国交省は、内閣府主導の自動運転技術の推進とは別に、古くから自動車、交通における安全性の向上にターゲットを絞った「AVS(先進安全自動車)の推進にも取り組んでいる。「ASV推進計画」がスタートしたのは1991年で、以後29年間にわたって活動が続けられている。なおAVSとは、「Advanced Safety Vehicle(先進安全自動車)」の略称だ。
「ASV」
このASV推進計画は国交省、学識経験者、自動車/2輪車メーカー(14社)、関係団体からなる「先進安全自動車(ASV)推進検討会」が推進役となっている。
現在のASV推進計画における基本方針では、ASV技術はドライバーの意思を尊重し、ドライバーの安全運転を支援するものとされ、ドライバーが主体的に、責任を持って運転することを前提としている。
またASV技術はドライバーが使いやすく、安心して使えるような配慮、つまりヒューマン・インターフェースの設計を重視している。
さらにASV技術を搭載したクルマは、他の自動車や歩行者などと一緒に走行するので、社会から正しく理解され、受け入れられる必要がある点も重視されている。
ASVのコンセプトは当初はパッシブセーフティ(衝突安全性)にフォーカスされていたが、現在は高度ドライバー支援システムや、自動運転技術が登場しているため、「自動運転の実現に向けたASVの推進」に取り組んでいる。
そして現時点では、自動運転を前提としたASVの基本理念等の再検討、混在交通下に自動運転車を導入した際の影響の検討など、新たな領域の検討が行なわれている。
具体的には、レベル2の高度運転支援システム、レベル3の自動運転における路肩退避タイプなど発展型ドライバー異常時対応システムの技術的要件や、ドライバーの異常を検知するドライバーモニタリング手法の技術的要件と課題、そして商用車の隊列走行や限定地域での無人自動運転移動サービスの実現に必要な技術的要件と課題、自動速度制御システムの技術的な要件や課題などが検討されている。
そして同時に、高度運転支援システムや自動運転などが登場したことに合わせて、ASVの技術の共通定義や共通名称の見直しも行なわれている。
明確化されたレベル分け
国交省は2020年12月11日に、「主要なASV技術の概要および自動運転関連用語の概説」を公表した。その目的は、ASV技術についてユーザーやメディア関係者の理解を広めるためとしている。
その背景には、衝突回避被害軽減ブレーキ、車線維持システム、アダプティブ クルーズコントロールなど、ドライバーをアシストするシステムが普及しつつあり、いわゆる自動運転との境界が不明確で、誤解があったりすることが多いからだ。
ASV技術は事故防止に役立つ一方で、万能ではなく、ユーザーは機能の限界を正しく理解し、安全に配慮した適切な運転操作を行なうという重要性は、依然として存在している。そのため、同検討会は、市場で販売される自動運転車について、ユーザーに機能やその限界等を正しく理解してもらうことを目的に、改めて高度運転支援システムや自動運転にかかわる各レベルの車両の呼称を検討し、改めて定義したわけだ。
そして、この定義は自動車メーカーが、消費者に対して具体的な車種について広報、宣伝活動を行なう際に使用する資料(テレビCM、新聞・雑誌の広告、パンフレット等)を想定しており、メーカー側のユーザーに誤解を与えかねない過剰な表現を抑制することも目的になっている。
今回発表された運転支援システム、自動運転のレベルと、その説明内容は従来からあるアメリカSAE(Society of Automotive Engineers)が決めたレベル分けに準拠しているので、特別に目新しいものではないが、より分かりやすく、明確にレベル分けが表現されている点は評価できる。
高度運転支援システムや自動運転は、すでに技術的な方向性は見通せるようになっているが、一方で現実の交通環境の中で自動運転のシステムはどうあるべきか、ドライバーと自動運転システムの関係をどのようにするかという自動運転システムの設計は、今後も大きなテーマであり、一気に無人自動運転システムのステージを目指すわけではない。
したがって、自動運転システムができること、できないことの境界はユーザー側も十分に注視していく必要がある。<松本晴比古/Haruhiko Matsumoto>