2020年11月にホンダは国土交通省が定めた自動運転レベル3の基準をクリアしたとして、レジェンドが国土交通省の自動運転・レベル3の型式指定を取得したことを発表した。
レベル3の自動運転とは、制限付き自動運転システムを搭載していることが条件になっている。そしてこのレジェンド ホンダセンシング エリートが2021年3月に発売された。レジェンド ホンダセンシング エリートは100台の限定生産でリース専用とされているが、世界初のレベル3の自動運転システム搭載車として歴史的なクルマということができる。
国交省と国連の自動車基準調和世界フォーラム
国交省のレベル3の自動運転(自動運行装置)は、特定条件下においてシステムが運転を行ない、条件を外れた場合など作動継続が困難な場合は、ドライバーに適切に運転が引き継がれることとされ、このことから「条件付き」と呼ばれる。
日本ではレベル3の自動運転について2019年5月に、道路運送車両法を改定し、国が定める保安基準の対象装置に「自動運行装置(自動運転システムの意味)」の項目が世界で初めて追加され、その法律が2020年4月1日から施行されている。そしてこの保安基準は、国際的に共通化が図られている点も注目したい。
そして日本も共同議長として参加している国連の自動車基準調和世界フォーラム(WP29)第181回会合(2020年6月)で、初めてレベル3の自動運転に関する国際基準が成立している。
ここでは、乗用車の自動運行装置(高速道路等における60km/h以下の渋滞時等において作動する車線維持機能に限定した自動運転システム)と、サイバーセキュリティの確保、ソフトウェア・アップデートの許容などが決定された。
自動運行装置の国際基準の主な要件は、「少なくとも注意深く有能な運転者と同等以上のレベルの事故回避性能」を持っていること、「運転操作引継ぎ警報を発した場合、運転者に引き継がれるまでの間は制御を継続。運転者に引き継がれない場合はリスク最小化制御を作動させ、車両を停止」すること。
さらに「ドライバーモニタリングシステム」の搭載、「システムの作動状態記録装置の搭載」、「サイバーセキュリティ」対策、「シミュレーション試験、テストコース試験、公道試験及び書面審査を適切に組み合わせた適合性」の確認などがある。
つまり、レベル3の自動運転に関しては世界各国で共通の基準が適用されるわけだ。一方、日本は世界に先駆けてレベル3の自動運転技術の開発を推進しており、その成果もあって、自動車基準調和世界フォーラム(WP29)の決定より前の5月に、いち早く保安基準の改正を行なったわけである。
SIP戦略的イノベーション創造プログラム
なぜ、日本はこの自動運転の先頭に立ったのか。その理由は日本の国家プロジェクト「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」のひとつのテーマとして積極的に推進されてきたからだ。
「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」は、安倍内閣のもとで2013年半ばに「国家重点プログラム」として内閣府が予算概算要求したことからスタートし、国家的・経済的重要性の観点から総合科学技術会議が10の課題候補を決定(その後11テーマとなる)。そしてこれは2014年から開始している。
この「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の11分野の中に「自動走行システム」が採用され、高度な自動走行システムの実現に向け、産学官共同で取り組み研究開発を推進することになった。
そしてSIPにおける自動運転は、2020年夏に開催予定の東京オリンピック/パラリンピックを舞台に、その成果を世界に向けて披露することが当面のゴールとされていた。
内閣府のもとで省庁・分野の枠を超えて予算配分し、基礎研究から実用化・事業化までを見据えた取組みとしてプログラムを推進するという枠組みのもと、法規制の分野では国交省、警察庁も積極的に取り組んだことが2020年5月の保安基準の改正につながったわけで、自動運転車両の開発を推進するために、公道での実証実験に関しても法的にバックアップされるなど、自動運転技術の開発は官民挙げて行なわれたのだ。
実際には、2020年は新型コロナウイルスの感染拡大により東京オリンピック/パラリンピックは延期され、2020年夏には「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の成果として多くの自動運転車両が東京で走り回るというシナリオは崩れ、自動車メーカーの自動運転車両の開発も数ヶ月の遅れが生じた。
ホンダはレジェンド ホンダセンシング エリートを当初は夏頃の発表予定であったが、11月に自動運転車両としての型式指定を世界で初めて取得し、2021年3月の発売にこぎ着けている。
制限付きレベル3の自動運転システムは、これまでの世界の共通原則であるジュネーブ条約の「自動車は人間が操縦しなければならない」という原則が書き換えられ、自動運転システムによる運転が認められたことはクルマの歴史の中で画期的なのである
レベル2とレベル3
2020年5月にレベル3の自動運転に法的な基準が明確になったが、実はレベル2の高度運転支援システムに関しても国際基準がそれより少し前に決定している。
