト

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