中国からの最新のニュースで、第一汽車集団は高級車ブランド「紅旗」の2020年1〜6月の累計販売台数が前年同期比2.1倍となる7万台を超えたと発表した。中国では1月から4月までは新型コロナウイルスの感染の影響で経済活動が停滞していたことを考えると、これは驚くべき販売結果といえる。新型コロナウイルスの影響がなくなった6月は、前年同月比92%増の1万5400台も販売されたという。
第一汽車と紅旗
紅旗ブランドは、2019年の生産、販売台数が10万台を超えており、2020年の販売目標を20万台に設定している。今後、25年には60万台、30年には80万〜100万台に増やす計画とされている。
中国の第一汽車(FAW)は国有系企業であり、1953年に設立された中国最初の自動車メーカーだ。現在では上海汽車、東風汽車と並ぶ三大自動車メーカーのうちの一つであり、同時にフォルクスワーゲン、トヨタ、マツダ、GMなどとの合弁事業を展開している。
紅旗は、第一汽車のトップブランドであり、中国で最も歴史が長いクルマだ。そもそも第一汽車は1953年に当時のソビエト連邦から技術支援を受けて設立され、商用車やソ連型の大型トラックの生産を開始している。
大きな節目は、1958年に訪れた。その当時、中国の毛沢東主席の指揮のもとで中国経済は自力更生、大躍進政策が採用された。この政策は自動車部門にも影響を与え、いくつかの自動車工場が民間用の乗用車製造を開始した。
第一汽車はミドルクラスのセダン「東風CA71」を開発した。この東風に乗った毛沢東は、「我々自らが手がけたクルマに乗ったぞ!」と、大喜びしたという。同時に、毛沢東から直々に政治家首脳部のためのリムジンを造るように指示したといわれている。当時はパレードなどでソ連製のリムジンが使用されていたが、国産のリムジンにしたいのが願いだったのだろう。
そして1958年8月に、第一汽車は極めて短時間で最初のフルサイズ リムジンのプロトタイプが完成した。このリムジンは200psのV8エンジンを搭載していた。第一汽車は革命のシンボルである赤い旗、つまり紅旗を車名にした。CA72型と呼ばれるこの巨大なリムジンはソ連のリムジンを参考にしていたが、デザイン的には1955年型のクライスラーをベースにしていた。そして10月1日の国慶節のパレード用にオープンモデルのコンバーチブルも製造された。
そして1959年頃から正式な仕様が決定し、手作りによる生産が始まり、1960年にはライプチッヒ国際博覧会に出展され、世界的にも紅旗の名前が知られるようになった。1963年に登場した改良型のCA770型モデルは、1980年まで生産されている。
CA770型はクライスラー インペリアルをベースにしたプラットフォームを採用し、215psを発生するクライスラーの5.6L V型8気筒エンジンを搭載したモデルで、合計で約1600台が生産された。3列シートのロングホイールベースモデルや1969年製の防弾装甲モデル(CA772)など、様々なバージョンも生産された。
紅旗は、党の首脳部や外国要人が乗るための高級リムジンであり、そういう意味ではソ連における「ジル」と同様の位置づけであり、我々は国慶節のパレードの写真で紅旗を見ることができた。
しかし1981年、中国・国務院は紅旗の燃費が悪いことを理由に、6月で生産を終了している。ただし、国慶節のパレードではその後もCA770型の改良モデルは使用されている。
紅旗の多様化
党の指導者用は別として、第一汽車は次世代の紅旗を模索し、バリエーションを拡大した。例えば、1989年頃にはCA7200/CA7220型がアウディ100をベースに製造され、1995年頃から登場したCA7460型はフォード リンカーン タウンカーをベースに製造したモデルだ。
これらのモデルは、共産党や地方政府の高官のためのモデルだあったが、実際のところは中国生産されたアウディ100、アウディ200、後にはアウディA6ロングホイールベースが彼らの愛用車となったことはよく知られている。
2006年には、トヨタ クラウンをベースにしたHQ3型が発売され、より上級モデルとしてクラウン マジェスタをベースにしたHQ430も登場した。しかしこれらもアウディ ベースのクルマと同様に不評で、発売初年度の販売台数は500台ほどだった。2年目の目標は1400台とされたが、少なくとも年間5000台を達成しないと採算が合わない状態。2008年には価格を大幅に引き下げ、個人購入者にアピールするために「盛日」と名称を変更するという結果となった。
紅旗というブランド名は政府御用達のイメージが強く、必ずしも富裕層にはアピールせず、政府の高級官僚や地方政府の高官には圧倒的にアウディA6ロングホイールベースが人気モデルで、地方政府の会議場の駐車場などには、驚くほど多くの黒色のアウディA6が集まることはよく知られている。
超高級リムジン「L5」
紅旗のフラッグシップは、もちろん政府の首脳が使用する超高級リムジンで、長らくCA770改良型のリムジンが使用され続けていたが、2014年についにモデルチェンジが行なわれL5型(CA760/7400)が登場した。
L5は、生産終了した紅旗CA770型のデザイン イメージをそのまま残しているため、超レトロスタイルだが、中身は最新版に生まれ変わっている。L5は2013年に上海オートショーで発表され、価格は約8000万円と中国生産車両としては最も高価なクルマだ。
CA7600は自社開発の6.0L V型12気筒エンジンを搭載したフルタム4WDモデルで、出力は408ps/550Nm。最高速度は210km/hとされている。その後2016年に381psを発生するV8ツインターボ エンジンを搭載するCA7400が追加された。トランスミッションはCA7600は6速AT、CA7400は8速ATを組み合わせている。
L5のボディサイズは、全長5555mm、全幅2018mm、全高1578mm、ホイールベース3435mmで、車両重量は3150kg。ボディサイズはアメリカのフルサイズカーより大きい。もちろんこのモデルは完全なハンドメイドで、本革、中国伝統工芸のウッド材、宝飾などで装飾される一方、最高級オーディオシステム、冷蔵庫、テレビや各種液晶ディスプレイ、LED照明など最先端の装備が満載されている。
紅旗ブランドの拡大
フラッグシップのL5以後の紅旗ブランドは、さらに車種ラインアップを拡大している。2018年にはマツダ6ベースのH5、アウディQ5ベースのSUV、HS7、イタルデザインがデザインを担当したコンパクトSUVのHS5、そして2020年にはアウディA6LをベースにしたH9がデビューしている。
これらのモデルはプラットフォーム、シャシーなどはベース車のものを使用しているが、インテリアのデザイン、装備などは独自の工芸技術と最先端のテクノロジーを搭載している。
そのため、もはや政府専用車というイメージではなく、高級車ブランドとしての認知度が一般国民の間で高まりつつあるといえる。
また、ロールス・ロイスのデザインダイレクターであったジャイルズ・テイラーが、2018年に第一汽車のグローバルデザイン副社長兼チーフクリエイティブオフィサー(CCO)として抜擢されている。
テイラーは第一汽車がミュンヘンに新設したデザインセンターのトップとなり、第一汽車の多くのクルマの統一デザイン化を行なうとともに、紅旗ブランドのデザインを担当している。
2020年に発売されたH9などは、ジャイルズ・テイラーの影響が反映されており、BMW5シリーズ、メルセデス・ベンツEクラスのライバルとされる一方で、インテリアなどはロールスロイスに匹敵するレベルのラグジュアリーカーに仕上がっており、中国の富裕層に十分アピールできるレベルに達している。