レベル2は、運転支援システムがドライバーの監視のもとで、走行状況に応じてハンドル操作や加減速操作を行なう一方で、システムがドライバーを支援できない場合はドライバーがすべての操縦を行なうという定義で、全てはドライバーの交通環境の認識、判断のもとで作動する文字通りの運転支援システムだ。
制限付き自動運転のレベル3に比べ、レベル2のシステムは運転支援システム、または高度運転支援システムとされ、ある意味でレベル2と呼ばれるカテゴリーの範囲は広がっている。当初はアクティブクルーズコントロールは加減速のみを行なっていたが、現在では操舵支援も行なわれ、渋滞時のハンズオフの追従走行支援も行なわれるようになっている。
一方で、レベル3は一定の条件になるとドライバーは交通環境の注視義務から解放(交通環境の注視が不要となり、動画を見たり、ディスプレイ上でのメール送受信なども可能になる)され、文字通りの自動運転となり、この状況では運転の責任は自動運転システムが担うことになる。
しかし自動運転が可能な条件がなくなった状態ではシステムが切り替わり、レベル2の運転支援システムの状態に変更されるので、これがドライバーに正しく伝わるかどうかが大きな課題となる。
レベル3の自動運転が行なわれるのは、具体的には、高速道路本線上での渋滞時での自動運転が想定されており、そのため「トラフィック・ジャム・パイロット」という別称が採用されている。国際基準によれば60km/h以下の高速道路で作動可能になるのだ。(ただし、実際の作動は自動車メーカーごとの判断で決定され、レジェンドは作動開始が30km/h、作動終了が50km/hとしている)
また高速道路であっても中央分離帯のない区間、急カーブ区間、サービスエリア、パーキングエリア、料金所周辺では自動運転は作動しない。
さらに天候条件では、強い雨や降雪による悪天候、視界が著しく悪い濃霧、日差しの強い逆光の時などはシステムが停止される。
レベル3のシステムは、交通条件としては、自車が走行中の車線が渋滞、あるいは渋滞に近い混雑状況であるとともに、前走車や後続車が自車線中心付近を走行していることが求められる。逆に言えば、高速道路上でも天候条件の変化、トンネル、急カーブ区間などでは自動運転レベル3からレベル2に引き戻されることになる。
このため、レベル3の自動運転は限定的であり、自動運転システムの作動状態、レベル3からレベル2への切り替わりなどをドライバーに的確に伝えることができるインターフェース(伝達手段)が極めて重要であることがわかる。また、レベル3からレベル2に切り替わった状態でも走行状態に大きな変化が生じない点も重要だ。
そのため、自動車メーカーごとにレベル3の自動運転に対する取り組みや考え方は異なり、ボルボはいち早くレベル3は採用せず、自動運転技術としてはより高度なレベル4を目指すとしており、このほど発売されたレクサスLS、ミライの「アドバンスドドライブ」ではレベル3に近いセンサー類の装備としながらも、レベル2に留めている。
レベル2の中でも最高水準の高度運転支援システムを追求する日産のプロパイロット2.0、スバルのアイサイトX、そしてトヨタのアドバンスドドライブやヨーロッパの多くのメーカーと、それに対し、レベル3を実現するホンダ、メルセデス・ベンツというのが現在の色分けとなっている。
とはいえ、日産のプロパイロット2.0は高精度3DマップとGPS測位システムを搭載しており、LiDARなどの追加でレベル3は可能で、スバルのアイサイトXは現在のADAS3次元マップを高精度3Dマップにグレードアップさせ、LiDARを追加し、制御プログラムをアップグレードすることでレベル3は実現できる。ただ、それ以外にステアリング、ブレーキなどの電源喪失時のバックアップシステムを搭載しなければならないので、コストアップに直結することも大きなハードルだ。
トヨタの「アドバンスドドライブ」は、LiDRを1個装備しバックアップ・システムも搭載しているといわれているので、LiDARをより多数搭載し、GPS測位システムを搭載することでレベル3にアップグレードすることは可能だ。
一方で、レベル3の基準も将来的にはソフト、ハードの進化により変化することが想定され、交通事故を減らすという目的のためにレベル2、レベル3のそれぞれの技術開発はまだまだ継続されていくことは間違いないだろう。
社会の受容性が問われる
これに高度運転支援システムとレベル3の自動運転のもうひとつの課題は、現実の交通環境の中での位置づけである。
レベル2の高度運転支援システムであれ、レベル3の自動運転であれ、制限速度を厳密に遵守し、レーンチェンジでの振る舞いも安全を十分に確認した状況で行なわれるが、現実の交通環境では道路上での交通の流れる速度やレーンチェンジなどは、人間対人間のアイコンタクトや、2、3台前のクルマの先読み、さらにとっさの判断、またドライバー同士の暗黙の意思疎通が行なわれており、これら人間ならではの能力の中で、レベル2、レベル3のシステムは試されることになる。
例えば高速道路の分岐や合流部で、車両が渋滞に近い形で詰まっている時に、システムは割って入る時、どのような振る舞いになるのか、それを周囲のドライバーはどう見るのだろうか。
現在はまだ高度なレベル2の運転支援システム、レベル3の車両は極めて少数だが、今後これらの車両が増加するにつれて、改めてこの問題がクローズアップされることになるだろう。